第18話 リベンジの終わり
火竜討伐から三日後、俺たち討伐戦に参加したパーティーのリーダーは前と同じようにゲペック冒険者ギルド支部の会議室に呼ばれていた。
「今回の火竜討伐についての賞罰を発表します。まず、
前に立っているギルド長が淡々と告げるが、罰ってのはどういうことだ?
「Bランクパーティー『
「クッ……」
「なぜだ!?」
唇を噛んでこらえるエリカとは対照的に、
しかし、テリーの
「あなたがたが、討伐隊総リーダーであるハンゾー氏の指示に従わなかったからです。ハンゾー氏は様子見のために攻撃をしないよう指示していました。しかし、あなたがたは勝手に先制攻撃してしまった。そのため、動かずにいた火竜がゲペックの街を目指して動き出すという事態となりました。今回の緊急依頼の目的は、本来は帝国軍の増援が到着するまでの時間稼ぎであったことから、依頼の完遂に不適切な行動を取ったということで罰が与えられます」
「うぐ……」
理路整然と説明されたことで、テリーもそれ以上は反論できずに引き下がる。ちなみにハンゾーというのはモモチ一族第一分隊のリーダーの名前だ。オリエの叔父さんだな。
「次に報酬についてです。東ゲペック山南側で討伐された火竜については、単独パーティーによる討伐ですので、討伐報酬金および貢献ポイントはスライムサモナーズに与えられます。また、緊急指名依頼完遂の特別貢献ポイントも与えられます。今回与えられた貢献ポイントにより、スライムサモナーズはBランクに昇格します」
ギルド長がそう発表すると会議室内が大きくざわめき、参加者たちは俺の方を見る。まあ、当然の結果ではあるが、なかなか気持ちがいいな。それにしても、Cランクに上がったばかりなのに、いきなりBランク昇格か。なかなか無いことだぞ、これは。
「お静かに。次に東ゲペック山北側で討伐された火竜についてです。こちらの報酬金については当初から討伐隊に参加していたパーティーに加えて、あとから参加したスライムサモナーズも合わせた全パーティーによる均等割で支給されます。それから、貢献ポイントについては、討伐ポイントは先に
再び会議室内がざわめくが、今度は俺も疑問があるので挙手してギルド長に尋ねる。
「ウチに緊急指名依頼完遂の貢献ポイントがつかないのは、先に既に南側の方の火竜討伐で完遂という扱いだからなのか?」
「いえ、違います。スライムサモナーズについては、今回の火竜討伐における貢献度が非常に高かったため、緊急指名依頼完遂による貢献ポイントではなく特別貢献ポイントを与えることになりました。これにより、スライムサモナーズはAランクに昇格します」
え……えええっ!?
「え、Aランク?」
思わず問い返した俺に、ギルド長はにこやかに笑って答える。
「はい。あなた方スライムサモナーズの実力は既にその域にあると当ギルドでは判断いたしました。帝都のギルド総本部も当ギルドの判断を支持したので、これは決定事項となります。おめでとうございます」
パチパチパチ……
誰かが拍手をしていた。その音の方を見やると、ケネスが拍手をしながら言った。
「おめでとう」
口調や表情から、冷やかしの意図など無い、純粋な賞賛の言葉だと分かる。
「おめでとう」
これはハンゾーさんだった。彼もまた拍手を始める。ほかの者もそれに加わり、やがて会議室内の全員が俺に向けて祝福の言葉を贈り、拍手を始めた。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言ったんだが、思わず丁寧な口調になっちまったよ。
その後、ほかのパーティーの昇格なども発表され、みんなで同じように拍手と祝福の言葉を贈った。
それで解散になったので、俺は会議室を出たエリカのあとを追って廊下で声をかけて、人のいない方に誘う。
「エリカ、ひとつ聞いていいか?」
「何だ、リョウか。何が聞きたい?」
「どうして命令無視なんかしたんだ? お前らしくないぞ」
俺の知るエリカは効率重視ではあるが四角四面の生真面目な女だった。およそ命令を無視して暴走するようなタイプじゃなかったんだが。
「それをお前が言うか」
憮然とした表情で答えるエリカ。
「え、どういう意味だ?」
「お前が自分のパーティーなら火竜を倒せると豪語して、ギルドまでそれを認めたからに決まっているだろうが!」
「は?」
マヌケな顔をしている自覚はあった。そんな俺を見ながら、エリカは忌々しげに言葉を続ける。
「単独で火竜を討伐すれば、それだけでBランクは確実だ。追いつかれる。そう考えたら居ても立ってもいられなくなったのだ。そんなときに、火竜の
そう言ったあと、今度は苦笑してから自嘲するように口調を変えて話を続ける。
「もっとも、その考えは甘すぎたのだがな。下級種とはいえ、さすがに竜種だった。我々の攻撃なぞ大して効きはしなかったのだ。火竜を相手にするにはBランク相当の冒険者が数十名必要というのは本当だったのだな」
「そうか……」
俺は相づちを打つことしかできなかった。そんな俺を見て、エリカは苦笑いを浮かべて言った。
「結局、お前を追放したのは大間違いだったということだ。スライムのことは置いても、お前が居なくなったあとは、個人の取り分は増えたが、パーティーとしての戦闘効率が明らかに落ちた。ここぞというときのサポートが無いことが戦闘の際のストレスとしてメンバー全員に積み重なっていたんだ。そして、普段のパーティー運営でも、お前に助けられていたことが、いなくなって初めてわかった」
そう言われて、彼女と過ごした二年間の思い出が、走馬燈のように俺の脳裏に蘇ってきた。成人の儀式の会場で初めて会ったときのこと。ソーニャたちと一緒にパーティーを結成したときの思い。初めてモンスター討伐に成功したときに一緒に喜び合ったこと。初めて討伐に失敗して必死で逃げたときのこと。うっかり着替え中だった宿の部屋に入ってしまって、ひっぱたかれたこと。彼女が
エリカは、今日は鎧を着ていないから、服の上からでも、その巨乳が思いっ切り存在感を主張している。そんな胸の前で手を祈るように手を組んで、少し潤んだ目で俺の目を見つめると、彼女は小さな声でささやいた。
「なあ、戻ってきてくれないか? 私自身が、お前を失って初めて気が付いた。私は、本当はお前のことが……」
「悪い」
俺はすべてを聞く前にエリカの言葉を遮った。
「今の俺には、かけがえの無い仲間たちと、頼もしい相棒がいるんだ」
そう言って、後ろを向く。背中からエリカが息を飲む音が聞こえた。
「……そうか……そうだろうな。
俺は、エリカに向き直ると、右手を差し出しながら別れの挨拶をした。
「じゃあな、またどこかで会うこともあるだろう。みんなにもよろしく」
それを見たエリカは、一瞬ためらったあと、俺の手を握って言った。
「ああ。さらばだ」
和解と別れの握手を残して、俺たちはそれぞれのパーティーメンバーが待つ方へ、己の未来へと向かって歩き出す。
こうして、俺は完全に過去と決別した。
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