セブンス・ブレイバー

春夏秋冬 暦

七人目の勇者ー①

 この世界の人々は何らかの才能センスを持ってからこの世の中に産まれてくる。

 それは剣術だったり、錬金術だったり、魔法だったりとその才能は多種多様に存在している。

 それぞれが自分の才能に合った仕事に就き、働いていた。

 もちろん、戦闘に特化した才能の持ち主は冒険者となり、モンスターを討伐しながら生計を立てたり、騎士となりこの国を守ったりしていた。

 しかし三年前、魔王率いる大量のモンスターの軍勢がヒューマンが住むシルビア王国を攻めてきた。王は王国内にいる戦える者たちを集め、モンスターの軍勢に対抗した。だが、魔王率いるモンスターの軍勢は王が想像していたものよりも強く、ヒューマンである冒険者たちはただやられるだけになってしまっていた。

 そこで、王はこの状況を打破するために神器を操ることができるという子どもをかき集めた。それによって六人の子どもたちが選出された。

 その六人の子どもたちは自分に合った神器を使いこなし、見事モンスターを撃退しシルビア王国に平和をもたらすことになった。

 モンスターを撃退した子どもたちは『勇者』と呼ばれ、それぞれをセイバー、ランサー、アーチャー、ガーディアン、ヴァルキュリー、ブレイカーと呼ばれていた。

 しかし、現在になってからこんな噂を聞くようになった。

 その噂とは、実は勇者は六人ではなく七人目がいて、その勇者は『オールラウンダー』と呼ばれているという噂だった。

 

「ふぅ…」


 ここはシルビア王国の冒険者のギルドの一室であるギルド長の部屋であった。そこではガタイのよい男がイスに座ってから書類に目を通してから、深く息をついていた。


「七人目の勇者ねぇ…本当にいるのなら見たいものだな」


 ギルド長は書類を机の上に置くと、部屋から出て行き、一階にある受付へと向かった。


「あっ!おはようございます!」


「おはよう」


 ギルド長は受付嬢からの挨拶を返してから、受付嬢の前の席に座った。

 

「どうだ?最近の冒険者たちは?」


「うーん、そうですね…やっぱり例年に比べると少し落ちている気がします」


「やっぱりか…」


 原因は分かっていた。三年前の『あの戦い』の時にほとんどの腕利きの冒険者が亡くなっているからだ。

 そのため、新人の育成に力を入れているのだが、やはり高難易度のクエストを受けてくれる人がいないためギルド長自らが討伐に行かないといけない状態である。

 ギルド長がうんうんと唸っていると、受付嬢は何か思い付いたのか手を叩いてから話し始めた。


「そういえば聞きましたか?あの話」


「あの話?」


「今現在王都にあるシルビア学園に六人の勇者がいるのは知ってますよね?」


「ああ、勇者たちが未だ生きている魔王を倒せるよう神器の力を十二分に発揮できるようにするため、だろ?」


「ええ、よくご存知で」


「当たり前だ。これでも俺はギルド長なんだからな。それで?話はまだ終わりじゃないんだろ?」


「はい、そのシルビア学園に今年度からあの噂になっている七人目の勇者が入ってくるそうなんです」


「それは本当か!」


 ギルド長は思わず身を乗り出した。受付嬢はギルド長の思いもよらぬ行動に驚いたものの、すぐに気を取り直して続けた。


「ええ、本当だそうです」


「そうか、そうなのか…ちなみにどのくらいの情報までなら分かる?」


 ギルド長はふとした疑問を受付嬢にぶつけただけだった。これだけ国中で噂になっているからにはある程度の情報は聞き出せると思って聞いたことだった。

 ところが、受付嬢はギルド長の言葉に困った顔をしてから答えた。


「いえ、それが全くといっていいほど情報が回ってこないのです」


「何てこった…また、振り出しに戻ったじゃねえか…」


 ギルド長は脱力して机にうなだれた。しばらくそうしていたが、突然ギルド長は起き上がって受付嬢に質問した。


「それ以外に何か最近噂になっていることはないのか?」


 ギルド長の質問に受付嬢は少し考え込んでから席を立ち、何やら書類を棚から取ってギルド長に渡した。

 ギルド長は受付嬢から書類を受けとり読み始めた。


「……最近近くのヤンヌ山にAランク以上のモンスターが出没している。そのモンスターたちに襲われた商人たちは、突然現れたフードを被った男に助けられた。この他にも、そのフードを被った者に助けられたという人は後を絶たない…」


 書類を読み終えたギルド長は思わずため息をついてしまった。


「…それで、この報告書と七人目の勇者に何の関係が?」


 ギルド長は国王から七人目の勇者を見つけろという《依頼》を受けているため、一刻も早く七人目の勇者を探さない状況にあった。そのため、こんな噂に近い報告書にイチイチ反応しているわけにはいかなかった。

 しかし、受付嬢の反応は思っていたものより違っていた。


「よく考えてみてくださいギルド長。Aランク以上のモンスターが出没しているなか、そんな強力なモンスターを人々を助けながら撃退できる人なんてこの国に何人いますか?」


「確かに……考えてみればそれもそうだな。Aランクモンスターよりも上のモンスターなんて俺でも倒すのが難しいからな…」


 ギルド長は考える素振りを見せると、立ち上がってからドアに向かって行った。


「よし、少しヤンヌ山に向かってみるか…」


「ギルド長!いつお戻りになりますか?」


「明日には帰ってくるさ。それまではこのギルドを任せたぞ」


「はい!」


 受付嬢の元気のよい返事を聞いてから、ギルド長は外へと出ていった。


「はぁ、ヤンヌ山か…ここからだと片道一時間もかかるのかよ…」


 外に出てしまったギルド長は未だ朝だというのに照りつけてくる太陽に若干キレながら、長い道のりを歩いた。

 一時間後、ヤンヌ山に着いたギルド長は取り敢えず麓にはAランク以上のモンスターが下りてきていないかを確認した。


「…モンスターが下りていった形跡は見られない…ひとまず安心だな。とにかく上に登ってみるか…」


 ギルド長はヤンヌ山の中腹を目指して登り始めた。


「はぁ、これで七人目の勇者がいなかったら休暇貰おうかな…」


 そんな感じでブラブラと山を登っていると、何やら森の方がざわつき始めた。

 それに気づいたギルド長は音の鳴る方へと足を進めた。

 音のした近くまで来ると、そこにはAランクのモンスター、


「ファイヤードラゴン…」


 燃えるような真っ赤な鱗に、体長五メートルを超える巨体、口からは炎が少しだけ溢れている。

 やはり、Aランクのモンスターだけあるためにさっきから近くにいるだけでものすごい圧のプレッシャーを受ける。


「はぁ、今日はついてないな。ここのまま放っておくと危険だから今やるしかないか…」


 ギルド長は腰に下げていた剣を抜いてから、ファイヤードラゴンに気づかれないように後ろに回り込んだ。

 後ろに回り込むと小石を拾い、ファイヤードラゴンの前目掛けて投げた。

 小石が落ちる音に反応したファイヤードラゴンに対して今が好機と思い、襲い掛かった。

 ギルド長の剣はファイヤードラゴンの背中目掛けて刺さろうとしたが、鱗が想像以上に硬く弾かれてしまった。


「しまった!」


 ギルド長の剣が当たったことに気づいたファイヤードラゴンはギルド長に向き直り、咆哮を挙げ、ギルド長に襲い掛かった。

 ギルド長は自分の持っている剣が使い物にならないと判断したため、ファイヤードラゴンの攻撃に対して、回避を優先して行った。


「ファイヤードラゴンの鱗がこんなに硬いとか知らなかったぞ!」


 愚痴りながらもしっかりとファイヤードラゴンの攻撃を避けている。

 だが、ファイヤードラゴンにばかりに気を捕られてしまい、後ろから近づいてきていた別のモンスターに気づくことができなかった。


「なっ!Bランクのオーガだと!」


 顔を上げると体長約三メートルほどのBランクモンスターであるオーガがこっちに向かってくるのが分かった。


「おいおい、マジかよ…挟み撃ちとか無理ゲーだろ…」


 オーガはギルド長に向かって手にしていた棍棒を振り下ろした。


「クッ!」


 その攻撃を横に転がりながら避けたが、ファイヤードラゴンに追いつかれてしまい、自らの死を悟っていた。

 ファイヤードラゴンは一歩一歩確実にこちらに向かってくる。

 ギルド長はその姿を見ながら、小さく呟いた。


「ハッ!死ぬ前に結婚だけはしときたかったぜ…」


「死ぬにはまだ早いんじゃない?」


 ギルド長の小さな呟きを拾って、返答した人は森の中から颯爽と現れた。

 フードを深く被っているため顔はよくわからないが、背丈は大人の自分よりも小さく、子どものようだった。

 フードの人はギルド長とファイヤードラゴンの間に立った。


「ファイヤードラゴンか…本気でやらなくても十分だな。《フォルムチェンジ:ソード》」


 フードの人がそう呟くと、右の腕につけていた腕輪が光輝いたかと思うと、次に目を開いた時にはフードの人がつけていた腕輪は無くなっており、代わりにフードの人の手には一本の剣が現れていた。


「さぁ、死ぬ用意は出来てるか」

 

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