第15話 スライムサモナーズ、出撃!
俺の空気を読まない発言に、会議室内が凍り付いた。
「何を無謀な……リョウ!?」
発言者である俺の方へふり返りながら言いかけたエリカが俺の顔を見て驚く。何だお前、俺が入ってきたときに気付いてなかったのかよ!?
「よぉ、久しぶり」
「久しぶり、ではないだろう! この緊急事態にふざけたことを言っていいと思っているのか!?」
片手を上げて挨拶をした俺を、キッと睨んで詰問してくるエリカ。
「思ってないぜ。俺は自分のパーティーなら火竜を倒せると確信しているからな」
「何をバカなことを……」
「いや、バカなことじゃないぜ」
「オレはこいつらスライムサモナーズの召喚獣を知ってるし、モンスターファイトで戦ったこともある。こいつらなら、確実に無傷で火竜を足止めできるし、場合によっては倒せるはずだ」
それを聞いたギルド長が喜色を浮かべて言った。
「おお、スライムサモナーズが残っていらっしゃいましたか! 昨日Cランク昇格の申請書類を見て把握してはいましたが、まだ滞在中だったとは幸いです。ギルドの方でもスライムサモナーズの召喚獣の特性は把握しています。確かに火竜への対抗は充分に可能ですね」
それを聞いたエリカが、驚いて俺に尋ねる。
「スライムサモナーズだと!? 最近Dランクを席巻しているという噂は聞いていたが、お前のパーティーだったのか!」
「ギルマスも言ってたとおり、今日付でCランク昇格さ。だから、この会議にも参加できる」
エリカにそう答えると、ギルド長の方を向いて提案する。
「だから、火竜のうち一匹は俺たちスライムサモナーズが受け持たせてもらってもいいよな?」
「はい。それでお願いします」
その答えに会議室内がざわめく。
「お静かに。戦力的に考えると、ほかの全パーティーを合わせても火竜への遅滞戦闘がうまくいくかどうか微妙なところです。ここは確実を期すために、片方はスライムサモナーズに受け持っていただき、残り全パーティーの戦力を結集して残りの火竜を抑えていただきます。これは決定事項です」
そうギルド長が明言すると、会議室内はふたたび静まりかえった。納得の顔をしているのはケネスのみで、ほかの連中はみんな
そんな会議室内の空気を無視して、ギルド長は説明を続ける。
「二匹の火竜は東ゲペック山に潜伏しています。もともと一匹が山で発見され、帝国軍が討伐に向かって、ある程度優位に戦闘を進めていました。ところが、突如として二匹目が背後から現れて隊列を奇襲したため、帝国軍は予想外の被害をこうむって潰走したということです」
「
「いや、山中に潜伏されてたら練達の『レンジャー』でもないと発見は難しいだろう」
誰かのつぶやきに別の者が反論する。レンジャーってのは、野外活動に特化した
「その後、高レベルのレンジャーが所属していて山岳活動を得意とする複数のCランクパーティーに偵察を依頼していたのですが、その報告が先ほど届きました。二匹は一緒に行動してはおらず、山の北の尾根と南の沢沿いに分かれて活動しているとのことでした。なお、現時点では、それ以外の火竜は発見されていません」
東ゲペック山は、その名のとおり、この街の東にある低山だ。そんなに高い山じゃないから火竜が山を下り始めたら、すぐに街の近くまで来てしまうだろう。火竜が分かれて行動している今が、討伐のチャンスではある。
「俺たちは、どちらかを討伐に行かせてもらいたい。仮に倒せなくても、その場で千日手には持ち込めるので、山中で迎撃する方が良いと思う」
「いいでしょう。南の沢沿いにいる火竜の方へ向かってください」
俺の提案にギルド長は即決すると、近くの職員に指示を出す。あれは、さっきギルドの入口から駆け込んで来た職員だな。
「彼が街の外で待機している偵察パーティーのレンジャーの所まで案内します。大至急メンバーを集めて行動してください。お願いします」
「わかった」
俺はそれだけ言うと、すぐに職員のあとについて会議室の出入り口に向かう。出がけに振り返ると、ケネスが俺に親指を立ててきたので、俺も立て返す。そして、ドアを閉めようとしたときに、その隙間から見えたのはエリカの複雑そうな表情だった。閉まったドアがその顔を完全に隠すと同時に、俺は職員のあとについてギルドの狭い廊下をロビーに向かう。
「何があったの?」
ロビーで待っていたアイナが聞いてくるが、大勢が聞いているこの場で話せることじゃない。
「説明はあとだ。緊急指名依頼を受けたんで、すぐ討伐に行くぞ。準備はできているか?」
「うん、緊急指名依頼って聞いたから討伐準備して待ってたよ。ギルドの売店で
このインベントリってのは、冒険者ならみんな習得してる基本スキルのひとつで、
入れられる重量に制限があるんで金貨なんて重いものを入れるのは非効率的だが、大盾とか大剣なんかを街中で身に付けて歩くのは物々し過ぎるんで、大抵の冒険者は街の入口で大型の装備をインベントリに出し入れすることが多い。
冒険者なんて、今回みたいな緊急指名依頼がいつあるかもわからないから、最低限の保存食とかはインベントリに入れてある。俺だって同じだから、すぐに討伐に出発できる。
「よし、出るぞ。説明は街を出てからする」
ギルド職員が扉の鍵を開けて外に出るのに続いて全員でギルドを飛びだすと、そのまま街の大通りを早足に通り抜ける。正門を守る番兵はギルド職員を見ると即座に通してくれた。
門の外では、二人のレンジャーと数名のギルド職員が待機していた。俺たちと一緒に来た職員が彼らに話しかけると、ひとりのギルド職員が入れ替わりで街に戻っていく。
その間に、俺は手短に火竜が相手だと仲間たちに説明する。火竜と聞くとさすがにみんな驚いたが、同時に絶好のチャンスだということにも、すぐに気付いていた。
俺の説明が終わるの見計らって、ギルド職員と会話していた片方のレンジャーが俺たちに話しかけてきた。二十歳くらいの青年だな。
「Cランクパーティー『山歩き愚連隊』のサーシェスだ。南の沢にいる方の火竜の所まで案内するから、装備を整えてくれ。それにしても、本当にあんたらだけで大丈夫なのか?」
「Cランクパーティー『スライムサモナーズ』のリョウだ。俺たちの召喚獣は物理打撃無効と火属性攻撃無効を兼ね備えてるんで、足止めだけなら絶対にできるから安心してくれ」
愛用の長剣をインベントリから出しながら俺が答えると、サーシェスは口笛をひとつ吹いて「それなら大丈夫だな」と言うと、俺たちを見回す。今のやりとりの間に、みんなも既に大型の武器や盾をインベントリから出して装着している。
「それじゃあ出発しよう。駆ける必要はないが早足で行くぞ」
「オッケー!」
「行こうか」
「頑張りますぅ!」
「早駆けは得意でござる」
「了解」
「馬車のひとつも用意がないというのは片手落ちではなくて? まあ、無いものは仕方ないから、あたくしも歩いてさしあげますけど」
「我は繊細ゆえ気が進まぬが、やむをえまい……」
キャシーとクミコは強行軍は苦手そうだが、ここは我慢してもらうしかないだろう。
「よし、スライムサモナーズ、出撃だ!」
「「「「「「「オーっ!」」」」」」」
みんなで気合いを入れると、俺たちはサーシェスのあとについて東ゲペック山の方に向かって早足で歩き出した。
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