第11話 技術が無いなら略奪すればいいじゃない

 滑車完成とともに、メクト集落での水汲みは素晴らしい効率を発揮するようになった。

 今までは、男なら一人、女なら二人がかりで蔓のロープを引き上げていたのだ。

 子供がやるなんてもってのほか。

 大変な重労働で、そのために水汲みは、生活の中の大きな時間を割いて行われていた。

 これがだ。

 滑車の導入により、女性はおろか、ちょっと大きな子供でもできるようになったのだ。

 しかも、大きく水汲みスピードがアップしている。


「本当に楽になったよー」


「子供でもみんなでできるね!」


 井戸に落ちないように注意さえすれば、子供たちでもできるようになった水汲み。

 これは集落に大きな衝撃を与えた。

 水汲みに使われていた時間が、衣服を作ったり、より採集をして蓄積したりと、他の仕事に割り当てられるようになったのだ。

 ということで、集落の食料は常時備蓄されるようになった。

 乾季だからあまり木の実などは無いのだが、皮をはがせば食べられる若木なども存在している。

 それらを加工して保存できれば、例えば雨季が遅れて食糧難になるような時期でも備える事ができる。

 これもまた、俺の入れ知恵だった。

 常に保存食を作っておき、古いものから順番に消化していく。

 かくして、メクト集落は原始的な生活から一歩抜け出し、未開からやや未開くらいへのランクアップを遂げていた。


「なんと、この丸いものはなんだ」


「これは滑車と言ってな。神の子オドマが考えたものなのだよ」


 おっ、バニおじさんがお客さんを連れてきてる。

 隣の集落の連中かな?

 いぶかしげな顔で滑車を見てるぞ。


「こんにちは。試していってよ」


 俺が駆け寄って、彼らに滑車付き井戸の使い心地を体験してもらう。

 彼らは蔓を引き下ろす動作で水が汲める事に驚き、さらに必要な力の少なさに目を見開いた。


「なんだこれは! こんなに楽に水が汲めてしまうとは……!」


「だが、この水まずいな! ぺっぺっ! とても飲めたものじゃない……これは……塩か?」


「そうさ。この井戸から塩の入った水が取れたから、こいつを乾かして塩を作ることをオドマが考えたんだ。井戸水を塩にできるようになったら、岩塩を取りに行かなくてもいいし、砂が混じった塩を食わなくてよくなるぞ」


「なんてことだ……」


「これはいいな」


 お、なんかお客っぽい連中がニヤニヤ笑ってるぞ。

 なーんか嫌な笑いだな。

 そいつらは、俺に滑車の技術を聞くでもなく、そのまま帰って行ってしまった。


「なんだい、変な奴らだなあ」


「あいつらの集落は、そこまで井戸で水が取れないからな。離れた川まで水を汲みに行ってるんだ。ンマドはいつもそれで苦労しててな」


「ふむふむ」


 なんかいやーな予感がする。

 井戸水が汲み上げにくいそいつらの土地なら、確かに滑車はいらないかもしれない。

 だが、それでもこの井戸の凄さを見たはずだ。あんなにあっさり帰るはずがない。

 メクト集落の人たちはみんな、おっとりしているというか、人がいい連中が多かったから気づかなかったけど……。

 ンマドの連中はどうも危なそうだぞ。


 俺は再びイグニッションし、ファミリオンを召喚した。

 サンダルフォンと会った後のファミリオンには、今まで無かったいくつもの機能が搭載されていた。

 その一つを起動して、上から木の枝を被せて井戸の近くに置いておく。


「オドマ、なにしてるの?」


 マンサが首をかしげる。


「ちょっと、念のためにね」


「ねんのため? ファミリオンちゃん置きっぱなしだとかわいそうだよ」


 マンサは優しいな。

 俺は彼女のパイナップルみたいな頭を撫で撫でした。


「むふふ、じゃあ私もお返ししてあげる」


 おっ、幼女の手が俺の頭をなでるぞ。

 互いに頭を撫で撫でする幼児二人と言う光景になった。

 これにはバニおじさんもほっこりである。

 さてさて、この仕掛けが発動しないといいんだが。

 俺は、バニおじさんに戸締りをしっかりするように言い聞かせて家に帰った。




 明け方ころだろうか。

 突然、集落に耳障りなビープ音が鳴り響いた。

 俺の目が一気に覚める。


「んもう……うるさいわねえ。何の音かしら」


 真横で寝ていたママンが体を起こす。


「ママン、ちょっと行ってくるよ。やばいことになったかも」


「ええ? なに、どうしたのオドマ?」


「後で説明するね!」


 俺は走り出す。

 五歳児……もうすぐ六歳になる体だが、どうやら同年代の子供よりも身体能力が優れているようだと気づいたのは、つい最近のこと。

 俺はそれなりの速さでバニおじさんのところまでたどり着く。

 果たして、そこには予想通りの光景があった。



 防犯ブザーを鳴り響かせるファミリオンに、慌てた様子で槍や棒を振り下ろす男たち。

 バニおじさんの家の扉を破ろうとする男たち。

 そして、滑車を壊して持ち帰ろうとする男たちがいる!


「おまえらー!!」


 俺が声を張り上げると、連中揃ってビクッとしてこっちを見た。

 そして、子供だと分かると露骨にあざけるような顔になった。


「ガキが大人を呼んでくる前に殺しちまえ!」


 誰かが言うと、一人が棒を持って俺に向かって来る。

 おのれー!

 俺を誰だと思っている!?

 あれだぞ。

 サンダルフォンと会って、なんか後継とかなんとか言われた俺だぞ。

 かなりモラルの高い国、日本からやって来た俺だぞ。

 就業中は無遅刻無欠勤だった俺だぞ!!

 俺の目の前でモラルを破るようなことをしやがって!

 ゆ”る”さ”ん”!!


「ファミリオン、イグニッション!!」


 俺の叫びと、呼び出したイグニッションキーによる起動アクションに、愛車が応える。

 青き鋼の巨人ファミリオン。それが五年ぶりにアビスの大地に立ち上がる……!!

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