第2話依頼

 羊土ひづちが代表して光樹みつきへの依頼を持ってきたと告げた言葉に光樹は思わず顔が引き攣る。

 光樹の実家であるたしろ万店は町の便利屋として知られているが、依頼する者は何も人間だけでは無いのだ。

 光樹の父、田代宗次郎たしろそうじろうも見える人間である為、気まぐれに妖達の頼み事を聞いているうちに、いつの間にやら妖界隈でも便利屋として知られるようになったのだそうだ。

「その依頼さ、店に正式な依頼として頼めよ。父さんなら何とかしてくれるって」

「宗次郎はいつも忙しそうだから、暇な光樹に頼んでんだよ」

 兎丸うさまるが容赦ない言葉に光樹は多少のイラつきを感じさり気なく兎丸の足を引っ掛けてやる。

「うおっ!何すんだよ!!」

「俺は決して暇じゃありませーん。明日から学校始まるしな。勉強で忙しいんだ」

 光樹からの突然の攻撃にもすぐに態勢を戻す兎丸は反撃の態勢を取る。

「光樹勉強嫌いって前に言ってたぞー」

「どーどー落ち着け兎丸。確かに人の子が明日から学校が始まるって騒いでたから暇ではないだろうさ。勉強はしないだろうけど」

 最後の一言余計だ。とジト目で猪助いのすけへと訴えるが、猪助は兎丸を落ち着かせるように首根っこを掴みながらの完全無視。

 その態度に光樹の機嫌はどんどん気持ちが下降して行く。

 あーだこーだと騒ぐ兎丸を諌める猪助。

 マイペースな羊土は先頭をのそのそと飛んでる虫を追いかけながら進んでいる。

 そうこうしている内に光樹の家が見えてきた。

「分かったよ!宗次郎に言ってやる!!」

「おーおーそうしろそうしろ。父さんの方が即解決してくれるさ」

 手で払う仕草をする光樹に兎丸は店の入り口へと全速力で向かう。

 中には丁度宗次郎が次の依頼内容だろうか、紙束を手に目を通している所だった。

「宗次郎!光樹に依頼頼んでいいよな!!」

「おっ、兎丸くん。いらっしゃい。全然良いよ」

「言うってそっち!?てか、父さんも即答すんなよ!!」

 勢いよく入ってきたそのままの流れで兎丸は宗次郎の机の上へと登る。

 驚く事なく資料から目を離した宗次郎は、兎丸の頭を撫でながら言うと、後から入ってきた光樹に「おかえり」と優しく微笑み出迎えてくれた。

「おや、羊土くんと猪助くんも一緒か。よく来たねぇいらっしゃい。本当に仲が良いねぇ君達は」

 わらわらと猪助と羊土が順番に机の上へと登ると宗次郎から撫でられるのを期待しているように目を輝かせていた。

 三匹ともどうやら撫でられるのが好きらしい。と最近気づいた光樹はなんとなく、会うと撫でるようにしているというのは秘密だ。

 言えばからかわれる気がするから。

「光樹!宗次郎が良いって言ったんだから依頼引き受けてくれるって事だよな!」

 兎丸がキラキラと期待した目でこちらを見つめてくるのを感じつつも、視線を彷徨わせずにいると宗次郎が見兼ねて尋ねる。

「何をそんなに渋っているんだい?依頼を引き受ける事なんて今までも幾度となくこなしてきただろう」

「そうなんだけど……なんとなく胸が騒ついて気が乗らなんだよ」

 光樹は謎の胸のざわつきに落ち着け無いと言うと宗次郎は何か考えるそぶりを見せ再び問う。

「その予感は嫌な感じかい?」

 どこか真剣な表情に光樹は視線を逸らしてはいけない大切なことなのだと。適当に答えてはいけない。そういった類の質問をされていると感じる。

「嫌じゃない。何かが変わる不思議な予感……かな。そんな感じだよ」

 真剣な問いには真剣に答える。それが田代家での教えだ。

 光樹は宗次郎の目をしっかりと見つめ答える。

 確信では無い。所謂直感なのだろう。

 踏み出してしまえば何かが始まり、変わるのだという直感。

「……そうかい。なら尚更引き受けるべきだね。兎丸くん。その依頼、承ったよ」

「やった!流石宗次郎だな!」

「あっ!ちょっ!!」

 光樹が了承を告げる前に引き受ける事が決まってしまう。

 店主が引き受けたのだ。ならば、光樹は覚悟を決めなければならない。

 未だ渋る気持ちは残る。けれど、踏み出すべき事柄なのだという事くらい光樹も理解しているからこそ、強く拒否はできないのも理由の一つだった。

「大丈夫さ。これはきっと良い出逢いが待っている」

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