始めての学園生活ー②

 朝、目を覚ますと窓から眩しい太陽の光が射し込んでくる。思わず目を細めてしまうほどだった。眠たい気持ちを抑えつつベッドから体を起こしてから顔を洗いに行く。

 今日は初めての学園生活だ。気合いを入れていかないとな。まあ、とりあえずはいまだに寝ているお姫様を起こすとしますか…


「おい、起きろ。朝だぞ」


 俺はノルンの布団を剥ぎ取ってから起こす。だが、反応は乏しく起きなかった。だから、俺は次の手段に移行することにした。顔をノルンの耳に近づけて息を吸い込む。


「すぅ……起きろーーー!」


 起きないノルンの耳元で大声を出してやった。すると、さすがに驚いたのか体をビクッとさせ、ベッドから飛び起きた。


「び、ビックリした~」


 ノルンは両耳を押さえながら、瞬きを何度も繰り返している。その様子を見ていた俺は思わず吹き出してしまった。


「プッ、なんだよそれ」


「うるさいのう。さっさと行くぞ」

 

 俺に文句を言いながらもさっさと制服に着替え終えたノルンはすでにドアの前に立っており、俺を待っていた。

 たくっ、どんだけ楽しみなんだよ学園生活が。まあ、俺も人の言えないか。昨日も結局楽しみにしすぎてあんまり寝れなかったしな。って、誕生日前の子供かよ。


「ハイハイ、忘れ物はないな?よし、それじゃ行くぞ」


 宿屋を出てから街の大通りに向かった。大通りに出てからはシルビア学園まではほぼ一本道のため迷わないのだが、例外もいるようだ。

 俺たちと同じ制服を着た桃色の髪の毛の女の子が立ち止まってキョロキョロと周りを見渡すとシルビア学園とは別方向に歩き出した。俺は思わず声をかけてしまった。


「ちょっ!そっちは別方向だぞ!」


「えっ」


 桃色の髪をした女の子は俺の声に反応して立ち止まった。そして、声の出所を探してまたキョロキョロと見渡していた。とりあえずそこに近づいて、もう一度声をかけた。


「おい、大丈夫か」


「ひゃっ!」


 俺が後ろから声をかけると驚いたのか体をビクッとさせてこっちを見た。だが、俺の声を見ると、俺の方を指さしながら叫んだ。


「あー!入学試験の時に勇者さんたちを倒した人だ!」


 思いっきり身バレしてました。いや、なんでこの子が俺の存在知ってんの?もしかしてだが、


「なぁ、俺らと同じ一年生?」


「あっ、うん。自己紹介がまだだったね。私の名前はサクラ。よろしくね」


「俺の名前はセシル。まあ、よろしく。そして、こっちが」


「ノルンじゃ。一応この国の王女をやっておる」


 自己紹介をしたサクラは俺に握手を求めてきた。俺は女子の手に触れていいのかと葛藤をしたが、相手に悪いと思いしっかり握手を返した。手は柔らかかったです。


「しかし、珍しいな。鬼人族がこんな場所にいるなんて」


「えっ!分かるんですか!?」


「まあな、知り合いにいたし」


 サクラは慌てて頭を押さえた。確か、この国はまだ異種族を受け入れていないんだっけな?それで、バレたらヤバイと。


「まあ、安心しろ。言うつもりは無いからさ」


「あ、ありがとうございます」


「礼はいいよ。それよりも一緒にシルビア学園まで行かないか?道がわからないんだろ?」


「いいんですか!?ありがとうございます!」


 サクラは俺の提案にパアアッと笑顔になった。鬼人族一人でここまで来ているんだ。心細かったのだろう。

 サクラも連れてシルビア学園に向かったのだが、サクラは道が分からないってもんじゃなかった。極度の方向音痴だったのだ。俺たちがいるのにも関わらず壁に向かって歩き出したりもしたからな。それから、やっとのことで目的地であるシルビア学園につくことができた。


「やっとついた……」


「ううっ、申し訳ありません」


 サクラは見るからにショボンとしてしまった。それをノルンが励ましながら、指定されている教室まで向かった。それよりもさっきから視線が痛いな。あれか?お前みたいな普通のやつが美少女二人を侍らせるなってか?うるせー、ほっとけ。


「しかし、広いですね。こんなに広かったら迷いそうです」


「多分そんなに広くなくてもサクラは道に迷うよ……」


 校舎に入るとやはり外からの様子からわかるように結構な広さであった。何せ指定されている教室まで十分もかかってしまった。いや、これは校舎じゃなくてサクラのせいだな。

 教室の中に入るとすでに何人かの生徒は来ており、それぞれで交流していた。俺はノルンたちと駄弁っていた。しばらくすると、担当の先生のような人が来た。


「全員席に着け。よし、みんな席に着いたようだな。まずは、このシルビア学園に入学おめでとう。さらにここのクラスにいる人たちは合格した人の中でも優秀な人たちだ」


 マジか。そんなんでクラス分けされていたのかよ…確かにここの教室のプレートにはSクラスって書いてあったけど、そういうことかよ。


「まあ、お祝いの言葉はこれくらいにして早速本題に入ろう。君たちには今から実力テストをしてもらう。だが、安心してほしい。筆記試験はないからな。君たちにやってもらうのは簡単な戦闘の基礎テストだ」


 筆記試験無しと言う言葉に安心した人が何人かいた。俺もそのうちの一人だし。というか、サクラもめちゃくちゃ安心してるし。


「それでは準備ができたやつからグラウンドへ来い」


 そう言って名前も告げずに先生は出ていった。いや、誰だよあの先生。いかにも騎士って感じの女の人だったけどさ。

 しかし、いきなり戦闘のテストね…何が狙いかわからないが行くしかないか…

 グラウンドについた俺たちを待っていたのはさっきの先生ただ一人だった。とりあえずその近くに集合して話を聞いた。


「全員揃ったな。最初に魔力検査をする。その後魔法の基礎テスト、戦闘のテストをする。異論反論抗議質問口応えは一切認めない。それでは始めるぞ」


 なんとも横暴なやり方で俺たちの実力テストは始まりを告げた。いや、質問くらいは受け付けろよ…

 魔力検査というものは、その人の内部にあるいわゆる魔法を使うための力を測るためのものだ。ちなみに魔力量の大きさは色とランクで分かれている。黄色だとDランク、赤色だとCランク、青色だとBランク、白色だとAランク、そして黒色だと最高ランクのSだ。魔力量の大きさは才能センスがものを言うので増えることはない。


「次はセシルだな」


「うっす」


 先生に呼ばれて、前に出る。すると、何故かクラスの奴らがいきなり騒ぎだした。


「おい、あいつが噂の奴か」


「たぶんそうだぞ。俺もこの眼で見たし」


「きっと最高ランクのSなんだろうな」


 …何だろうこの居たたまれない感じは。後ろからめちゃくちゃ視線を感じるだが…期待されても困るんだけどな。まあいい、ささっと終わらせてしまおう。

 俺は目の前の水晶に手をかざして、魔力を送る。すると、水晶は色を変えた。その色は黄色。つまり、最低ランクのDだ。


「まぁ、こればっかりは仕方ないか」


 俺はクラスの方に戻った。クラスの奴らは俺の結果を知ると、また騒ぎはじめた。


「やっぱりデマなんじゃね」


「おっかしいなー。確かに彼だと思ったのにな」


「人違いなんだろ。それよりも最低ランクのDだぜ。普通のやつでも有り得ないのにな」


 期待は嘲笑へ変わっていく。しかし、こんなものは慣れっこだ。昔から才能はなかったし、周りの奴らにバカにされるのなんていつものことだしな。

 視線を検査のところに戻すといつの間にか

ノルンの出番になっていた。

 ノルンが水晶に手をかざすと、水晶の色は変わり始め、そして黒色になった。そう、最高ランクのSということだ

 ノルンの才能は魔女だからな。当たり前っちゃ当たり前か。

 そもそも才能を持っていないのは論外だが、才能にもやはり良し悪しがあるのだ。例えば剣術系の才能だと普通の剣術、剣術の達人、剣術の天才、そして剣聖の順に強くなる。ちなみにだが、勇者たちが現れるまでは○○の天才が一番良かったんだけどな。そして、ノルンの魔女という才能は女性の魔術系の才能のトップランクである。つまり、勇者レベルの才能の持ち主ってことだ。

 余談ではあるが、サクラは青色、つまりBランクでした。うん、普通にすごいな。

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