第31話 試練の始まり

「みいぃぃぃなさんお待ちかねえぇぇぇぇぇっ! いよいよ『エレメンタラー試練の儀式』の時間がやって参りましたあぁぁぁぁっ!! みんな~、エレメンタラーになりたいかーっ!?」


「オォーッ!!」


 どっかで見たような司会者が煽ると、開会式の会場に整列した参加者たちが拳を突き上げて応える。もちろん俺たちもやってるぞ。こういうノリは嫌いじゃないからな。足元のスーラも俺たちに合わせて大きくふにょんとうごめいている。こいつもノリノリだな。


「う、ウルトラクイズ……何故なにゆえ……」


 クミコだけは何やら不審そうに首をひねってるけど、つぶやいてる内容はよくわからんな。いろいろと怪しい知識を持ってるから、何か気になることでもあったのかな?


 会場を見回してみると、何というかもの凄く「ローカル村おこしイベント」的な雰囲気だったりする。


 麗々しく「エレメンタラー試練の儀式」と書かれた幕が張ってあるが、場所はただの村の運動場だし、会場の周囲には「おいでませエルメ村」と書かれた観光案内のパンフレットだけお座なりに置いてある屋台とか、「エルメ村特産おいしいエルメ焼き」とか言いつつ中身は何の変哲もないお好み焼きの屋台とか、「エルメ村名物エレメンタラーまんじゅう」とか書かれている割には中身は帝都で売ってる有名店のOEM品で包装紙だけが違う土産物が並んでいたりする。


「何か会場の野暮ったさに司会者だけそぐわないんだが」


 俺がボソッと漏らすと、すぐ後ろに並んでいたアイナが小さな声で事情を説明してくれた。


「これねえ、四年前の試練の儀式のときには、村の外から帰ってきていた元冒険者のアドバイスで会場の飾り付けとか演出とかもセンス良くやろうってことになって色々準備したのよね。ところが、実際にやってみたら中途半端に最新流行を追おうとしたもんだからスベって、かえって『痛い』雰囲気になっちゃったのよ。それで、今回は司会者の人だけ呼んできて、会場の飾り付けとかは前みたいに戻したんじゃないかな」


「なるほど……」


 そんな風に俺たちがボソボソと話している間にも、司会者の人はわかりやすくルールを説明していた。


 もっとも、参加者には当然ルールは事前説明されているから、これは観客席で見物している観光客向けの説明なんだろうけど。


 ルール自体は単純。パーティーごとに『大精霊の迷宮』に入って迷宮の踏破を目指すだけ。ダンジョン最奥部のボス部屋では七属性のどれかのエレメンタルがランダムに現れる仕組みになっていて、それを倒すとエレメンタラーに転職できるようになるアイテム「エレメンタラーの宝珠」が手に入るってわけだ。


 ダンジョン自体の出入りは自由なんだが、このダンジョンは一度外に出ると内部構造が変わってしまうので、マッピングを一からやり直すことになり、かなり効率が悪い。エレメンタラーは七体しかいないので早い者勝ちになる。戻っている暇は無いだろう。


 ルール説明が終わると、さっそく試練の儀式の開始……にはならない。


「えー、本日はお日柄も良く、我がエルメ村の伝統行事にこれほど多くの参加者と観客の皆様をお招きできましたことは、誠にもって慶賀の至りでございまして……」


 あるんだよ、村長の長々とした挨拶とか、来賓の祝辞とか。立ち並んでいる冒険者も観客もげんなりしてるけど、当の村長は全然気にもせずに延々と話してるんだな。俺の足元のスーラもべちゃっと平たく潰れた感じになって、げんなり感を表現している。


 さすがに来賓の方は近隣の大きな町の冒険者ギルド支部長とかだけあって、空気を読んで手短に済ませてくれたけどな。あと、このあたりを治める自治領代表からのお祝いの手紙の代読なんてのもあった。


 まあ、そういうげんなりする一幕を挟んで、いよいよ儀式が開始される。


 合計十三組のパーティーが、順番にダンジョンの入口から入っていく。ウチは最後の飛び入り参加だったから十三番目なんで少し待たされているが、大した時間じゃない。いくら早い者勝ちと言っても、この程度の時間差ならば大きな不利にはならないだろう。


「お先に失礼するぜ」


「ああ、お互い頑張ろう」


 ケネスたちとは会場入りするときに軽く挨拶をしていた。あっちが先に入るのでエールを交換する。


「アイナちゃんも頑張ってね」


「ホリーねえも気をつけてよ。ウチは少なくとも戦闘は大丈夫なんだから」


 アイナが、幼なじみというホリーって精霊使いシャーマンを送り出していた。


「サスケ殿もお気をつけて」


「オリエなら心配いらぬと思うが、そなたも気をつけよ」


 オリエが挨拶しているニンジャ装束の人が、ホリーさんの旦那のサスケって人らしい。ホリーさんより二~三歳くらい年上だけど、この人もなぜか服がピンク色なんだよなあ。謎すぎるぞモモチ一族。


 彼らがダンジョンに入るのを見送ると、残りは三組くらい。俺たちの順番も近くなったので、入る準備をする。っても、俺が自分の密偵の片眼鏡スカウトモノクルの上に重ねる形で、外付けカメラと送信機が付いたオプションシステムを追加装備したくらいだけどな。密偵の片眼鏡スカウトモノクルの外付けオプション用の端子にカメラから出ているケーブルを接続する。これで俺の密偵の片眼鏡スカウトモノクルの情報がカメラにも送られる。俺の兜は面が付いてるフルフェイス型じゃなくて頭頂部と後頭部だけを守る形のやつだから、この程度のオプションが付いても戦闘の邪魔にはならないしな。


 これは別に儀式の途中で不正が行われないか監視するためのものじゃない。単に観客にダンジョンの中の様子を見せるためのものなんだな。会場の運動場には仮設の大きなスクリーンが設置されていて、プロジェクターってマジックアイテムでカメラの映像が投影されている。


 今は、既に入っているパーティーのリーダーが付けているカメラの映像がランダムで投影され、スクリーン隣のスピーカーからは会話が流れてきている。こうやってイベントとして楽しもうってワケだ。


 お、早くも何か戦闘が始まったみたいだな。っても、スケルトンみたいな雑魚が相手だと、この試練に参加できるパーティーなら楽勝だろう。


 さて、残り二組……となったところで、俺たちの前に入るはずだったパーティーのあたりで、何やら騒ぎが起こっていた。


「何だこいつは!? 何で勝手にパーティーを組んでおるのだ!」


「お祖父さま、あの……」


「ミーネよ、お前はエルフの優秀さを証明せねばならんのだぞ! 何でヒューマンの男なぞの助けを借りておるのだ!!」


 激昂しているのは、この前からんできたヘルベルトって男だった。その前には清楚な印象を与える白いワンピースの上に革の胸当てや篭手など最低限の防具を着けたエルフの少女……じゃないかもしれないが……が立っている。見た目から年齢わからないからなあ、エルフって。どうやら、彼女がヘルベルトの孫らしい。


「この人か、ミーネの祖父さんってのはっ!? 確かに頑固そうだなっ」


「ごめんなさい、マサト……」


「かまわねえよ、オレがお節介してるだけなんだからなっ。おい爺さん、いくらミーネが優秀な精霊使いシャーマンだからって、ひとりでダンジョンに挑むのは無謀だぜっ。前衛が必要だろう? オレのパーティーなら、その前衛として充分に働いてくれる頼もしい仲間がいるんだからなっ!」


 エルフの少女ミーネにマサトと呼ばれた俺と同年代くらいの黒目黒髪の男は、そう言いながら自分の後ろに立っていた大勢の人影の方を手で示す。


 大勢ってのは誇張じゃない。見たところ二十人以上の人が立っているんだ。おいおい、ウチのパーティーの八人も冒険者パーティーとしては最大級だと思ってたんだが、それが二十人以上ってどんな大所帯なんだ!?


 ただ、全員がえらく小柄だったりはする。せいぜい十歳くらいの子供程度の背丈しかない。それが全員、頭からマントをかぶって顔の前まで覆って目だけを出した状態にしている。何なんだ、この怪しい集団は?


 そう言われてヘルベルトも初めて気付いたんだろう。目をむいて怪しい集団を睨むと、マサトって男に向けて怒鳴った。


「何だこいつらは!? 確かに前衛は必要かもしれんが、こいつらは小柄で全然頼りになりそうもないではないか!」


 それを聞いたマサトは、フフンと鼻で笑うと、胸を張って大きく仲間たちの方に右腕を振りながら大声で見得を切った。


「よくぞ聞いてくれたっ! 問われて名乗るもおこがましいが、オレたちこそが史上最強のAランクパーティー『ゴブリンテイマーズ』だっ!!」


 それと同時に小柄な人影が一斉にマントを引き抜いて素顔を日光にさらす。ゴツゴツとした浅黒い肌、落ちくぼんだ目、大きな鼻、鋭い犬歯が口元から生えている口、そして額には小さな角……


 それは正に、スライムと並んで最弱モンスターと呼ばれている「ゴブリン」の大集団だった。

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