第19話 謎のワイバーン調査指令

「「「「「「「Aランク!?」」」」」」」


 みんなの声がきれいにハモってロビーに響き渡った。まあ、こういう反応になるのはわかるけどな。


「そうだ。特例でAランク昇格だ。帝都のギルド本部も認めた公式の昇格だぞ」


 俺の言葉を聞いて、最初は呆然としていたみんなの顔に喜色があらわれる。


「やった、勝った!」


「予想以上に早かったね」


「やりましたですぅ!」


「感無量でござる」


「歓喜」


「ヲーッホッホッホッホ! あたくしたちのレインボゥの実力からすると当然の結果ですわ!」


「クックック、見る目無き蒙昧もうまいなる者どもよ、我らの力を思い知ったか……」


 喜ぶみんなに、ひとつ尋ねることがある。


「なあ、俺は前のパーティーに戻って来ないかって誘われたんだが、お前らはどうだ? あ、もちろん断ったぞ。今更Cランクのパーティーに戻る必要なんかこれっぽっちも無いしな」


「特に無かったわ。誘われたって戻る気も無いけどね」


「そうだね、ボクにも無かった」


「わたしは誘われたけど断ったですぅ」


謝絶しゃぜつ


「拙者も、一族からの追放は解除されたのでござるが、このパーティーを抜ける気はござらん」


「ヲーッホッホッホッホ! あの愚物どもはあたくしの顔を見るだけでコソコソと逃げ出しましてよ!!」


「我に合わせる顔など無いのであろう」


 ウェルチ、オリエ、カチュアは誘われたけど断って、残りは誘われもしなかったのね。


「オッケーだ。せっかくAランクになったことだし、このメンバーで更に上を目指して頑張ろう!」


「「「「「「「「オーっ!!」」」」」」」」


 Aランクは最高ランクなのでこれ以上の昇格は無いが、Aランク内でも格差はある。日間ランキングなどのトップと底辺じゃあ扱いが違うんだ。Aランク内のトップランカーともなれば、帝国貴族や各地の王侯にだって一目置かれるくらいの存在になるし、民衆からは偶像アイドルとして憧れの目で見られることになる。


 これからは、そういうトップランカーを目指して頑張っていこう。そう全員で気合いを入れたところに、ひとりのギルド職員が近寄って声をかけてきた。


「スライムサモナーズのみなさんですね。ギルドからお話があるので、ちょっと来ていただけませんか?」


「お、Aランク昇格のことについてか?」


「それもありますが、ほかにも少々お話がございます」


 ほかの話ってのは何だろう? みんなと顔を見合わせると、とにかく職員のあとについて行くことする。


 ギルド職員に案内されて廊下を進んでいくと、いくつかある会議室を通り過ぎて、さらに奥の部屋のあたりまで来る。おいおい、ここってまさか……


「ギルド長室じゃないか。ギルマス直々のお呼び出しってことか?」


「はい、支部長から直接お話があるそうです」


 ギルド長室に入ると、俺はここ数日で何回か顔を合わせたゲペック支部のギルド長であるコリウス氏が待っていた。


「お待ちしておりました。スライムサモナーズの皆様、Aランク昇格おめでとうございます。単刀直入に申しましょう。その実力を見込んで、皆様に依頼がございます。ギルドからの指名依頼とお考えください」


「指名依頼?」


「はい、東ゲペック山の追加調査の依頼です。場合によってはワイバーンと戦うことになります」


「ワイバーン!?」


 思わず驚きの声が出た。ワイバーン。飛竜とも呼ばれる風属性の竜種で、主に空を飛んで獲物を捕獲している。火竜と同じく竜種としては下級ではあるが、高速で飛行できることから、その危険度は火竜を遥かに上回る。


 驚いた俺に、ギルド長はうなずいて答える。


「東ゲペック山を追加調査していた山歩き愚連隊が飛行中のワイバーンを発見しました。その時点で山歩き愚連隊はワイバーンからは発見されていなかったので、即座に待避してテレポートの魔法で街に帰還して報告したのです。それが、つい先ほどのことになります」


「それで、追加調査をすると?」


「はい。火竜が二匹も現れたことに加えてワイバーンまで出現したとなると、明らかに異常事態です。調査する必要があります。ワイバーンの飛行速度からすると、この街へ襲来する恐れもありますが、幸いにも火竜討伐のために他所から動員された帝国軍巡検隊がまだ帰還しておらず、現在この街には二部隊の巡検隊が駐屯中です。ワイバーンが襲来しても撃退は可能と考えられます。そこで、現在我がギルドで最強の戦闘力を持つ、あなたがたスライムサモナーズにワイバーンの調査を行って欲しいのです。調査期間は一週間になります」


 なるほど、ギルド側の意図はわかった。だけど、ひとつ問題がある。


「我々のパーティーにはレンジャーがいないので、山岳捜索には不安があるんだけど?」


 元ニンジャのオリエがいるから絶対に不可能とは言わないが、ニンジャの本領は都市部での探査活動にある。野外での探査活動については本職のレンジャーには劣る。


 そんな俺の懸念に、ギルド長はうなずいて答えた。


「その点については、山歩き愚連隊が同行します。合同依頼となりますが、総リーダーはリョウ様にお願いします」


 なるほど、山歩き愚連隊とは一度行動を共にしたことがある。彼らと一緒なら安心だ。だけど、二パーティーをまとめるリーダーが俺でいいのか?


「総リーダーは俺なのか? 山岳捜索の経験は無いんだが」


「はい。合同パーティーの総リーダーは高ランクパーティーの先任リーダーが勤める規定ですので。スライムサモナーズは既にAランクですから」


 そうだった。もう俺って、大抵の合同パーティーだと総リーダーを任される立場なんだよなあ。


 そんな風に考えている俺を見て、ギルド長は言葉を続ける。


「山歩き愚連隊は山岳捜索のベテランです。彼らの『助言』を聞いて判断するのが、あなたの仕事になります」


 なるほどね。実際の捜索活動中は、山歩き愚連隊に主導権を渡してもいいってことだな。まあ、その結果に対しての責任は俺が取ることにはなるが。


「わかった。目的は調査であって討伐ではないんだな?」


 この点については、しっかりと確認しておく必要がある。何しろ、相手はワイバーンなんだ。戦闘になってもレインボゥがいる限り負けることは無いが、高速で飛行できるワイバーンに逃げられたら、追撃する手段がこっちには無い。討伐依頼だと失敗する可能性が高いんだ。


「はい。ただし戦闘になる可能性は高いので、その点は覚悟しておいてください」


 それから、報酬金と貢献ポイントについての説明を受ける。一週間の捜索でワイバーンを発見できなかったとしても依頼失敗にはならないという条件なので、依頼自体の報酬金や貢献ポイントはそれほど高くないが、ワイバーンを倒せたらその分の報酬金や貢献ポイントが上乗せされるから悪い依頼じゃないな。


「了解した。それじゃ、受けるけどいいな?」


「いいわよ。今度はワイバーンも倒しちゃいましょ」


「調査なら問題ないね」


「大丈夫ですぅ」


「偵察は得意でござる」


「承諾」


「ヲーッホッホッホッホ! 山歩きは好きではありませんけど、ほかのパーティーではワイバーンの相手などできないでしょうから、しかたありませんわね」


「クックック、我らに頼らざるをえないのであれば、やむを得まい」


 全員賛成のようなので、指名依頼を受けることにする。


 さっそく携帯食料や野営のための道具を補充してから街の外に向かうと、先日も一緒に行動したばかりのサーシェスたち山歩き愚連隊のメンバーが待っていた。


「おう、Aランクに昇格したってな、おめでとう」


「ありがとう。とは言っても山岳捜索は専門外だから頼んだぜ」


 サーシェスにも祝福されたので答えながら、一緒に東ゲペック山を目指して歩き出す。


「で、ワイバーンってのは、どのあたりで見かけたんだ?」


「お前らが火竜を倒した南の沢の少し上流の方だった。ただ、スピードが速いから、今も同じ所にはいないかもしれんが」


 そんな会話をしながら、まずは目撃地点の周辺まで移動する。やっぱり、ワイバーンは既にその周囲にはいなかった。


 夕暮れ近くまで捜索を続けたものの、結局手掛かりになるような発見は何も無かったので山中で野営することにする。


「何日くらい野営することになるかな?」


「連続で野営すると、お前らは体力が持たないだろう。この山は大して高くないから、明日には山頂まで行ける。そのあたりまで捜索したら、一度街に戻って一晩休んで、明後日からは別の方角から捜索を再開しよう」


 インベントリからテントなどの野営道具を取り出しながらサーシェスに尋ねると、そんな風に答えが返ってきた。


「そう言ってくれると正直助かる。ウチのパーティーは日帰り討伐が多かったから、野営はこれが初めてなんだよな」


 とはいえ、全員が前のパーティーで野営は何度も経験しているから、野営の準備自体はテキパキと終わる。


「それじゃあ、見張りはどうする?」


「こっちは全員が『探知』と『暗視』のスキルを持ってるから、四交代で最低ひとりは見張りに立つ。そっちはどうだ?」


 おお、さすが山歩き愚連隊の名前は伊達じゃないな。密偵スカウトやレンジャーのスキルである「探知」は罠や敵の気配を察知することができるし、「暗視」は暗がりでも視界を確保できる。ウチのメンバーだとオリエは習得しているな。


「ウチは『探知』や『暗視』は元ニンジャひとりしか持ってないんで、気配を探るのは任せる。敵襲に備えて防戦要員として二人ずつ四交代で起きていることにするよ」


「二人ずつ四交代ができるってのは、人数が多いパーティーならではだな」


 そう、人数が多いと個人の取り分が減るかわりに、こういう場面では役立つことが多いんだ。


「それじゃあ、起きている組を決めようか。前衛と後衛でそれぞれ組むことにしよう」


 みんなに声をかけて番をするコンビを組むことにする。前衛が俺、イリス、カチュアと一応近接戦闘ができるオリエになるかな。


「あたくしは夜間に山中の戦闘となると戦闘力が激減しますわよ。闇夜に障害物の多いところで矢を撃っても当たりませんもの」


「それなら拙者と組むでござる。拙者は夜目も利きますゆえ」


 よし、夜間戦闘が苦手なキャシーは、一番得意なオリエと組んでもらおう。


「ボクは積極的に切り込むタイプだから、回復役が欲しいな」


「それでしたら、わたしが一緒に番をしますぅ」


 確かにイリスとウェルチで組むのは悪くないな。


「我の攻撃魔法は撃つまでに少し時間がかかる。その時間を稼ぐのにはカチュアと組むのが最適であろう」


「了解」


 クミコとカチュアというのも妥当なコンビだろう……会話ははずみそうもないけどな。


「じゃあ、消去法であたしとリョウね」


「どっちも万能型だから悪くはないだろう」


 俺とアイナだと二人とも決め手には欠けるんだけど、みんなが起きるまでの間に敵を迎撃するだけの時間稼ぎなら問題はないはずだ。


 というわけで、夕食後には交代で番をすることになった。

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