入学試験ー①

 妙に男前な挨拶をしたのはシルビア王国第一王女であるノルン様だった。

 ノルン様は固まるセシルに走り寄って、そのまま抱きついた。


「ちょっ!ノルン止めろ!」


「お主はどれだけ我らが心配したと思っておる!絶対に離しはせんぞ!」


 そう言い切ると、ノルンはより一層セシルを強く抱き締めた。

 セシルはそう言われると弱いので大人しく受け入れることにした。

 セシルとノルンの周りにいるフレイヤや国王に王妃、その他兵士たちはその光景をニヤニヤしながら見ていた。

 し、視線が…た、耐えられない!


「ま、周り見て、周り。視線が恥ずかしいから!」


「ん?」


 セシルの言葉により、ノルンは周りを見渡すとニヤニヤしながら自分たちを見ている国王たちが…


「そ、そうじゃな!このくらいにしておこう!」


 状況を理解した途端に恥ずかしさで顔を真っ赤にし、すぐさまセシルから離れた。


「いやー、ラブラブじゃな二人とも」


「茶化さんでください国王」


 人が居るときに抱きついてくるのはホントにやめてほしい。恥ずかしすぎて死ねるから。


「して、三年間もどこに居ったんじゃ?」


 国王の質問にちょうどいいと思った俺はモンスターとの戦争が終わってからの三年間について語ることにした。


「あの戦争が終わって以来、俺は旅に出てたんだ。旅の途中で出会ったのはエルフにドワーフに、リザードマン…時には魔族なんかとも会ったりもした」


「エルフにドワーフに、リザードマン…さらに魔族だと…!?」


 国王や王妃、周りにいた兵士たちが驚きの声を上げた。

 ヒューマンは基本的に他種族に対して、遠い昔に酷い仕打ちをしてきたので嫌われているのである。そのため、他種族の多くはヒューマンを見かけた瞬間に殺してしまうとか。

 ヒューマンはそれを知っているからこそ、今では他種族に対して恐れを抱き、外に出るものはいない。

 だから、俺がシルビア王国を出て、他種族…エルフやドワーフ、リザードマンなどに会ったと伝えた時に周りにいた人たちは驚いたのだろう。

 だが、会ったこともない、見たこともないものを理由もなく恐がることなんて俺には無理だった。だから俺はシルビア王国から旅立ったんだ。そこでは色んな経験をすることができたし、見聞を深めることができた。


「確かに旅の途中で襲われたりもした。けれど、俺らヒューマンにだって優しくしてくれるやつらだっていた。だから、失礼を承知で言うけど他国と和解し交流すべきじゃないか?」


 俺はこの三年間旅に出てから見つけた答えを国王に伝えた。国王はさっきよりも驚きの表情をしていた。


「だ、だが、やはり危険ではないか?」


「何か問題が起こった場合は俺が全責任を取ります。だから、お願いします!」


 俺は国王に向かって頭を下げた。

 それから、長い沈黙が流れたが、やがて、国王が深いため息をつくと口を開いた。


「はぁ、わしの負けじゃ」


「じゃあ…」


「うむ、そなたの願い、聞き入れるとしよう」


 国王は笑顔でそう言った。その瞬間に俺は心のなかでガッツポーズを決めた。

 話が一区切りしたところでノルンが話しかけてきた。


「ところで、明日はシルビア学園の入学試験があるが大丈夫なのか?」


「えっ?あ、忘れてた!」


 そうだった。明日はシルビア学園の入学試験当日だった。ヤバい…何の準備もできてねえ……

 俺のことを察してか、ノルンは苦笑いした。


「そんなことだろうと思っておたぞ。そちの準備はこちらで済ませておる。出るときに渡すから忘れるなよ」


「アザっす!さすがはノルン様!」


「茶化すな!」


 ノルンはセシルの言葉に顔を赤くしてから、セシルの背中を思い切り叩いた。

 って、痛い痛い!バシバシ叩きすぎだから!


「ノルンよ、そこまでにしなさい」


 王妃の言葉にノルンは背中を叩くのを止めた。

 ふぅ、あのままだったら正直危なかったぜ。ナイスだ、王妃様!

 セシルとノルンの行動が終わったのを確認したフレイヤは国王に申し出た。


「そろそろ私たちは退出します。それでは」


 フレイヤの言葉でセシルとフレイヤは謁見の間を出ていった。


「はあ、明日は入学試験かよ…」


「まあ、そう落ち込むなよ」


 入学試験の存在を忘れてしまっており、その事実に今さっき気づいたことに落ち込んでいる俺の肩に手を置いてから慰めるフレイヤさん。俺は顔をフレイヤさんの方に顔を向ける。


「入学試験の内容って分かりますか…」


「えっと、たしか…筆記と戦闘だったはずだぞ」

 

「筆記あるんですか…」


 筆記とか絶対無理だろ。三年間もこの国に居なかったんだからなー。てか、七歳の時にこの国を出てるから勉強なんて分かるわけないな。よし!諦めるか…


「あっ、そういえばノルン王女がシルビア学園の入学試験に落ちたら一生世話を見て上げましょうって笑いながら言ってたぞ」


 ……諦めるのは良くないですね!合格するつもりでやらないとな。というか、絶対合格しないとダメだな!

 その後二人で話しながら歩いていると気づけばすでに城の外に出ていた。そこからは冒険者ギルドの前までフレイヤさんと一緒に行き、そこで別れた。

 俺はノルンの好意に甘え、王家がよく使う、つまり常連である宿屋を予約してもらっている。

 冒険者ギルドを離れてから約五分程度街の中を歩くとそれらしき建物が見えてきた。

 早速中へと入り、宿屋の店主に部屋を確認してもらい、案内してもらった。部屋の鍵を受け取った俺は中へと入った。

 部屋の中はベッドがひとつと机と椅子がひとつずつ置いてありそれ以外の家具はないはずなのだが、何故か机の上に何冊もの積み重なった本が置いてあった。

 とりあえず一番上に置いてある本を手に取ってみた。

 ええと、シルビア学園筆記試験過去問集だと…!?これ置いておいたの絶対ノルンだろ。というか、あいつ以外であり得ない!つまり、やらないと殺されるやつだな……よし、勉強するかな…

 とりあえず一番上に置いてあった問題集を開いてから、解いていく。

 第一問…分からん。次だ次。第二問…分からん次。第三問…分からん。やべぇ……何も分からねぇ。明日の筆記は諦めるか?いや、待てよ。俺が筆記とれないで落ちてみろ。ノルンに「問題集置いとったはずじゃが?こんなこともできないのなら死ぬがよい」って言われて、マジで殺されるぞ!それだけは避けなければ!

 その日、セシルの部屋の電気は消えなかったという。


 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る