機械人形
世界が変化を求める中、人々はある問題に直面する。
それは、エーテル供給施設の完成の遅れだった。
世界各地で求められるエーテル供給施設は、完成どころか、建設に難航していた。
膨大なエネルギーを供給と提供する施設を建設することは、それに見合うだけの人数と手間、そして時間が必要とされる。
一基建設するだけでも一年以上の時間を要する為、エーテル供給施設を全予定基数建設するには、圧倒的に時間が足りなかった。
そんな中、人々は、一つの解決策を考える。
それは、人間に代わる、ロボットの開発だった。
化石燃料の枯渇と衰退していた文明により、過去の遺産とまで呼ばれていたロボットだったが、繁栄した時代となった時、その有用性に注目を集める。
世界が発展と繁栄を続ける中、科学と工学も並行して、飛躍的な進歩を見せていた。
それに伴い、膨大なエネルギーを生み出すエーテルを応用する技術力も進歩しており、科学や技術力は、時代の変化を担うものだった。
その科学と技術力、そしてエーテルという新エネルギーを織り交ぜたハイブリッド・ロボット。
その存在が誕生し、そして量産に成功すれば、この状況を打破できるかも知れない。
そう考えた人々は、過去の遺産を復活させることに着手する。
その結果、大多数の支援ロボット…すなわち、 ハイブリッド・ロボットのテストモデルが開発され、難航していたエーテル供給施設の建設に投入される。
予想を大きく上回るペースで、エーテル供給施設の建設は進み、十数年以上掛かると言われていた作業は、僅か三年程で予定基数の建設に成功。
過去の遺産と呼ばれた存在達は、新時代の担い手として、大きく貢献した。
また、それに伴い、ロボットの有用性を強く認識した人々は、様々な局面に対応できるロボットの開発を進める。
新時代の、更なる先を行くロボット。
人々に、新たな希望をもたらす存在。
人という存在と同じく、可能性を秘めたもの。
それこそが、理想とするハイブリッド・ロボットの姿だった。
時は、新世紀一年。
A.C.0001。
数々の実験と開発を経て、ハイブリッド・ロボットの完成型であり、正式なハイブリッド・ロボットの初号機「アルファ」の誕生と共に、旧世紀と呼ばれていた時代は終わりを告げ、新世紀へと変わる。
この先に誕生する、ハイブリッド・ロボットの始祖。
ヒトの形をした、全ての始まり。
半永久的に稼動する、エーテルを応用させた次世代の動力炉の搭載。
ハイブリッド・ロボットの理想を体現させたアルファを生み出したのは、一人の天才だった。
ヴィルヘルム・ギルシュタイン博士。
四十歳という若さで博士号を取得し、ロボット工学とエーテルを応用する科学と技術力を備えた彼は、まさしく天才と言えた。
ヒトに限りなく近く、ヒトが持つ可能性を秘めた存在の誕生。
常にそれを模索し、そしてアルファに投影をさせることで、新たな希望を彼は生み出した。
世界も、アルファに希望を見出し、そしてアルファを雛型にした、様々なハイブリッド・ロボットの開発に身を乗り出す。
だが、時代が進むに連れ、ハイブリッド・ロボットの在るべき姿は、次第に存在意義を変えていく。
一部の心無き人々は、再生を司るはずの存在を、破壊を司る存在へと使い始めたことが発端だった。
高い汎用性と高性能というハイブリッド・ロボットは、破壊という面でも絶大な効果をもたらすことになる。
繁栄と安泰を手に入れたはずの世界は、それらをもたらしたロボットによって、再び衰退と混沌を生み出させた。
ロボットを使った混沌は、やがて戦争へと変わる。
その現状に悲しみ、頭を悩ませたのは、ハイブリッド・ロボットの始祖を生み出した、ヴィルヘルム本人だった。
こんなはずでは無かった。
こんなことの為に、私はアルファを、ハイブリッド・ロボットを生み出したのではない。
何度も苦しみ、何度も悲しみ、何度も怒りを抱いた。
しかし、ヴィルヘルムが何を思っても、戦争が終わることは無かった。
それどころか、戦争は加速する一方であり、世界を包み込む混沌も、拡大するだけだった。
苦悩を続けたヴィルヘルムは、苦渋の決断をする。
世界を救うべく生み出したアルファ。
ならば、アルファにその存在意義を持たせる。
ヒトでは成し得ないことを、アルファを以て成し遂げる。
できれば、こんなことはしたくなかった。
こんなことをしなくて済むのなら、どれだけ良かっただろう。
私にとっても、アルファにとっても、どれだけ幸せだっただろう。
私は、お前を間違った方向に導こうとしている。
お前の、ハイブリッド・ロボットそのものの在り方を、変えようとしている。
お前という存在そのものを、お前を生み出したこの手で変えようとしている。
お前は、私を恨むだろう。
お前は、私を憎むだろう。
…いいや、私だけでなく、ヒトという存在を。
お前に、感情というプログラムは無い。
お前に、心というものは無い。
だが、私はいつだって、お前を人間として見てきた。
だからこそ、感情が無くとも、心が無くとも、きっと恨み、憎むのだと思う。
…許して欲しい。
お前を、こんなことに巻き込むことを。
我々ヒトの、勝手なエゴで変えてしまう愚かさを。
しかし、お前は、希望をもたらす存在だ。
未知なる可能性を秘めた、或いはヒトを超越した存在なのだろう。
お前が、そうであるのなら。
可能性を秘め、希望をもたらす存在であるのなら。
今一度、その可能性を、希望を見せてくれ。
ヴィルヘルムは、罪の意識に苛まれながらも、アルファの改造を始める。
本来の用途を離れた、純粋な戦闘型兵器として。
高い汎用性という特性を活かし、戦闘に特化した姿へ変えさせるのは、さほど難しいことでは無かった。
いつしか、在るべき姿を失ったハイブリッド・ロボット。
純粋な戦闘型兵器として、製造されることも珍しくない。
そんな時代の中で、総てのハイブリッド・ロボットの始祖たるアルファは、純粋且つ最強の戦闘型兵器「オメガ」として、その姿を変えた。
破壊の先の再生。
絶望の中に生まれた希望。
オメガが、その存在となることを信じて。
新世紀十一年。
A.C.0011。
世界の救世主として、オメガは初めて実戦投入される。
ハイブリッド・ロボットではなく、既に純粋な戦闘型兵器であるオメガは、圧倒的な戦力で次々と戦闘を沈静化させた。
それに伴い、オメガに対抗するべく、更なる高性能のハイブリッド・ロボット達の開発が進み、それらはいつしか、戦闘の為だけに作られることになる。
ヒトと共存し、新たな可能性と希望を模索する。
その本来の目的は忘れられ、やがてハイブリッド・ロボットのみならず、ロボットという存在と言葉は、破壊の象徴とも言うべきものへと変わっていった。
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