第14話 空から来た同類と幼年期の終わり

 さてさて、いきなりのご対面だ。

 プロトガブリエル……?

 なんのこっちゃ。

 その赤い鋼の巨人……すなわちロボットは、ンマドの連中を踏み潰す形で登場した。

 向かい合う場所に俺がいたから、それを避けようとした結果だろうが……。

 おお、赤い染みが大量にできている。

 むごいのう。


「な、なんだあの赤い巨人は……!!」


「大丈夫か! あ、あれと戦争するのか!?」


「みんな、逃げて! あの赤い巨人は僕が相手をします!」


 混乱しているところへ、俺は精一杯叫ぶ。

 すると、ファミリオンがこの声を拾って拡大してくれた。

 族長は俺を見ると、


「すまん、たのむ!」


 そうい言い、部族の連中を率いて退いていく。


「そんな! オドマがまだいるのに!」


「あのバケモノをみただろう! あれはオドマにしか止められん! オドマはきっと、ああいうものと戦う力をオニャンコポンから授かって生まれてきたのだ!」


 オニャンコポンはやめろ。

 だが、なるほど、目の前のこいつはちょうどファミリオンと対になるような印象だ。

 俺はファミリオンの足に隠れるようにしてそいつを伺う。

 すると、ファミリオンの背中当たりから青いビームが出て、俺を包み込んだ。


「お、おおお!?」


 俺は巨人になった愛車の中に吸い込まれてしまう。

 気が付くと、操縦席らしいところにいた。結構な広さがあって、多分これは俺が大人になったサイズを想定して作られている。


「よっしゃ、行くぜファミリオン!!」


 俺が声をかけると、愛車は高らかにエンジン音を響かせて答えた。


『天誅!! エンジェルファイヤー!!』


 赤い巨人が俺に向かって手のひらを突き出し、そこから炎の渦を吐き出す。

 うおお!?

 熱くはないけど、視界いっぱいに赤い炎だ。

 これはやばい気がする。俺はハンドルを握ると、いつも愛車を操縦していた感覚を思い出す。


「避けろーっ!」


 ウィンカーを光らせながら、ファミリオンの巨体が左側に高速でスピンする。

 炎をやり過ごし、今度はこっちの反撃だ。五歳児の高さにせり上がってきたアクセルを踏み込むと、ファミリオンは拳を固めて大地を蹴った。

 振り上げた拳が、青い輝きを帯びる。これは、帯電しているのだ。ただそこにあるだけで、アビスの乾いた空気が焼ける。

 名づけてファミリオンナックル。

 そのまんまだ。


『そ、その力は!!』


 赤いやつは驚きの声をあげながら、俺の攻撃を腕をクロスさせて受け止める。

 こいつ、そこまで動きは早くないのか?


『なぜ、消滅したサンダルフォンの力をアビスの人間が振るう事ができるのだ!!』


「そんなもん、俺も知らん!! 振りかかる火の粉は払うだけだ!」


『人間が手にしていい力では無い! 返せ!!』


 赤い巨人の背中に、炎の翼が生まれる。

 そいつは大きく広がり、ファミリオンを包み込むように襲い掛かってくる。

 だが、俺は高速でバックし、炎の抱擁を紙一重で逃れた。

 オマケで炎の翼めがけ、雷を帯びた拳を見舞う。

 翼は実体があったのか、こいつを受けて弾き飛ばされた。

 くっそ、しかしなんか、相手は多才だな。

 俺も何か出来ないのか。何か、何か。

 俺の思考に呼応して、ファミリオンが唸る。

 手のひらの中に光が生まれた。

 そいつは、拳同様に放電を帯びながら形をとる。

 おっ、こいつは銃じゃないのか!?


「よっしゃ、行くぜ行くぜ!」


 ファミリオンが疾走を始める。

 踵脇についたタイヤが高速で回転し、乾いた大地を疾走する。

 ドリフトしながら赤い巨人の側面に回りこみつつ、俺は銃の引き金を引いた。

 放たれるのは雷を帯びた弾丸。


『くっ! もうサンダルフォンの力を使いこなしている!? 危険過ぎる……!! ええい、この体が”正式”でありさえすれば……!』


 俺の速度に反応できず、ガブリエルとやらは防戦一方になる。

 そりゃあ、反応速度が遅いんだ。

 車だった時よりなお速い、俺のファミリオンについてはこられまい。

 やがて弾丸は赤い巨人の肩を打ち抜き、爆発させた。


『まずい……! ここは、撤退を……!!』


「逃げるのか!! よし、見逃すぞ!!」


 俺はピタッと動きを停めて奴を見送ることにした。


『なん……だと……!?』


「ここで見逃すということは、俺は危険ではないということだ! よく覚えておけ!」


『貴様は、一体……!』


 そんなことをいいながら、ガブリエルは炎の翼とともに、上空に待機していた飛行機に戻っていく。

 ファミリオンと一体となり、強化された俺の目はそれを見つめている。

 ガブリエルは途中で真っ赤な複葉機に変形して、展開した飛行機の腹に飲み込まれていった。

 複葉機に載っていたのは、真っ白な髪のばあさんだ。いや、ばあさんっていうには若いか。

 そして、それを迎えた飛行機の格納庫みたいなところに、小さい影が。

 銀色の髪の幼女が、俺を見下ろしていた。

 そいつは敵意を込めた視線……ではなく、なんだか珍しい物を見つめる幼児の目だ。


 あ、なんかあいつとは遠からぬうちに会うことになりそうな気がする。

 そんな予感がした。




 結局、介入してきた赤い巨人のせいで戦争は有耶無耶になった。

 ンマドの部族は戦える男たちの大部分を失ってしまった。後に別の部族に吸収されたらしい。その部族は人喰いをしてないそうなんで、まあ、あの怖い習慣が無くなることを祈るばかりである。


 戻ってきたママンは俺をひしっと抱きしめていた。

 いやあ、心配させてしまった。

 ママンはシングルマザーだから、親兄弟以外は俺しかいないのだよな。

 心配させないようにせねばだ。


 滑車と、それによって井戸から汲み上げられる塩水があり、塩田を作るようになったメクトの部族は豊かになっていった。

 俺とファミリオンの噂は広がり、どの部族もメクトを襲うことは無くなっていった。

 平穏な日々が来る。

 俺や、他のガキどもが大きくなっていくには十分なくらいの平穏な日々。

 そして、多分五年くらい過ぎた。

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