始めての学園生活ー③

 クラス全員の魔力検査が終わり、次は魔法の基礎テストが行われた。

 ちなみに魔力検査の成績はトップがノルンでドンが俺でした。

 次に行われる魔法の基礎テストは自分の持っている最高の魔法を披露すればいいのだ。そのせいか先程からクラスの奴らの雰囲気が全体的にそわそわしている。

 魔法の基礎テストを行う場所に着くと先生は口を開いた。


「それでは今から魔法の基礎テストを行う。内容はいたって簡単、目の前にある的目掛けて自分が今持っている最大の攻撃魔法を叩き込め。それではさっきと同じ順番で行くぞ。一番の奴は来い」


 魔力検査の時と同じ一番目の人が先生に呼ばれて、指定のところに移動する。確か、彼は白色、つまりAランクだったかな。まあ、才能センスが魔法系だったんだろう。さて、どんな魔法を使うかな。

 彼は指定のところに立ってから、一度深呼吸をすると詠唱を始めた。


「《炎よ燃え盛れ、烈火の如く。ファイヤーストーム》」


 彼は的の方に右手をかざすと、その手のひらから炎の渦が的に向かって放たれる。炎の渦は的に当たると、その周辺も余波で燃え上がってしまっていた。これは誰もが的も燃え上がったのではと思っていた。

 だが、炎が晴れると、的には傷ひとつ付いていなかった。その事実に彼は驚きの声を上げた。


「えっ!?」


 クラスの奴らも驚いているが、俺には見えていた。彼の魔法が当たる瞬間に的に魔法障壁が張られていたのを。つまり、あの的を壊すにはあの魔法障壁をも壊さないといけないわけだ。これは全力出さないとダメみたいだな。

 一番目の子に続き、クラスの奴らは的を攻撃するが、やはり魔法障壁を壊せるものはいなかった。

 そして、とうとう俺の番になった。

 先生に呼ばれる前に指定されているところまで移動する。


「セシルは…来ているな。それでは魔法の基礎テストを始めるぞ。準備はいいな?始め!」


 俺は自分の魔力量の少なさを誰よりも自覚している。正攻法じゃ凡人以下だってこともわかっている。まぁ、正攻法・・・ならな。

 自分の体内を循環している魔力を無駄なく効率化をする。そうすることで、魔力の移動がスムーズになる。次はそれを魔法を放つ右手に集中させる。

 少ない魔力で最大級の魔法を再現して見せる!


「《雷光ライトニング》」


 それだけを呟き、的に向かって一閃の雷を放つ。広範囲の魔法ならば威力が分散する可能性がある。ならば、それを一点に集中させて放つことが出来るのなら?あの勇者でも魔力を意識的に操ることはできない。魔力を操るというのは、血液を操ることと同意義なのである。

 だが、セシルはこれを血の滲むような努力を重ね続け、やっとのことで習得したのだ。つまり、これはセシルにしかできない芸当である。

 そして、セシルの放った一閃の雷は的を守っていた魔法障壁をもいとも簡単に突き破り、的を破壊することに成功した。


「驚いた……まさかあの魔法障壁を破るとはな」


 先生は信じられないというような顔をしていた。なぜなら、あの的に張られていた魔法障壁は盾の勇者であるミリアが手掛けたのである。実際、ここ三年間あの勇者たちでも破ることが出来なかったのだ。

 それがこんな魔力量最低ランクの奴に破られるなんて思ってもいなかったのだろう。

 俺は自分の魔法がしっかり的を壊しているのを確認してから、クラスのところに戻った。

 俺が戻ってから正気を取り戻した先生は次の奴らから別の的に魔法を撃たせていた。

 そして、気づけばノルンの出番になっていた。

 ノルンが持っている最大級の魔法はこの辺一帯を吹き飛ばせる威力を持っているはずだが、多分というか確実に使わないだろうな。確かに威力はエグいのだが、如何せん燃費が悪いのだ。最高ランクの魔力量を持ってしても一発放っただけでぶっ倒れるんだ。このあとも試験があるのを考えるのら絶対使わないはず。

 ノルンは的の前に立つと、詠唱を短く済ませてしまった。


「《深淵の淵より来たれ。ダークネビュラ》」


 ノルンから放たれた魔法はまるでこの世のすべての悪を具現化したような禍々しさを持っていた。そして、的に向かって飛んでいくと魔法障壁を破るというよりも溶かし、的に直撃した。


「やっぱりノルンはすげえな。あんな魔法俺には無理だな」


「セシルでも無理なの?」


「あれはノルンの魔力量と才能があってこそだ。俺にはどっちもないからな」


「へぇー、セシルは才能は魔法の才能じゃないんだね」


「ん……まあな」


 まぁ、そもそも何の才能も持っていないんですけどね!訂正するのも面倒だし、このまま黙っとこ。

 ノルンは自分の番が終わってからすぐに俺の方に走ってきた。


「見とったかセシル。わしの魔法はあんなに凄いんじゃぞ」


 ノルンはエッヘンと威張るように胸を張った。あんなにすごい魔法を撃つことのできる人がこんな子供っぽいなんてなー。世も末だな。


「ってか、次サクラじゃね?」


「あ、忘れてた!」


 先生の方を見るといかにも不機嫌そうな顔でサクラを見て、いや睨んでいた。サクラはその視線を受けたせいか、ヒィィと言いながら先生のところへ行った。

 説教が済み、いよいよ魔法の基礎テストの大詰め、最後の一人、サクラの番になった。

 サクラの魔力量はBランクで優秀な部類に入る。さて、サクラはどんな魔法を見せてくれるかな。

 サクラは目の前の的に集中し、詠唱を始める。


「《東を守りし龍よ我に力を与えたまえ。蒼炎》」


 聞いたことのない詠唱に、見たことのない魔方陣が現れ、蒼い炎が的に向かって放たれる。その蒼い炎は龍のような形をしながら的に衝突した。的にぶつかったその蒼い炎は的を壊し、そして後ろの壁をも突き破っていった。

 ……文句なしの一番だな。


「ふぅ、これでとりあえず終わりか…」


「そうじゃな。あとは戦闘のテストだけだ」


 一応一息ついたことに安堵した俺はサクラとノルンと話していた。


「次の戦闘では誰とやるのかな」


「ノルンとだけはやりたくない」


「わしもお主とサクラとはやりたくないのう…」


「それ以外なら勝てる自信があるんだね…」


「「当たり前だろ?」」


 サクラは俺たちの会話をあきれて質問してきたのが、ノルンと被ってしまった。

 まぁ、実際のところ戦闘能力の高いと言われている鬼人族であるサクラと魔法の天才の中の天才であるノルンとは戦っても勝てるけど長引きそうなんだよなー。

 そんなこんなで俺たちが話している間に先生は対戦相手を決め終えたらしい。


「これより戦闘のテストを行う。ルールは今から言うぞ。まずはこのテストは一対一で行う。武器は事前に持ち込んでいるもの以外は認めない。魔法の使用は認める。これ以外で何か質問がある奴はいるか?…いないな。それならすぐに始めよう。第一試合はセシルとケイトだ」


 おおっと、まさかの第一試合じゃないですかー。しかも相手はあのケイト君…って、だれ?

 先生の話が終わりすぐに立ち上がってから移動を始めたのがおそらくケイトという人物なのだろう。

 どっかの貴族のボンボンとかじゃなきゃいいけどな。

 俺は買ってから携帯していた剣を二刀持ってから移動する。ケイトと向かい合うような位置に立つとすでにケイトは槍を構えており、やる気満々であった。

 俺もケイトを見習い、双剣を構えた。


「それでは第一試合を始める。テスト開始!」


 先生の合図と同時にケイトは槍で俺を突いてきた。俺はそれを双剣をうまく使いながらいなしていく。


「はあぁぁぁ!」


 気合いの入った声と共に放ったれた突きは見事なものであったが、相手が悪かった。もしも、これがセシルではなかったら勝っていたかもしれない。しかし、相手はあの勇者の一人であるセシルだ。その攻撃はいとも簡単に弾かれてしまった。


「くっ!」


「どうしたー。それで終わりかー」


「ちっ、《閃光突き》」


 弾かれてしまった槍を持ち直し、才能による攻撃が放たれる。その攻撃はさっきの突きよりも何倍も速く鋭い一撃だった。だが、セシルはそれをいとも簡単に避けてからケイトに高速で攻撃を叩き込んだ。


「それじゃ、反撃開始といきますか!《連撃》」


 双剣を上手く使い、ケイトの腹に二回撃ち込んだ。それによりケイトが怯んだのを見逃さずに更に攻め立てていく。

 ケイトの腹の次に槍を持っているを手を打ち、武器を落とさせ、そこから後ろの回り込んでから、地面に叩きつけ無力化した。

 この間、一秒もかかっていない。


「やめっ!」


 先生の終了の合図と共に俺はケイトから離れる。

 クラスの方を見ると、このような結果になったのが予想外だったのか誰一人して声を上げていなかった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る