第66話65.戦場 5

 雲は低く、そして黒く垂れこめていた。

 春が間近で、晴れ間の多いこの季節では珍しい。太陽は今日は見られないかもしれない。夜がいつ明けたのかも定かではなかった。

 風は最早冷たくはなかったが相変わらず強く、そして雲はまるで生き物のように、のたうちながら北の空へどうどうと流れてゆく。

 北へ北へ。

 あの雲の流れる果て、今もまだ白い雪で覆われた彼の地に住まう人の元へ。

 少し照れたように微笑む可憐な姿を思い起こしたいのに、瞼の裏に浮かぶのは長い睫毛を伏せた憂い顔。

 これは俺の心が弱っているからだろうか?

 ファイザルはそんな己を嘲笑った。

 何を今更。あの人と別れてから一体何人もの命をほふったと思っているのだ。眉一つ動かさずに。何十人、いや、何百人か? この手は、最早どうしようもなく血と罪にまみれている。

 無垢なあの魂とはほど遠く。

 遠すぎてもう、届かないな……。

 しかし後悔はない。ファイザルは僅かに目を細めた。

 この戦いが終われば、国を守れる。あの人を守れる。その為に俺はここへ戻ったのだ。

 ウルフェイン平原は広い。

 前方には草原、背後の大地には鉱石を掘り出した名残の幾つもの大穴が穿うがたれた、奇妙な風景が広がる。この地域の採掘現場は今は稼働していないが、そこに|蟠(わだかま)った風が異様な音を立てている。それはまるで大地が泣いている風にも聞こえた。

 彼は風の音を聞くように眼を閉じた。

「どうした?」

 目ざとくその様子を見咎めた隣のセルバローが声をかけた。探るような瞳で馬のくつわを寄せる。この戦友は鋭い感性をもっているのだ。

 それは戦いにおいて非常に頼りになるのだが、今のように心の奥底に秘めた想いがある場合には剣呑でもある。

「……なにも」

「敵を前に眼を閉じるなど、不吉だぞ」

「わかっている」

 目も合わさずに言い捨てると、ファイザルは愛馬ハーレイ号の逞しい首を叩いた。

 頑張ってくれ。この戦いを乗り切ったらしばらく休ませてやれる。

 馬も知っているのだろう、体中の筋肉がぴくぴくと勇んでおり、低くいなないて前足で土を掻く。

 そう逸るな、もう少ししたらいくらでも駆けさせてやる、とファイザルは腕を伸ばし、宥めるように長いたてがみを梳いてやった。

 彼の両脇には三百リベルメートルに亘って、彼の意のままに動くように訓練された騎兵が整列していた。背後にもまた然り。更に後方には歩兵がひしめいている。

 総勢三万の軍勢。しかし、これだけの人数にも関わらずしわぶきの音一つ漏れない。皆、前方一デリベルキロ向こうの地平線を注視していた。そこに彼等の敵がいる。

「司令官殿! 突撃準備完了いたしました! 皆ご命令をお待ちしております」

 伝礼の兵士が馬を寄せ、敬礼をする。ファイザルは静かに頷いた。

「言ったとおりだ。中央突破の陣形はほこ。左右の陣形は鎌。一気に取り囲む。手向かうものには容赦はせず、敗走する兵は構うな。そして狙うは――」

「は! 心得ております。ご命令は一兵一兵に至るまで、肝に刷り込まれておりまする」

「そうか。では」

 ファイザルはそのまま馬を前に進め、一糸乱れぬ隊列を組んだ自軍を振り返った。

「エルファランの勇士諸君!」

 錆びた声が、空気をびんと鳴らして草原に響く。

「今まで俺についてよく働いてくれた。諸君らのおかげで失われかけていた、我が国の領土は全て取り戻し、国境侵犯も最早ない。だが、『バルリングの大熊』の脅威が去った訳ではない、彼はまだ健在だ。一デりベルの向こう、敵軍の奥にいて失地回復を虎視眈々とねらっている!」

 オオオオオオオ!

 彼の声に呼応して戦士たちが声を上げた。ファイザルは大きく頷く。

「先の戦いで我々はザカリエ軍に勝利した。その勢いのまま今度こそ敵をつぶす! 大熊に二度と反撃の機会を与えてはならない。今までどれだけの戦友が、無辜むこの民が、彼の野望の元に無念の最期を遂げてきたか!」

 オオオオオオオ!

 先ほどよりもっと大きな雄たけびが響き、風の音すら掻き消してしまう。

「我々はいま、かつて無いほど彼を追い詰めている! この機会を逃してはならない。この戦いを最後と心得、敵軍を完膚無きまでに殲滅せしめ、大熊を討つ! そして、勝利をこの手に国に帰るのだ!」

 オオオオオオオ!

 大地を揺るがすときの声はおそらく敵にまで届いただろう。

 野郎……司令官ぶりが板についてやがる。

 セルバローは密かな感想と共に戦友を見つめた。

 戦士たちは皆一心にファイザルを注視し、その言葉を聞きもらすまいとしている。これだけの部隊でこのような状況は珍しい。

 この戦、勝つ!

 セルバローはそう確信した。

「進軍! 熊退治だ! 俺に続け!」

 ファイザルは長剣を高々と掲げ、馬に拍車をくれた。

 たちまち怒涛のように大地を揺るがせ、三万もの騎馬兵が赤い荒野にひずめの音を轟かせる。

 春が間近。一面を覆う枯れた草の根元には瑞々しい新芽が潜んでいる。しかしそれらはあっという間に軍馬の蹄に蹴散らかされた。


「進め進め! 怯むな!」

 両軍供、相手を見とめると、馬上高く楯が掲げられる。各隊長の合図で、その後方から歩兵による矢が雨のように放たれた。

 しかし、扱う弓の強度、射手の技術共に、ファイザルの部隊の方が勝っている。敵の矢の多くが騎馬軍の手前に落ちるのに対して、エルファラン軍の強弓こわゆみから放つ矢の威力は高く、次々に敵兵たちの喉や肩に矢がつき立ち、叫び声をあげて落馬していく。それへ後続の騎馬が乗り上げ、たちまち敵の騎馬部隊は最前列から戦列を乱した。

「よし、このまま中央を突破する! 隊形を整えろ! 俺に続け! 隙間を作るなよ!」

 前を見据えたまま、ファイザルが怒鳴る。彼を先頭にした先鋒は一文字に突き進む矢のように、敵軍の中央をまるで布を裁つように切り裂いていく。

 そして戦列を真っ二つにされたザカリエ軍が浮足立つ間に、次鋒の騎馬部隊が両翼から波のように襲い掛かり、敵味方は交錯した。

「進め、進め~!」

 勇躍する兵士たちの叫び声。忽ち激しい戦闘がそこら中で開始された。

「左の隊列が乱れたぞ! 突撃!」

 隊長格の兵士の怒号が飛ぶ。それに応えて最前線の戦士たちが身を低く馬に伏せ、突っ込んでゆく。一見乱戦状態に見えるが、ザカリエ軍が数騎ごとで孤立して戦っているのに対し、エルファラン軍は十数騎で小さな陣を組んでいる。ファイザルが考案した、死傷者が少なくてすむ戦法である。

 後方で弓を射ていた射手は、援護射撃の効果がなくなった時点で弓を収めると得物を槍に変え、新たに隊列を組んだ。混戦の中での矢戦は味方を誤って射てしまう恐れがあるからだ。その判断の素早さもエルファラン軍が勝る。

 訓練された勇敢な軍馬たちは、前方の敵兵を見ても些かも怯まず、その速度を緩めない。乗り手の思うがままに地を駆ける。霜が融けてぬかるんだ大地に千切れた草の破片が舞った。

 終に、平原の南で全軍による総力戦となった。

 怒号、悲鳴、軍馬の嘶き、鉄が打ち合う鋭い響き、鈍く何かが潰される気味の悪い音。草原は様々な音声のるつぼと化している。

 乾ききった枯草に血飛沫がざん、と打ちつけられ、その跡を隠すかのように兵士が倒れ込む。斬った兵士は斬られた者を見返りもしないで、新たな敵に向かってゆく。

 冬の草原は生と死を分かつ境目となり果てていた。

 そのただ中を。

 長剣をふるいながら、一人の男が敵をぎ払いながら突破してゆく。

「あいつだ!」

「掃討のセスだ!」

「怯むな! 首を揚げて手柄を取れ!」

「取り囲め! 馬から引きずりおろすのだ!」

 多くの兵士が喉を裂かれ、ハーレイの蹄に掛けられて地に転がろうとも、後から後からファイザルの前に歯向かう戦士は後を絶たない。敵兵も流石に、この戦いが最後の正念場と心得ているようだった。

「おのれぇっ!」

 怒りと苛立ちの叫びが迸る。蟻のように群がる兵士達にさしものハーレイも速度が落ちてきたのだ。

「この有象無象うぞうむぞう供め! 死にたくなくば退け!」

 ファイザルは尚も駆けながら剣を奮い続ける。

「援護するぞ!」

「頼む!」

 燃えるような赤毛の戦士がファイザルの左後方から追いついてきた。兜はつけないのがこの男、ジャックジーンの流儀である。頭部には額を守る鉢金だけだ。彼は敵戦列の端から回り込む左翼の指揮官なのだが、追いついてきたと言うのだろうか。

「へぇい! はじめましてのご挨拶だ! 受け取れ!」 

大段平おおだんぴらから放たれる剣風は凄まじく、一撃のもとに敵兵を倒してゆく。

 対峙してしまった不幸な兵士たちは、例外なく体の一部を切り離され、彼の馬の足もとに崩れ落ちた。凄惨な光景のはずなのにその動きは華麗な舞を見ているようで、ファイザルの後ろから追いすがっていたジャヌーは秘かに感嘆の吐息を洩らす。

「わはははははっ! よく聞け! 俺は『雷神』のジャックジーン・セルバローだ! お前ら名誉だぞ! この俺の剣に懸って死ねるんだからな!」

 名乗りを聞いて何人かの兵士が馬ごと後退さった。

「はははは! 心配するな! 俺の剣は速過ぎて斬られても痛くない! あっという間に天国だ! いや、地獄か。わははははは!」

 豪快に高笑いしながらも、その剣は刹那も止まらず右に左に斬って落とされ、彼の背後には最早動けなくなった敵が積み重なってゆく。

「うん、いいぞ! 東の奴らと違ってなかなか手ごたえがある。流石に『大熊』の子分どもだ。仔熊だ! 勇敢だぞ! 仔熊!」

 なんという、傍若無人振りだ。

 ジャヌーはこんな時ながら愚弄される敵が可哀そうになった。だが、戦は一瞬の感慨も許さない。斬りこんできた敵兵の剣を受けると、ジャヌーは力任せに薙ぎ払った。

 彼の重い一撃を受けて堪らずに兵士がふっとぶ。外れた兜からは自分よりも若い兵士の顔が覗いた。しかし、後も顧みずジャヌーは馬を駆る。左腕の向こうからセルバローのよく通る声が掛けられた。 

「おい、お前! 馬を少し横に寄せろ! 手伝え! あいつの右前方を切り開くんだ、俺は左に回る」

「はい! 司令官殿の前に道を作るんですね!」

 ジャヌーはすぐさまセルバローの意図を理解し、馬を進めた。ファイザルの真後ろにいたせいで、ジャヌーの馬にはまだ余力がある。彼は勇躍し、セルバローの反対側、敵兵とファイザルの間に打って出た。

「ほほっ! 速い速い! なかなか見どころがあるな!」

「はぁっ!」

「このまま両側を支えろ! この先に熊がいる! どんどん強くなるからぬかるなよ!」

「心得ました! 司令官殿! このまままっすぐ駆けてください!」

 ジャヌーは長剣を操り、敵を薙ぎ払いながら叫んだ。

「おお!」

 ファイザルを先頭に右にジャヌー、左にセルバロー、そして後に続く精鋭たちが、矛の先頭で敵兵を蹴散らかしてゆく。

 やがて前方に黒い甲冑、黒い髭の一際目立つ体格の戦士が見えた。

 見つけたぞ! バルリングの大熊!

 僅か30リベル向こうに目指す敵を捕捉し、ファイザルは薄く笑った。 

「ドーミエ将軍! 恋しゅうございましたぞ!」

 放たれた声はどこか楽しげだった。

 何重にも精鋭達に囲まれたバルリングの大熊ことドーミエ将軍は、遠目からでも有名なその風貌でよく目立つ。

 既によわい五十を超えているはずだが、黒々とした豊かな髪と髭はすさまじく縮れあがって、ただでさえ雄渾ゆうこんな体格を更に大きく見せていた。

 ファイザルの叫びが届いたのかどうか、ドーミエは熊を形どった恐ろしげな兜の下から、突進してくる一人の戦士を見とめた。

 しかし、おそらく彼の護衛且つ側近だろう、いかにも歴戦の勇士とした様子の戦士たちが将軍を守るように立ちはだかる。

「セス! 正面の不細工なおっさんは任せるぞ! 後は俺たちが引き受ける!」

 セルバローが怒鳴る!

「よし!」

 ファイザルは戦士たちの中央に立つ、ひときわ精悍な風貌の騎馬兵に狙いを定める。風貌から言ってドーミエの盟友に違いない。自分を盾にドーミエを守ろうというのだろう、顔に大きな傷跡があるその戦士もファイザルに向って雄叫びをあげながら馬に拍車をくれた。

「おおおおおおお!」

 ファイザルのそれよりも大きな剣が降り上がり、同時に腹の底から絞り出される気合いが放たれた。

「推参!」

 ファイザルも負けじと叫ぶ。やっとここまで来たのだ。

「若造め! 笑止!」

 お互いの軍馬が敵を見とめ、速度を上げた。二つの大きが影が黒い疾風となって駆け違える。

 ギィン!

 僅か一合で勝負はついた。

 敵戦士の馬は乗り手を失っても尚速度を緩められず、繰り広げられる戦闘のただ中へと飲み込まれてゆく。

 跡には泥にまみれて動かなくなった戦士が残された。その大きな体の下から赤い染みが広がっていき、地に張り付いた枯草を気味の悪い色に染めた。

「おおっ! 一刀両断だよ。流石だねぇ、こわいわー。じゃあこっちも……! そら!」

 セルバローが陽気な声をあげて次々に敵と斬り結んでゆくのに一瞥も払わず、ファイザルは正面で呆然と死体を見つめる男に向き合った。足もとに|床几(しょうぎ)が転がっている。

「おおお……サンダーン……サンダーン……ありえぬ。お前が一刀のもとにやられてしまうなど!」

 地獄の番犬が絞り出すような声にファイザルは馬首を返し、粛々と馬を進めた。

「ドーミエ将軍閣下でございますね?」

「……」

 黒い甲冑の男はゆっくりと振り返る。先日追い詰めたときよりも老けたようだと、ファイザルは感じた。

「初めてご尊顔を拝し奉る。私はヨシュア・セス・ファイザル。先月閣下に逢瀬を申込み、素気すげ無く袖にされた者。今日こそは募る想いに応じていただきたく」

 愛剣から今しがた屠った兵士の血を滴らせながら、ファイザルは名乗りを上げた。

「セス・ファイザル。名前は聞いておる。掃討のセス、エルファラン一の戦士とな。先だっては失礼いたした。だが、最早退くまい。サンダーンは我が弟も同然の者であったわ。弟がやられたとあっては仇を討つのが兄の務めであろうよ。こちらからもお相手願う」

「恭悦至極」

 ファイザルは馬を下りた。彼等の周りでは戦闘はほぼ終息しかけていた。

 セルバローの剛剣とジャヌーをはじめ、ファイザル子飼いの精鋭達の働きによって、将軍を取り囲んでいた護衛の戦士たちのほとんどは戦闘不能に陥っている。

 そして残った者も、味方の兵士達も司令官同士の対決を目の当たりにしてやや引いた円陣を作っていた。

 どの戦士たちの顔にも強い緊張が見て取れた。この戦いでおそらく長らく続いた戦が終る、そう予感して。

 しかし、この将同士の一騎打ちの結末は、いったいどのような形で終わるのだろうか? いったいどちらが強いのか?

 勇名だけなら、早く世に出たドーミエ将軍の方が遥かに勝っていた。

 しかし、ヨシュア・セス・ファイザル―――この青年将校がこの数か月間にもぎとった奇跡のような勝ち戦は、兵士たちの記憶にまだ新しい。

 彼らは戦と言う国家同士の争いをしばし忘れて、純粋にこの戦いの決着を見てみたいという、戦いを生業とする戦士としての興味に駆られていた。

 対峙する二人の戦士――。

 距離は僅かに5リベル。お互い青眼せいがんに剣を構えている。遠い空では雲が忙しく流れてゆくが、この二人の周りの空気だけは緊張に凍り付いたように固まっていた。


「ずあっ!」

 先に動いたのはドーミエの方だった。五十代とは思えぬ勢いで一気に距離を詰める。大段平が恐るべき速さでファイザルの顔面を襲った。

 ガキイと言う耳ざわりな音と共に火花が散った。鈍く光る剣身がドーミエの刃を受け止めている。左手の拳が添えられていてもギリギリと剣は震えた。

 両者しばらくお互いの力を推し量るように動かない。

 これでは埒が明かぬと見たドーミエが一旦飛び退った。

「おさすがですな、将軍」

 凄惨な笑いを浮かべてファイザルは相手を見据えた。

「……」

 ドーミエは答えず、体勢を立て直して反撃の機会を狙う。対してファイザルは膝を柔らかく保ってそれに備えた。

 しかして唸り声をあげドーミエは二合目を繰り出す。今度は肩を狙って撃ち下ろされるが、ファイザルは軽やかにステップを踏んで退くと同時にドーミエの剣先を跳ね上げた。その勢いのまま激しく切り結ぶ。敵も味方も戦を忘れたかのように、二人の戦いに魅入っていた。

 双方、浅手を追っている。とっくにファイザルは、今までの戦闘の分も合わせてどこもかしこも血まみれだった。

 ギン!

 又しても双方が飛び退すさった。

 体勢をすばやく立て直したファイザルが大きく呼吸する。相手はこの戦いまでほとんど動いていないのに対して、ファイザルはずっと駆け通しでここまで辿り着いたのだ。いくら年齢の利があると言っても、長期戦は避けるべきだ。

 一見、単純な力押しに見えるが意外に剣が伸びる。それに重い。熊の二つ名は伊達じゃない。

 さてどうするか―――ファイザルの青い瞳がきらめいた。

「お若いの、いい目をしているな。それによい剣を使う。小気味がいいぞ」

 しわがれた声がファイザルの耳朶を打つ。それは老練な武将の本心かもしれなかった。

「痛み入ります」

 ファイザルは剣を構えなおした。おそらく次の踏み込みで決まる――戦士の本能がそう告げていた。

「もう少し若い頃にまみえたかったわ!」

 言うなり、ドーミエは身を深く沈め、ファイザルの腹に向かって猛烈に突きを入れた。素晴らしい体の動きであったが、僅かに勢いがよすぎた。

 ほんの半歩だけ踏み込みが深かったのだ。崩れたとも言えないような体制であったが、ファイザルはその隙を逃さなかった。

 ギリギリまで粘って体を捻り、相手の突きをかわした彼は、脇腹に鋭い痛みが走るのを感じながらも渾身の一撃をドーミエの胴に叩きつけた、

 ジャヌーは鋭い鳴りを聞いた。

 あっと思った時バルリングの熊の巨体はぐるりと横転し、大地に転がった。




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