第26話 俺たちの戦いはこれからだ!
「……嘘、でしょ?」
アイナが呆然と日間ランキング表を見上げていた。いや、アイナだけじゃない。俺だって口を半開きにしてマヌケ面をさらしているはずだ。ほかのみんなも、全員声が出ない状態になっている。
日間総合ランキング表、第一位……「スライムサモナーズ」!
つい先日Aランクに上がったばかりだというのに、いきなりトップになっちまうとは、一体どういうことだ?
「何をボケーッと眺めてやがる……って、日間一位かよ! 当然ではあるが、やっぱり凄えな」
声をかけられたので振り返ってみると、サーシェスたち山歩き愚連隊のメンバーが立っていた。
「当然って?」
思わず問い返してみたら、呆れたような顔になって答えてくる。
「あんたなあ、一日でワイバーン二頭とレッサー・ドラゴンを倒したら、普通は貢献ポイントでトップに行くだろ。下級とはいえ竜種三頭だぞ」
「あ、ああ、そうか」
そう言われれば、そうなんだよな。何か実感してなかったけど。
「それより、オレたちは
「え?」
全然心当たりがなかったので、思わず問い返したところで、横合いからギルド職員に声をかけられた。
「すみません、スライムサモナーズの皆さんですね。支部長がお呼びですので、ギルド長室まで来ていただけませんでしょうか」
「何だ、今呼ばれたところか。それじゃあ一緒に行こうぜ」
「あ、ああ。わかった」
サーシェスに誘われたので、ギルド職員にうなずくと、全員で連れだって前に行ったことがあるゲペック冒険者ギルドのギルド長室に向かう。
「お呼び立てして申し訳ございません。まずは、席におかけください。スライムサモナーズと山歩き愚連隊の皆様には、昨日の件について、お話がございます」
コリウス
「昨日、皆様が発見した魔法陣についてですが、反帝国テロリストの仕業であると断定されました。今後は第一級最高機密
「いきなりヘビーな話だな。まあ、あんなこと他人に漏らす気はないけど」
「オレたちも捜索依頼がメインの仕事をしている関係上、口は堅いんだ。そっちは心配しないでくれ」
俺が言うと、サーシェスもすぐに同調する。
「くれぐれもご注意をお願いいたします。冒険者ギルドとしても腕利きのAランク冒険者パーティーや山岳捜索特化のBランク冒険者パーティーを失いたくはないので」
「あれ、Bランクに昇格したのか?」
ギルド長の話を聞いて、俺はサーシェスの方を見て尋ねる。
「ああ、昨日のは合同捜索依頼だったろ? お前らの竜種三頭討伐の貢献ポイントのおこぼれで、オレたちもBランク昇格だぜ。直接討伐には関わってないのに、Cランクのトップを取れるだけの貢献ポイントを貰えたからな」
「そいつは良かった。おめでとう」
思わずサーシェスたちを祝福する。こいつらも俺たちと同じような元パーティー追放経験者だから報われて欲しいんだ。
そんな俺たちの会話を見ていたギルド長だが、コホンとひとつ咳払いをして注意を促すと、話を再開する。
「それで、この反帝国テロリストについて、皆様には情報開示をしておこうと思います。といっても、スライムサモナーズの皆様については、既に『神託』があったとご報告をいただいておりますので、おわかりのことだとは思いますが」
そう、実はスライミースライマーからの神託については、昨日冒険者ギルドに帰ったあとで、通常の依頼結果報告とは別にギルドに報告していたんだ。
「情報開示? 神託?」
不審そうなサーシェスだったが、次のギルド長の言葉を聞いて、顔をこわばらせた。
「今回の反帝国テロリストですが、背後には『異世界人』が存在すると考えられます。実行犯自身が異世界人かどうかは別にして、帝国転覆を企んでいるのは、この世界の住人ではなく、異世界からの侵略者だとお考えください」
「異世界人だと!? あの『異世界ニホン人』みたいな連中だってのか!?」
「そうです。強力なスキルや、この世界の文明水準を上回る高度な技術や知識を持っている可能性があります」
「何てこった……」
そう言って絶句するサーシェス。当然だろうな。俺たちもスライミースライマーから聞いてなかったら、同じ反応をしただろう。
「最高機密AAAに指定された理由がおわかりいただけたかと思います。このような情報が世間に漏れたら、大混乱の元になります。秘かに対応する必要があるのです」
「ああ、わかったぜ……って、リョウたちは全然驚いてねえな。そういや『神託』ってのは何だ?」
サーシェスが聞いてきたので、簡単に答える。
「前にスライムの女神ってのに会ったことがあるんだよ。レインボゥに初めて合体したときにな。その際に、異世界からの侵略に対抗しろって言われたんだ」
「なるほどな。あんたらのスライムの
納得した様子のサーシェスたちを見て、ギルド長は話を続ける。
「スライムサモナーズの皆様以外にも、さまざまな神々から神託を受けた者たちがおります。それらの報告は帝国政府に上げられており、帝国政府も重要視して既に秘密対策本部を設置しています。また、帝国軍と帝国情報局、それに冒険者ギルドから精鋭を選りすぐった対策部隊もつい先日発足いたしました」
そこで一度言葉を切ると、俺たち全員を見回してから改めて宣言した。
「皆様は、その対策部隊に所属していただきます」
「何だって!?」
「やっぱりか」
驚くサーシェスとは違って、俺の方はそうなることを昨日の時点で予想していた。情報を外部に漏らせない以上、知っている者は最小限にとどめた方がいい。なら、一定以上の腕があれば対策部隊に抜擢されるはずだ。
「だけど、四六時中拘束されているわけじゃないよな?」
俺が確認すると、ギルド長もうなずいて答える。
「はい。現時点では異世界からの侵略は水面下で秘かに行われています。皆様のような冒険者を常時拘束して働いていただくというわけには参りません。そこで、皆様には普段は冒険者として通常の活動をしていただきますが、非常時には対侵略者用の緊急指名依頼を優先で受けていただくという形で対策部隊に参加していただくことになります。その場合、緊急指名依頼を受ける前に受けていた通常の依頼の破棄について
「まあ、妥当なところだろうな」
「異世界からの侵略と聞いちゃあ、従わないわけにはいかないだろうよ」
俺がギルド長の説明にうなずくと、サーシェスも同意する。ほかのみんなも納得したようにうなずいている。
それを見たギルド長が、机の上に置いてあったカードを取って俺たちに配布する。
「これは!」
「対侵略者機動部隊『TAI』……『
「わかった」
「こいつは凄えな」
俺はうなずいただけだったが、与えられた権限の大きさにサーシェスは驚いているようだ。
「それでは、今後ともよろしくお願いいたします」
話が終わったようなので全員で立ち上がってギルド長に一礼すると部屋を退出する。
「それじゃあまたな」
「ああ、またどこかで会おうぜ」
そうサーシェスと挨拶して、山登り愚連隊とは分かれてギルドを出ると自分たちの宿に向かう。
このゲペック滞在中に使っている
既に遅めの時間になっていたので、夕食のほかに酒とつまみを注文してから、改めてみんなに向き直って、口を開く。
「今回Aランクの日間ランキングでもトップに立った。俺たちは名実ともに冒険者パーティーの頂点に立ったんだ。だけど、これが終わりじゃない。あの駄女神に頼まれた『スライムを認めさせる』ことは全然達成できていないし、今回ギルドからも正式に『例のこと』も頼まれるようになった」
そこで一旦言葉を切って、あらためてみんなに問いかける。
「これから先は、レッサー・ドラゴンとの戦いよりも、更に厳しい戦いが起きることも予想される。今まで以上に命がけの状況になることも増えるだろう。だから、改めて聞きたい。俺たちは、もうリベンジは果たした。名声も得た。ある程度の金も貯まっている。それでも、これから先もみんなで一緒に戦っていこうって気はあるか?」
「あったりまえじゃない! 今更抜ける気はないわよ!! あたしはリョウと一緒に最初にスライムサモナーズを作ったんですからね」
ルージュを抱いたアイナが真っ先に返事をする。それに賛同するようにルージュもふにょんと大きくうごめいた。まあ、当然かな。俺もこいつは最後まで一緒にいてくれるだろうと思っていたから。
「ボクも抜ける気はないよ。ウインドも結構強くなったけど、レインボゥほど強くはないからね。ボク自身も、改めてもっと強くなりたいと思っているし。このパーティーにいれば、さらなる上を目指すことができそうだからね」
ウインドを膝の上に乗せたイリスがキリッとした顔で言い、ウインドもふにょんとうごめいて賛意を表す。イリスはうちのパーティーで一番頭がいい、言わばパーティーの頭脳だ。これからもその知謀を活かしてくれるのはありがたい。
「もちろん一緒ですぅ。せっかく仲良くなれたんですぅ。これからもみんなと一緒に冒険したいですぅ!」
ウェルチがマリンをなでながら、いつもどおりのニコニコした癒やし系の笑顔で、だがハッキリと自分の意志を伝える。マリンもふにょふにょと、うなずくようにうごめく。ウェルチはうちのパーティーの戦闘時の
「いまさら一族の元に戻るつもりは無いでござるよ。イリス殿もおっしゃっていたように、拙者のクレイを更に育てるにも、このパーティーは最適でござるし」
頭の上にクレイを乗せたオリエがキッパリと自分の意見を述べる。クレイもふにょんふにょんと同意を示している。オリエは戦闘能力もさることながら、その探索能力や罠解除の技術がウチのパーティーには欠かせないんだ。戻る先があるのに残ってくれるというのは泣けるほど嬉しいことだ。
「愚問。ここが私とビアンカのいる所」
肩の上にビアンカを乗せたカチュアが、いつも通りの無表情で無感情な口調ながらも、しっかりと自分の思いを口に出す。ビアンカはピカッと一瞬光って賛成であることを表す。カチュアの守りがなければ、火竜戦はともかくワイバーンやレッサー・ドラゴンとの戦いでは間違い無く死者が出ていただろう。これからも一緒に戦えるというなら、これほど安心できることは無い。
「ヲーッホッホッホッホ! このあたくしともあろう者が、どうして逃げなくてはいけませんの? ソレイユちゃんと一緒に最後までお付き合いいたしますわよ!」
縦ロールを揺らして高笑いしながらキャシーが断言する。机の上のソレイユも、そうだそうだと言うように、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。キャシーの弓術は、常にウチのパーティーで先陣を切ってきた。彼女が先制攻撃をしてスライムたちが合体する時間を稼いでいるんだから、いなくなられたら本当に困るところだった。
「クックック、我なくしてこのパーティーが成り立つと思うのか。安心せよ、我が魔術もノワールも、常に
ローブの懐からノワールをのぞかせたクミコが、不気味に含み笑いをしながらボソボソと、しかし明確に己の考えを明らかにする。クミコの胸元でノワールもふにょんとうごめいて、同じ思いだと伝えてくる。クミコの黒魔術は攻撃だけでなく防御にも、敵の
全員抜ける意志がないことを確認した俺は、あらためて全員に向かって言った。
「ありがとう。俺も、冒険者を続ける限りは、このパーティーでみんなと一緒に戦って行きたいと思う。特に、今回依頼された件については厳しい戦いになると思うが、みんなで心をひとつにして、力を合わせて乗り越えていこう」
そして、みんなの前に右手を下に向けて開いて突き出す。
その上に、アイナが、イリスが、ウェルチが、オリエが、カチュアが、キャシーが、クミコが、それぞれの右手を重ねていく。それに合わせるように心を重ねて、俺たちは口を開く。
「俺たちの」
「あたしたちの」
「ボクたちの」
「わたしたちの」
「拙者たちの」
「私たちの」
「あたくしたちの」
「我らの」
それから完全にハモって全員で気合いを入れて宣言した。
「「「「「「「「戦いはこれからだ!」」」」」」」」
それに合わせるように、スーラが、ルージュが、ウインドが、マリンが、クレイが、ビアンカが、ソレイユが、ノワールが、それぞれふにょんと大きくうごめいたのだった。
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お読みいただきまして、誠にありがとうございました。
第一部はこれで終了です。
何だかもの凄く打ち切りくさいセリフで終わってますが(笑)、まだまだ終わりませんよ。
カクヨムコン応募の区切りをつけるために一度完結設定にはいたしますが、これはあくまでも第一部完ということです。
何しろ、今のままでは全然ハーレムになっておりません(笑)。
看板に偽りありとなってしまいますので、第二部からはいよいよハーレム目指して奮闘という形になっていきます。
第二部の開始は3月中を予定しておりますので、今しばらくお待ちください。
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