七人目の勇者ー④
俺とフレイヤさんは今シルビア王国の城を目指して歩いている。
「そういえばさ、セシルって
「ええ、そうですけど……」
「じゃあなんであんなに強いんだよ!?」
フレイヤさんは俺の肩を両手で掴んでから揺らしてくる。って、ちょっ!揺らしすぎ!吐くから!
「ちょっ!落ち着いてください!話しますから、放してください!」
俺の言葉が届いたのか、フレイヤさんは大人しく両手を肩から放した。
ったく。めちゃくちゃ痛かったんですけど?ホント洒落にならねえぜ。
「で、どうしてなんだ」
「だから、前に言った通りですよ!それ以上でもそれ以下でもありません!」
「とにかく強いモンスター相手に戦ったってやつか?それだけであんなに強くなれるもんか?才能を持っているわけでもないのに」
「才能はあくまでその人の素質というか何ができるかを見えるようにしただけです。たまたま俺にはそれが無かっただけです。実際、才能を持っていない人と才能を持っている人の差は努力で無くすことができます。なのに、今のシルビア王国は才能だけで差別する才能差別が存在しているわけじゃないですか」
「む、たしかに」
今の世の中、才能を持っているやつは偉くて、才能を持っていないやつはゴミみたいな考えがある。
くだらない。
才能を持っていなくて努力をして、登り詰めたやつはゴミなのか?否、そいつはきっと才能を持って努力をしているやつの何倍もすごいはずだ。
「とにかく!俺が強いのと才能を持っていないことは関係ありませんから!」
「わかったわかった。けど、どんな訓練をしてきたんだ?」
フレイヤはセシルからの気迫に圧されたが、気になっていたことを聞いた。
「訓練ですか?」
「ああ。内容次第では駆け出し冒険者の育成に使えると思ってな」
「なるほど…でも、あんまり役に立たないと思うんですけど…」
「大丈夫だ。参考程度に考えとくだけだから」
フレイヤはセシルに対して、いい笑顔をしながら、サムズアップをした。うぜぇ…
「はぁ、まぁいいですけど…」
小さな溜め息ひとつついてから、話を続けた。
「そうですね…まぁ、簡単に言ってしまえば、勝てない相手に勝つまでやる…ですかね」
「?どういうことだ?もう少し分かりやすく言ってくれ」
「普通は自分よりも弱い相手と戦いますよね?けど、それに勝ったとしてもつくのはしょうもない自信だけで、大事な実力はつきません。なら、どうすればいいか?考えればわかります。自分よりも強い相手と戦えばいい」
どんなに勝てる相手と戦い、勝ち続けたとしても、実力はつかない。ついてくるのは、
自分よりも弱い相手に勝ったというただの自己満足だけだ。けど、それじゃダメだ。
強くなりたかったら、常に自分の限界値に挑み続け、そして、越えていくことが大事だと思う。
勝てない相手と戦う時、人はどうやって勝とうとするか?
答えは、とにかく知恵を絞る。
人類の一番の強い点は考える力だと俺は考えている。この力は、動物にも獰猛なモンスターにも負けることはない。きっと、あの魔王にすら勝てるかもしれない可能性をも秘めているほどだ。
「自分よりも強い相手と戦い、負け、考え、挑み、また負けて考えての繰り返しをして、そして、ようやく勝った時に実力がつきます」
「…めちゃくちゃ参考になったわ」
フレイヤはポカンと口を開けたまま、顔には驚きの表情を浮かべていた。
これで納得してくれるならいいんだが…
「ところで、なんでフレイヤさんは冒険者のギルド長になったんですか?」
俺がフレイヤさんに聞くと、フレイヤさんは質問の意味が分からなかったのか、一瞬頭に?を浮かべていた。
だが、質問の意味が理解できると答えてくれた。
「俺は若い頃はシルビア王国に仕える英雄騎士になりたかったんだ」
「英雄騎士ですか…」
英雄騎士とは、シルビア王国の騎士の中の騎士と言われており、兵士たちにとって憧れの存在である。
しかし、それなら何故王国兵士にならずに冒険者になったのだろうか?
「昔は王国のために、なんて頑張っていたが、ある日転機が来たんだ。兵士見習いとして遠征に行ったときに中々寝付けなくて一人で気分転換に水辺に行ったんだ。で、水面を見ながらボーッとしてたら、何か大きな影が俺を包み込んだよ。それで、見上げてみたらどこまでも透き通った鱗に巨大な体を持った
「じゃあ、兵士見習いは辞めたんですか?」
「当たり前だろ?遠征が終わってからすぐに荷物をまとめてから兵舎を出た。そんで、冒険者ギルドに行ってから冒険者になって、今に至るってわけよ」
「ほへぇー」
この人は中々の行動力を持っているようだ。いや、そんくらいなきゃ冒険者のギルド長なんてなれないか。
「だが、ギルド長になってからの日々は辛いものだった…」
「え、ちょっ」
「分かるか!?朝から晩まで仕事に追われ、終わったと思えばまた仕事の追加…絶対にいつか辞めてやる!」
フレイヤさんの明るい話から一転し、暗い話になってしまった。というか、フレイヤさん、社畜ドンマイです……そして、イチイチ俺の肩を掴むのは止めてください。痛いんですからね!
「そんなことよりも、もう城が見えてきましたけど…」
「そんなことで片付けられちゃたよ…」
フレイヤさんの愚痴は長くなりそうだったので、話を切り上げることにしたが、俺のそんなこと発言により、落胆しているようだった。
俺は落ち込んでいるフレイヤさんは放置してから、見えてきた城の方に顔を向ける。
シルビア城は高い城壁に囲まれており、さながら要塞のようだった。
城へと通じる唯一の入り口である門につくと、門番をしていた兵士に用件を伝え確認をとってもらった。
許可がおり、実際に城の中に入った俺たちは最上階にある謁見の間へと向かった。
無駄に長い階段を登りきり、やっとのことで謁見の間の前につくと、しっかりと呼吸を整えてから足を踏み入れた。
謁見の間には王と王妃、そして第一王女がいた。
俺たちは前へと進み、王の前にまで行くと、膝を曲げてから地面につけ、頭を下げる。
「王よ、御無沙汰しております」
「フレイヤよ、久しいな」
フレイヤの応答に答えた王は、もう若くないように見えるが、一国の王としてのプレッシャーは未だ現役のようだった。
フレイヤが話を始める前に王が先に切り出してきた。
「して、後ろに居る男こそが
「もう顔を忘れちまったのか?老化が進んでるじゃないか?」
「その話し方は、やはりセシルなのか!?」
「俺以外のセシルでこんなやついると思いますか?」
王はセシルとの謎?の受け答えにより、本当に七人目の勇者が見つかったという事実にただ喜んでいた。
だが、喜んでいたのは王だけではなかったのだ。王妃も第一王女も彼の発見に喜んでいる様子だった。しまいには、周りにいた兵士たちもが歓びの声を上げた。
「俺が来るほどの緊急事態でもあったんですか」
「うむ、それがな……ないのじゃ」
「はい?」
思わず聞き返してしまった。
人を城に呼んだことに特に意味がないだぜ?これに驚かないやつはいないだろ。というか、耳を疑うだろ。
「じゃが、強いて言うのならばそこにおる我が娘であるノルンが会いたいとしつこくお願いされたからかのぅ」
俺が首を回して、第一王女ノルンの顔を見ると、子どもがイタズラが成功したときのような笑顔を浮かべていた。
なんで俺はノルンにここまでちょっかい出されるのか……
「久し振りだな!セシルよ!」
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