初めての学園生活ー④

 驚いているクラスメイトのことは無視してから、ノルンとサクラのところに戻り声をかける。


「うっす。終わったぞ」


「流石わしの未来の夫じゃな」


「夫じゃねえ!」


 ノルンの発言にイラッとしたので、頭にチョップを食らわした。

 ノルンは「あいたっ!」と言ってから頭を押さえていた。

 たくっ、お前のせいでサクラが苦笑いしているだろ。


「次の試合が始まったみたいだぞ」


 俺がさっきまで戦っていた場所に目を移すと金髪のキラキラしているイケメンと眼鏡を掛けたいかにも頭良さそうな人が試合をしていた。

 イケメンが長剣を使いながら攻めていく。対する眼鏡君は杖で長剣をいなしながら詠唱を唱えていた。


「並行魔法か!?」


 並行魔法とは、相手を攻撃しながらや移動しながら一緒に詠唱を唱えることだ。これは簡単そうに見えて難しいのである。魔法を発動させるにはある程度の集中力を必要とするため、攻撃や移動に気が向いてしまった瞬間に失敗してしまう。

 眼鏡君は並行魔法を見事に成功させ、イケメン野郎に魔法をぶち込み、眼鏡君が勝った。

 まぁでも、今回は勝敗はあんまり関係ないみたいだからな。サクラたちには頑張ってもらいたい。


 そんなことを考えていると、サクラとノルンが同時に立ち上がり、前に出ていった。

 

 ー第三試合 ノルン対サクラ


 魔女の才能センスを持っているノルンに対して、サクラは鬼人族でありながらその身を隠してここまでを来ているため、本来の実力は未知数である。

 昔から良くしてもらっている身としてはノルンに勝ってほしいと思うが、だからといってサクラに負けてほしいとも思えない。

 ノルンの武器は弓に対して、サクラの武器は大剣と対称的であった。

 二人の間に緊張があるなかで先生の声は響いた。


「ー第三試合、開始っ!」


 先生の合図とともにサクラはノルンとの距離を一気に縮め、大剣を振り下ろす。そのスピードは学生離れしたスピードであったのにも関わらずノルンは体をずらして攻撃を避け、弓を放つ。

 サクラは振り下ろしていた大剣を盾のように使ってからガードし、短く詠唱をする。


「《身体強化》!」


 身体強化の魔法を唱えたことにより、今までのスピードだけでなく、一つ一つの威力が上がっていく。ノルンは避けるのに精一杯になっていたが、サクラが一瞬隙を見せた瞬間に弓を放ってから、サクラの体勢を崩した。

 サクラが体勢を崩したことによってできた時間を利用して、詠唱を唱える。


「《荒れ狂え、ウインドカッター》」


 ノルンが唱えたことにより、風のやいばがサクラを襲う。しかも、通常のウインドカッターとは違い、幾つもの風の刃がサクラに襲いかかる。


「はあっ!」


 幾つもの飛んでくる風の刃に物怖じせず、大剣を思い切り振り回すことで、切り伏せてしまった。

 だが、そこで終わるようなノルンではなかった。ウインドカッターを斬ること隙を見せてしまっていたサクラにノルンは長年培ってきた弓の技術で矢を三本同時に放つことで確実ヒットさせた。

 サクラは思いもよらぬところからの攻撃に驚き、避けることができずに矢が当たってしまう。矢が当たってしまったことで、攻撃に移るタイミング失ってしまっていた。

 ノルンはこれを好機だと思い、最大の魔法を叩き込んだ。 


「《深淵の淵より来たれ、ダークネビュラ》!」


 ノルンの魔法に対抗するように、サクラも魔法を唱える。


「《東を守りし龍よ我に力を与えたまえ。蒼炎》!」


 真っ黒な靄のようなものと青い炎を纏った龍が激突する。そのときの余波によって、周りにいた生徒たちにまでも熱が届いていた。


「あ、熱い……」


「次元が違いすぎるだろ!?」


 クラスのやつらが言うように、この二人の実力は勇者には及ばないものの確実に学生の中ではトップであった。

 二人は互いに魔力を振り絞り、最後の一瞬まで勝ちにいっていた。

 だが、試合をしている以上引き分けは存在しない。どっちかが勝ち、どっちかが負ける。ただそれだけのことだった。

 実力の拮抗していると思われていた魔法対決はあっけなくノルンが勝ってしまった。

 理由は明快単純、魔力量の差であった。

 サクラは最後まで魔力を振り絞ったせいで、一時的な魔力切れを引き起こして倒れてしまった。

 ノルンの方に視線を移すと、いまだにピンピンとしている体が見受けられた。

 

「これがノルンの実力か……侮れないな」


 つい最近まで幼い少女と同じだと思っていたばかりなのだが、これは考えを改めるべきかもしれないな。

 サクラが倒れたことで、テストは一時中断となり、先生はサクラを連れて校舎に戻っていった。


「サクラ大丈夫かのう……」


 ノルンが少し寂しそうに呟いた声が俺の耳に届いた。


「大丈夫だろ。目立った外傷はなかったし、普通に魔力切れで倒れただけだ」


「そうなのか……それなら、よかった」


 自分がサクラを倒してしまったのではないのかと不安だったのだろう。俺の言葉を聞くとどこか安堵を浮かべた表情になった気がした。

 その後、先生が戻ってきてからテストを再開し、何事もなく終わることができた。


 テストが終わったあと、その後の学校行事を消化し、やっとのことで寮に帰ることができた。

 シルビア学園は全寮制であるため、俺たちは校舎から少し離れた宿舎へと向かわなければならなかった。

 宿舎での部屋割りは二人一部屋であるため必ず同居人が存在する。だが、残念なことに男と女は分けられてしまうため、男の俺たちにとって嬉しいラッキースケベな展開は起こらないのだ。


 宿舎に着いてから男子寮と女子寮に分かれるため、そこでノルンとあの後復活したサクラと別れた。

 一人男子寮へと入ると、多くの人がロビーで話していたが、俺は面倒くさいのでさっさと自分に割り当てられている部屋へと向かった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る