第3話山

「話を聞いてる限りじゃあ、田代も一応は納得してんじゃん。なに渋ってんのさ」

圭介けいすけには妖の姿が見える事を話していない為、光樹は昨日の出来事を主に依頼主達の所を人間に置き換え、掻い摘んで説明すると光樹みつきは再び机へと沈んだ。

「この際もうなんでも来いやの境地に至ってはいる。が。重要な事を聞くのを忘れた」

「何?」

一晩経てば受けたものは仕方がないと開き直り、覚悟を決めた。しかし、光樹は大事な事を聞き忘れたのだ。

「………………依頼の内容。聞いてない」

「…………それ、初めに聞くやつじゃね?」

あの場にいた全員が何故誰も聞かなかったのかと不思議なくらいだ。

そもそも、本来は内容を聞いてから依頼を受けるかどうかを決める。

良くも悪くも昔から付き合いのある者同士であるが為にトントン拍子に話が進みその結果、「明日、森に集合な!」という兎丸うさまるの一言を残して三匹を見送ってしまったのが原因だ。

いや、もしかすると宗次郎そうじろうは依頼の内容に心当たりがあったのかもしれない。

幾ら何でも内容を聞かずに引き受けた挙句、危険な事に息子を巻き込ませるような事をする人ではない。

しかし、少し天然なところがある父親に光樹は本当にただ忘れていただけではという疑念を打ち消すこともできないでいた。

「……兎に角、放課後近くの山に集合なんだよ。……なんだろうなこの、死刑宣告受ける前みたいな気持ちは」

「分からんでもないが、まぁ頑張れよ」

呆れたような、憐れみの含んだ声色に思わず呻くとポンっと肩を叩かれた。

1日始まったばかりの学校は無情にも、いつも通り淡々とした授業を始める。

放課後になるまで謎のモヤモヤと心の内で戦う光樹は、先生の声を右から左へと聞き流しながら気晴らしにと窓の事を眺めると、雲一つない青空の下、桜は綺麗な花びらと共に風に揺らされていた。


憂鬱すぎる時間はあっという間に放課後へと移り変わり、光樹は帰り支度を始める。

面倒だなんだと言っていた割には支度を進める手は速く、あっという間に帰る準備は万端。

「んじゃ行ってくるわ!また明日な山口!」

「おー気をつけてなー!」

席を立ち圭介へと声をかけた光樹へと圭介は片手を上げて返事を返す。

光樹も答えるように片手を上げ颯爽と教室から飛び出して行った。

圭介は光樹の去って行った扉から教室の窓へと目を移し校門の方を見る。

しばらくすると走って行く光樹が視線へと入る。

光樹とはそれほど長い付き合いでは無いにしろ、度々圭介には分からない事で忙しそうにしている事を知っている。

慌てて別れた次の日に軽い傷をつけて学校に登校している姿などよく見かけるものだ。

いつも通り笑う姿に何故か自分はあまり踏み込まない方が互いの為な気がして見て見ぬ振りをする。

けれど、それでも心配はするのだ。

「危険な事じゃなければ良いけどなぁ」

その呟きは誰の耳にも届かぬ小さな声で走り去っていく光樹と共に消えて行った。


「あ!光樹きた!!遅いぞー」

「みーつきー待ってたー」

「こっちこっちー!待ちくたびれたぞー」

兎丸うさまる羊土ひづち猪助いのすけの順に光樹を見つけるやいなや大きな声で騒ぎ始める。

「すまん!けどこれでも急いで来たんだからな!」

三匹へと近づくと光樹の周りに集まってくる。

学校から少し離れた山へとやってきた光樹は、ここまで走ってきた事もあり息が切れていた。

呼吸を整えるように大きく息を吸いそして吐く。それを繰り返して少し落ち着いたところで本題に入る。

「お前らからの依頼さ、まだ何も聞いてないんだけど」

「あれ、言ってなかったっけ」

今更感半端ない質問に兎丸が反射的に返す。

おそらくこの三匹共にもう言っていた気になっていたのだろう。

聞き忘れていた自分も自分だが、なかなか雑なものである。

「んじゃ、依頼内容話しながら中に進むか!」

猪助が山の入口へと進みながら言う。

どうやらこの中に依頼に関わる何かがあるのだろう。




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妖しい依頼はたしろ万店へ 彩葉くりうめ @kuriume

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