第5話 褐色娘とガキども

 俺には不思議な力あるということで、大人たちは俺をまるで生き神様のように扱うようになった。

 同い年らしいガキどもは、俺をハブった。

 まあ、なんと言うんだろう。

 ガキは異分子見つけると、すぐに排除したり攻撃したがるからな。

 俺が大人にチヤホヤされてるのがしゃくに触ったんだろう。


 あの、俺がファミリオンを呼び出した日から五年ばかり過ぎており、俺の肉体年齢は御年五歳となっていた。

 明らかにこの肉体、俺がサンダルフォンと出会う前のそれとは違う。

 まず、何が違うかって、俺は屋内に缶詰になって働き続けるマシンみたいな生き方をしてたので、肌なんかは大変に白かった。女子も羨むほどだろう。

 だが、今は黒い。浅黒い。

 なんていうか日焼けした黒さじゃない。人種から来る生来の黒さだ。

 これはこれで慣れてみるといいものだ。なんというか……アウトドア派って感じがする。俺が忌み嫌っていたリア充系のカラーだが、なってみるとなんだか優越感を覚えるではないか。


「オドマは羽有りの混ざり物だからな!」


「オドマと遊ぶと羽有りがうつるぜ!!」


 ガキどもがまた俺をいじめにやってきた。

 いじめというか、本気を出すと天変地異が起こってしまうかも知れないので、俺は大人の対応で相手をしているのだが、そうするとこいつらはつけあがる。

 一度ガツンとやらないといかんな。

 ちなみに、このガキどもも黒い。

 暑い地方だからな。

 しかし親たちは真っ青になって、こいつらが俺をいじめようとする光景を眺めている。

 見てるんなら止めろよと思うが、俺がファミリオンを呼び出したら巻き添えになるので怖いらしい。

 で、ガキどもは俺同様、ファミリオンが出てきた頃はオギャアだったので俺に対する恐怖が無い。

 それに俺もいい年をした大人だ。

 ガキどもが俺を仲間はずれにしたからどうだというのだ。

 俺にとっての問題は、ガキどもとの人間関係じゃない。無職のままこうして長い時間をすごしてしまっていることだ。

 履歴書にある空白期間が長いほど、再就職は困難になるんだぞ。

 いや、待てよ。俺は生まれて五年ほどだから、そもそも義務教育期間なのではないか。

 おお、これは盲点だった。生まれて五年目にして初めて気づいたぞ。


「やめなよ! オドマは何も悪い事してないじゃない!」


 俺をかばってくれる声がした。

 それは、髪の毛を頭の上でパイナップルみたいに結んだ褐色の肌の女の子だ。

 うん、悪い事はしてない。

 ちょっと鋼の巨人を呼び出して天変地異を起こし、向こうの山を泥の大地に変えただけだよ。


 この女の子はマンサ。

 俺と同い年で、何かというと俺をガキどもから守ろうとしてくれる正義感の強い子だ。

 くりくりっとした目が可愛い。


「だってよおマンサ。そいつって混じってるんだぜ。肌色だって薄くって、顔だって違って気味が悪いぜ!」


「おい、オドマを獲物にして狩りの練習しようぜ!!」


 おいおい、おもちゃの槍とか持ち出してきやがった。

 それはしゃれにならんぞ。

 坊やたち、得物を向けていいのは、やられる覚悟がある奴だけだぜ。


「やめてーっ!! オドマをいじめないで!!」


 うおっ、マンサが俺とガキどもの間に割り込んでくる。

 行動派だな。


「うるっせえ! 女は引っ込んでろ!」


 ガキ大将が槍でその女の子、マンサちゃんをぶん殴った。


「きゃあ」


「あっ、このやろう」


 俺は常日頃から大人であると自負してきたが、まだまだ修行が足らんらしい。

 ちょっと可愛いと思ってるマンサが殴られたのを見て、ついカッとなって飛び出してしまった。

 俺の背後で、スタン・ハンセンのテーマ、SUNRISEが流れる。

 ファミリオンがいつの間にか出現していて、BGMを奏でてくれているのだ。

 俺はそのまま突っ走って、


「ウィーッ!!」


「ウグワーッ!!」


 ガキ大将の首に素晴らしい角度のウェスタンラリアットをぶち当てた。

 奴の体が俺の腕を軸に一回転して、そのまま地べたにたたきつけられる。


「ヒエッ」


「バーコが一撃でやられた!!」


「オドマの腕に引っ掛かってきれいに一回転したぞ!」


 俺が奴らに振り返って、指先であのポーズをとって天に突き上げる。そう、怒れるバッファローのサインだ。


「うわあああ」


「なんだか知らないけどあのポーズはつよそうだー!!」


 ガキどもは逃げ去ってしまった。

 哀れ、ガキ大将バーコは置いてけぼりである。


「大丈夫、マンサ」


「うん、ありがとうオドマ。オドマって強いんだね……!」


 幼女からのキラキラした視線を感じる。

 だが俺にそっちの趣味は無い。

 おじさんはロリコンじゃないからね。

 俺は、自分と背丈があまり変わらないマンサの頭を撫でると、


「俺の事は気にしなくていいんだ。だって、俺には彼らと遊ぶより、もっとなすべきことがあるからね」


 これからの就職活動とかな。


「すてき!!」


 マンサが抱きついてきた。

 おっ、なんだなんだ。ハハハ、子供は無邪気だなあ。

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