第48話 戦い終わってその後は

 アッー!

 イェグディエルが真っ二つ。

 考えてみたらやり過ぎたのかもしれん。

 そう思って振り返ってみたら、戦場が解除されるところだった。

 決闘装置が作り出した架空の海は、空気に溶けていくように消え、後には俺と大の字になって伸びているルーサーが残された。

 グレートサンダルフォンとファミリオンも、またどこか謎の時空へと帰っていく。


「勝者、サンダルフォン!」


 ラファエルが決着を告げる。

 すると、決闘装置がピカピカと明滅した。


「おーっ」


 ジブリールが拍手をする。


「え、なに? なんだか光と水しぶきしか見えなくて、何があったか全然分からないんだけど」


 マンサには見えなかったようだ。

 翼のユニットがあるジブリールには、俺とルーサーの戦いが実況中継されていたようだ。

 彼女は頬を赤らめて大興奮。


「凄いわオドマ! なにあれ!? あんな隠し玉持っていたの!? 全然決闘装置の情報には無かったのに! ああ、そっか、能力の説明はあるけど、それはあくまで奇跡の説明だものね。元々持っている力は詳細には語られないんだわ」


「あれって、グレートサンダルフォンのこと?」


「グレートサンダルフォン!! つよそう!!」


 ジブリールが幼児化している。

 興奮のあまりぴょんぴょん飛び跳ねて、ついには感極まったか俺に飛びついてきた。


「すごいすごーい!! 私もあれ欲しいー!! オドマ教えて! どうすればできるか教えてー!!」


「痛い! 痛い! 全力で抱きつかないで! ごりごりして痛い!」


「あーっ!! ジブリールやめなさいよー!!」


「うーわー」


 もみくちゃにされる俺。

 やめろー、子供にもてても嬉しくないぞー!


「いや……私も驚いた……! あれは一体なんだと言うのだ……!?」


 げえっ、ルーサー、お前生きておったのか!

 いや死なれてたら寝覚めが悪いんだが。

 分体を真っ二つにされたくらいでは、死なないのかもしれないな。ジョナサンの奴も死んだわけじゃなかったし。


「ああ、さすがに私も分体を倒されて、ぼろぼろだよ。立ち上がるのがやっとだ」


「いえ、それでもさすがですねイェグディエル。さて、では皆さんに私が解説しましょう」


 ラファエルの言葉に、その場の注目が集まった。

 ちなみにここには、野次馬で集落の連中がみんな集まってきている。

 ママンとボブは最前列でお弁当など食べていたところである。俺の勝利を疑わないからこそ、ママンは余裕なのだろうか。あっ、あなたお酒飲んで酔っ払ってるじゃないですか!


「オドマ、ママさん不安で不安で仕方ないから、お酒で気持ちを紛らわしてたんだぞ」


「オドマ無事らったのねえー」


 酔っ払ってへろへろになったママンが手を振ってくる。


「こほん」


 ラファエルが咳払いした。

 あ、どうぞどうぞ、話を進めてください。


「ありがとう。まず、オドマくんが発動したあれこそが正式な意味での”偉大なる分体グレートアバター”と呼ばれる存在です」


 ほー。そうだったのか。


「本来、候補者の方々では、あれ・・との接続リンクが成されていないため、召喚することは叶わないはずでした。ですが、オドマくんだけは最初から、あれ・・を呼び出すことができた。これは今大会最大のサプライズと言っていいでしょう」


 なんだか、俺たちに向かって伝えていると言うよりは、ここにはいない大衆に向かって語りかけるような口調だ。


「七大天使としての資格は、天使として生まれることではない。これが、彼によって明らかにされたのがこの試合の意義であると私は考えています。以降、我々七大天使は、この立場を堅持して大会を運営してまいります。よしなに」


 分からん。

 一体何を意図して、あんなことを言っているのか。

 俺が首をかしげていると、視界の端でプルプル震えているものがいた。

 ボブだ。


「こ、こ、これは大変な事になるぜえ……!」


「どうしたどうした」


 ボブは駆け寄ってくるなり、俺の肩をがしっと掴んだ。


「オドマ、お前が天使どもが作り上げた、南アビスの価値観にいきなりヒビを入れたってことだよ! いや、南アビスどころじゃねえ。今、世界ってのは天使を中心に回ってる。天使でないものは人間じゃないんだ。唯一対抗できてるのが、極東の戦闘民族だけらしいけど、とにかく世界は天使の手の中にある。七大天使ってのは、その中でも最高の権威でありブランドなんだ。政治家とは違うし、権力者と言うわけでもない。だけど、天使の中では特別な存在なんだよ」


「ああ、ちょっとだけジブリールから聞いたような」


「ちなみに、この七大天使に就任した天使の中に、バスタードやアビス人は歴代一人もいないわ」


 ジブリールが補足した。


「さらに、近年の七大天使は寿命の永続化が出来ないものが続いたの。名誉職として七大天使を襲名したものが多かったのかもね。もちろん、オドマが呼んだような本物の偉大なる分体グレートアバターなんて、私が初耳なくらい、最近は出てきてなかった」


「ははあ」


 俺が気の無い返事をする。

 だが、ボブとジブリールはやたら盛り上がっている。


「そんな、長年現れてなかった特別な存在に、天使でもないバスタードが一番近いっていうのが明らかになってしまったわけよ!」


「これは南アビス、大騒ぎだぞ! てめえらが見下してたバスタードが、自分たちの頂点に立つ七大天使の資格を持ってるって言うんだからな!」


 うむ、バスタードであるボブはともかくとして、なんで天使のジブリールが嬉しそうなんだろう。


「ジブリールはひねくれ者だからねー」


 というマンサの言葉で納得。


「すると……私はとんだ噛ませ犬になってしまったということか……」


 苦笑するルーサー。

 怒らないあたり、こいつって人間が出来ている。


「おっと、それよりもオドマくん。戦いの間は聞く事ができなかったが、私に尋ねたいことがあったのでは?」


「あ、そうだった」


 ルーサーに言われて思い出した。

 この天使、最初に出会ったときは嫌味な奴だとおもっていたのだが、段々そんな悪い奴ではないのではないかと思えるようになってきていたのだ。

 というか、ルーサーは七大天使決定戦以外にも意図があって、メクトに来たんじゃないのか。

 そんな意思を伝えた。


「いや、参った。君は鋭いな。いかにも、私は天使である前に商人だ。新たな商売のチャンスを探して、この大地までやって来たわけだ」


「でも、貨幣も流通してないところでがっかりした?」


「とんでもない。可能性に溢れた世界だと感じたよ。まずは彼らに、南アビスの価値観を伝える必要がある。どうしたものか……」


 なるほど、ルーサーはそんな事を考えていたのだ。

 ならば、俺が暖めていた案が、こいつの協力があれば実現できるかもしれない。


「あのさ、ルーサー。僕はこっちの世界に、学校を作りたいと思ってるんだけど……」


「ほう……!」


 ルーサーの目が輝いた。

 興味を持ってくれたらしい。

 よし、この未開な世界に教育機関を設けて、みんなを文明人にするのだ。

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