入学試験ー③

 無数の武器が勇者たちに降りそそぐ。

 このままでは勇者たちが負けてしまうのは誰が見て明白であった。

 だが、盾の勇者であるミリアが神器を使った。


「《アルテミスよ、答えよ。全てを守る盾となれ。イージス》」


 盾は大きなシールドを展開し、勇者たちを守った。

 だが、そう長くは続かなかった。

 展開しているシールドが徐々に綻び始め、ついには破れてしまった。


「嘘でしょ…」


 ミリアはこの現状に呆然と立ち尽くしてしまった。まさか最強の盾が破られるなんて思いもしていなかったのだろう。それはまた他の勇者たちも一緒で、ミリア以外の勇者たちは最強の盾が破られた今自分達で防がなければならないと思い、それぞれの神器を使った。


「《世界の闇を打ち払う光となれ。エクスカリバー》」


「《全てを貫け、神速の槍。グングニル》」


「《狙った獲物は逃さない。唸れ、必中の矢。オリオン》」


「《大地を砕け、世界を砕け。トールハンマー》」


「《全てを無へと帰せ。ゼログラビティ》」


 あるものは剣を振るい、あるものは槍を投げ、あるものは弓を放ち、あるものは斧を振り回し、また、あるものは翼を羽ばたかせた。

 だが、そんなものは俺のには通じない。

 あいつらは確かに強い。例えるのならあいつらは究極の一だ。たった一つで無数の敵に勝つことができると思う。だが、それじゃ足りない。

 あいつらが究極の一なのだと言うのなら、俺はさながら究極の無限だ。圧倒的戦力差なんだ。勝負は端から決まってた。

 そして、勇者たちはそれぞれの必殺技を放つが防ぐことができず、敗北してしまった。


「これでわかっただろ。俺は最強の勇者であり七人目の勇者だってことを」


 俺はひれ伏している勇者たちに言い放つ。その言葉を聞いた勇者たちは悔しそうにする。

 さてと、前で倒れている勇者はいいとして、入学試験どうしよ。

 周りを見れば、明らかに収拾がつかなくなっていた。グラウンドは俺の攻撃によってクレーターが何個もあるし、何より試験監督たちがやられて続行できなさそうなんだよなー。…ホントどうしよ。


「お困りかな。セシル君」


 突然自分の名前を呼ばれたので、そっちを向くと二人の大人がいた。というか、知り合いですね。


「なんでこんなとこにいるんだよ…母ちゃんと親父…」


 そう、俺の名前を呼んだのは俺の産みの親でした。いや、なんでいるのさ。うちって普通の農家だったよね?


「何とですねー!私たち、この学園の理事長と校長になりましたー!わー、パチパチ」


 二十代のような見た目に若そうな声、あざといポーズを取ってから声を出したのは我が母親であった。いや、母ちゃんなにしてんの?息子は恥ずかしいよ?って、


「えっ!理事長!?それに校長!?」


 驚きの事実が前の母ちゃんの行動によって薄れてしまっていた。でもこれはしょうがないと思うんですよ?だって実の母親がめちゃくちゃあざといポーズしてたら誰だって衝撃受けるでしょ!?痛すぎるでしょ!?


「うむ、そう言えば言ってなかったな」


 ちょっとーノルンさん、それ一番重要なやつですよ?なんで言わないんですかねー?俺がノルンに目線で訴える。


「う、うむ。わ、忘れてなんてなかったぞ?」


 めちゃくちゃ目が泳いでるんだけど……ま、いっか。それよりも…


「どうすんの?これ」


 親父たちに今の現状をどうにかしてほしくなり、尋ねた。実際これは俺にはどうしようもないと思うからなー。

 親父はにかっと笑いながら、言った。


「大丈夫だ。なぜって?私たちが相手をするからね!」


「へえー…って、大丈夫なのかそれ」


 親父たちが戦えるなんて初耳なんですけど……ま、この状況を打破してくれるなら、もうなんでもいいや…


「じゃ、頼んだぞ親父」


「ああ、任せなさい。それと、合格通知は後日来るようになってるからな」


「了解了解っと」


 俺は親父に返事をしてから校門へと向かった。その途中、周りからの目線が辛かったが、なんとか校門についた。


「はあ、これでやっと帰れる…今日は色々有りすぎたわ。早く帰って寝よ」


「それもそうじゃな」


「だよなー…って、いつの間に!?」


 俺が驚きの声を上げたのは無理もない。なぜなら誰もいないと思って言った独り言が返ってきたんだぜ。普通驚くよな!?


「ノルンかよ…で、なんか用か」


「一緒に帰ろうと思うてな」


「は?いやいや、道が違うだろ?城は向こうで俺の宿屋は真逆の方向だろ?」


 俺は右手と左手で違う方向を指を指しながらノルンに言った。だが、ノルンは不敵な笑みを浮かべながら答えた。

 つーか、嫌な予感しかしないのだが…


「わしも同じ宿に泊まるようになっとるんじゃよ」


 だよなー。そうだと思った。

 心の中でため息をつきつつも諦めて宿屋を目指して歩いた。宿屋に移動した俺らは受付で部屋の確認をした。


「すいません、セシルとノルンって名前で予約してあると思うんですけど…」


「えっと、セシル様とノルン様ですね。少々お待ちください。…ありました。昨夜と同じ部屋を使用してください。ベッドは二人分用意してありますので」


 受付の人から鍵を受け取り、昨日と同じ部屋に入る。ここまでは昨日と同じだ。昨日と違うのはなぜかノルンがいるってことなんだよな…ホントなんでいるの?いや、いちゃダメとかそういう訳じゃないよ。ホントダヨ?オレウソツカナイ。

 というわけで聞いてみた。


「で、なんでノルンもここに泊まるわけ?」


「ほら、夫婦は同じ部屋で寝るのが当たり前じゃろ?」


 待て、どうしてそんなに「なに言ってんだこいつ?当たり前だろ」みたいな顔してるんだよ!?俺がおかしいのか!?違うよね?違うよな?

 俺はノルンの両頬を引っ張った。


「本当のことを言え!」


「すいませーん。言うから言うから」


 とりあえず両頬の手は退けてやった。ノルンは引っ張られていた頬を手でさすりながら答えた。


「なんか、お父様とお母様が隣国に行ってくるから城に兵士がいないんだって。だから、セシルのところに泊めてもらえって…」


「最初からそう言えよ…まあ、泊まることに関しては別にいい。俺は風呂入ってくるから絶対に覗くなよ!」


「それは普通逆なのでは?」


 あれ?そうだっけ?まぁ、いいや。とにかく今は風呂だ風呂。

 荷物を持ってから部屋の外に出てから、一階に向かう。一階に降りてから共同浴場の男湯に入る。共同浴場は外にあり、たしか露天風呂って言うんだっけな?広さはそこそこの大きさで一回で二十人近くは入ると思うくらいの広さだ。

 俺は一度体を清めてから、風呂へと入る。


「ふう、いい湯だなー」


 ふと、空を見上げて見れば、夜空に星たちが輝いていた。


「綺麗な夜空だ…こういうのを満天の星空って言うんだっけな。まあ、なんでもいいや」


 とにかく今日は疲れた!エリカたちには顔を忘れられているし…いや、ちょうど成長期の時に離れたから昔と大分顔つき変わっているのは認めるけど、やっぱ覚えていてほしかったよなー。ノルンとかは一発で分かったのにな。まあ、これから大丈夫だろ。


「とりあえず、当面の目標は世間に俺の存在を知らしめることだな。見てろよ、最強の勇者が誰なのか教えてやる」


 その後、数分したらのぼせそうになるのがわかったのでさっさと風呂を出てた。

 部屋に戻ると、すでにノルンは寝ていた。

 こいつもなんだかんだ言って疲れたてたんだな。まあ、今日は寝かせといてやるか…そこが俺のベッドなんだけどな。

 俺は隣にあるベッドに潜り込んで数分で眠りについた。


「ふっ、セシルはチョロいな」


 …何か聞こえたようだが気のせいだろ。多分、きっと、恐らく。知らんけど。


 

 



 

 

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