七人目の勇者ー②
フードを被った人は一本の剣を持ち、ファイヤードラゴンへと斬りかかった。
ギルド長は自分がやったように硬い鱗に阻まれてしまうと思っていたが、その剣はファイヤードラゴンの硬い鱗を切り裂き、その肉までもを傷つけた。
ファイヤードラゴンがその攻撃でたじろいでいる隙にフードを被った人は更にファイヤードラゴンに傷を増やしていく。
「す、すごい…剣術の
フードを被った人はたった一人でAランクモンスターであるファイヤードラゴンを圧倒していた。
だからこそ、気づくことが遅れてしまったのだろう。Bランクモンスターであるオーガがいることに。
フードを被った人はファイヤードラゴンに止めを刺そうとしたが、横から来たオーガに気づくことが遅れてしまい、攻撃を受けてしまった。
オーガの攻撃を受けた拍子で、被っていたフードがふわりと外れてしまい、その顔が明らかになっていた。
短髪である黒髪に美形である顔で美少年…なんかではなく目にかかるまで伸びた前髪に美少年とは言えないし、かといってブサイクか?と聞かれたら、ノーと答えられるほどの顔だった。つまり、普通の顔だった。
「あー、あんまり顔見られたくなかったんだけどな…」
フードを被っていた少年はフードが外れてしまったことを愚痴りながらもしっかりと先程襲い掛かってきたオーガを上手く剣を使いこなし、ものの数秒で片付けてしまった。
「あとはファイヤードラゴンだけっと」
フードを被っていた少年はファイヤードラゴンに向き直り、一瞬の間にファイヤードラゴンを一閃した。
残ったのは、綺麗に半分に斬られているファイヤードラゴンと無惨にやられたオーガとその状況に驚いているギルド長だけだっ た。
フードを被っていた少年はギルド長の近くまで移動してから声を掛けた。
「えっと、取り敢えず大丈夫か?」
「あ、ああ。…しかし、君は何者なんだ?君ほどの実力者が無名な筈が無いだろう?」
フードを被っていた少年はギルド長の質問に対してか、少しばかり考え込んでから答えた。
「名前くらいは名乗っといてもいいか…俺の前はセシル。よろしくな」
「そうか、セシルという名前なのか。俺の前はフレイヤだ。シルビア王国で一応冒険者のギルド長をしている。こちらこそよろしくな」
「げっ!?マジかよ…ギルド長ってことは俺を探しに来た可能性有るじゃんか…」
「何か言ったか?」
「い、いや何も言ってないぞ!」
セシルの呟きはあまりにも小さかったので、フレイヤに届くことはなかった。セシルはそのことにほっと胸を撫で下ろした。
「それで、なんでギルド長がこんな山奥なんかにいるわけ?」
「この場所に今噂になっている七人目の勇者がいると聞いたからここに探しに来たって訳だ」
「あーハイハイ、なるほどね。けど、なんでその七人目の勇者なんかを探しているんだ?」
セシルの問いに対してフレイヤは言ってもいいか迷ったが、あまり時間も無いので素直に話すことにした。
「国王直々の依頼でな。なんでも第一王女のネイ様が七人目の勇者に会いたがってるからだそうだ。だけど、七人目の勇者なんて国の報告書には存在していないし、情報全く無いってのに、あと二日以内に見つけてから城に連れていかないといけないんだよ…そんなの無理にきまってるだろ!?約束の日が近づく度に国王からの圧力が日に日に増していて胃に穴が空きそうなんだよ…」
フレイヤはセシルに現在の状況だけでなく、国王からの不平不満についていつの間にか話していた。
セシルはそんなフレイヤを見てから、少し考え込む素振りを見せるとフレイヤに言った。
「七人目の勇者のことなら知ってるぞ」
「本当か!?どこにいるんだ!?」
「目の前」
「へ?」
フレイヤはどこか締まらないぽかんとした顔にした。しばらくそうしていたが、すぐに元に戻りもう一度聞いた。
「すまん、空耳だったようだ。七人目の勇者はどこにいるんだ?」
「だから、目の前にいる」
「おーそうかそうか、ってえええええ!」
フレイヤは山全体に響き渡るほどの大声で叫んだ。その後、ワナワナと震えながらセシルの方を指差した。
「お、お前が七人目の勇者だと!?」
「勇者がみんながみんな美少女美少年じゃないからな!」
「お、おう」
セシルは一番気にしていたことをフレイヤに言われたようで、フレイヤの言葉に食いぎみで答えた。
フレイヤはセシルの鬼気迫る顔に押されていた。
「というか、そんなに簡単に教えていいのか?」
フレイヤの言葉にセシルはあーと言いながら、答えた。
「実はさっき言っていた第一王女のネイから脅されて、私と結婚して有名になるか、学園に入って有名になるかえらびなさい!って感じで。それで、渋々学園に入ることにしたんだ。だから、もう別にバレてもいいかなーって思ったから」
「…お前も大変なんだな」
「…そっちに比べたら楽な方さ」
二人ははははって笑い合うと互いに深いため息をついた。少し状況は違えど、互いに苦労しているのは同じなためか、この二人はすぐに気が合い、互いに意気投合していた。
二人は他愛のない話をしていたが、フレイヤが話題を変えた。
「そういえばセシルは何の才能を持っているんだ?やっぱり剣術か?」
フレイヤの質問に対してセシルは少し嫌な顔をしたが、すぐに元に戻してから答えた。
「いや、俺はそんな才能を持っていない」
「持ってなくてあれかよ!じゃあ何の才能を持っているんだよ」
「………っない」
「え?すまん聞こえなかった」
「持ってないんだよ、才能なんて」
「は?え、えええええ!?」
本日二度目のフレイヤの叫び声がヤンヌ山に響き渡った。
だが、フレイヤが驚くのも無理はない。あの勇者と名乗った人物が何の才能も持っていなかったらそれは誰だって驚くに決まっている。さらにフレイヤは先程の桁外れな戦闘力を目の当たりにしている。信じるという方が無理があったのだ。
「そ、それならどんな神器が使えるんだよ!勇者はみんな神器を扱うんだろ?」
フレイヤの言葉を聞いたセシルは右腕に着けている腕輪を見せた。
「これ」
「いや、それだけじゃわからないから!」
セシルはフレイヤの言葉を聞いてから、少しばかりため息を吐いてから説明した。
「この腕輪は《神全ゼクスティクス》と呼ばれている神器だ。ここまで言ったらわかるだろ?」
フレイヤはその名前の神器に聞き覚えがあった。
《神全ゼクスティクス》は、全知全能であるゼウスの力が宿っていると言われている神器だ。その強さは他の神器と比べ、破格の性能だったそうだ。だが、この神器はある時は剣として現れ、またある時には槍として現れた。その原形を見たものは誰一人としていないと言われるほどの超レアなアイテムなのである。
「けど、それだけじゃさっきの動きは説明できないだろ」
「それもそうだな……あれだ、あんな動きができるのはとにかく強いモンスター相手と戦い続けたから、かな?」
「強いって……どのくらいなんだよ?」
「少なくともAランク以上。一番強い時は魔王とやったなー。あの時が一番死ぬかと思ったなー。はははっ」
「……」
フレイヤはセシルの言ったことに言葉を失っていた。少なくともAランク以上のモンスター相手にとにかく戦い続け、生きているということは、つまりずっと勝ち続けてきたということになる。あの魔王にさえも勝ったということになる。これ以上に驚くがあるだろうか?
「というか、フレイヤさん。俺は今から城に向かった方がいいんですかね?フレイヤさんの胃的に」
「あ、ああ。そうだな。一度冒険者ギルドに戻ってからにしよう」
「そうですね」
セシルとフレイヤの二人は行き先が決まり、ヤンヌ山を下りていった。
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