第4話 シルバーは魔境だ

「クソ!! どうしてadcがグローバルルートを警戒してないんだ!!」


 ブロンズを抜け出してシルバーになった俺はシルバー帯のランクでキーボードクラッシュしてしまう程に苛立っていた。実際にはしていない。だが、どれだけちゃんとを売っても、どれだけ危険ピンを鳴らしても、奴らはそれを辞めなかった。


「ブロンズの連中は危険ピンいっぱいならしたら下がってくれるのにシルバーの連中は一体どうなっているんだ!!」


 ブロンズの世界は魔境だと言われている。しかし、それは違った。シルバーやゴールド、プラチナ、ダイヤにはもっと酷い魔境が存在したのだ。だが、ここではシルバー帯の魔境の話をしよう。


「レーン戦はブロンズのように余裕だ!! だが、ブロンズのようにいかない!!」


 シルバー帯は他の味方がレーン戦で勝っていても、15キル持った味方が現れても、勝てる気がしなかった。負けるんじゃないかという不安しかなかったのだ。


「序盤あんなに勝っててもこの結果か? シルバー連中は頭があるのに脊髄プレイしかできないのかよ!!」


 そう、頭を使わないで目の前のことしかしていない。ゲーマーでもよく言うチンパンジー、詰まり、猿ということだ。


「お前頭ついてんだろ!! 脊髄でプレイしてんなよ!!」

「猿がなんでゲームしてんの?」

「チームできないならゲームも人間もやめろよ!!」


 まるで、バブル崩壊世代(シルバー)が日本(ゲーム)を崩壊させて、ゆとり(ブロンズスタート)であることをいいことに奴らはこういうのだ。


「うるせぇ!! ブロンズ(ゆとり)が!!」


 俺はそれでも危険ピンを鳴らし続けた。だが、奴は最後まで言うことを聞かず、せっかくの15キルも今では20デス、ただチームの足を引っ張る存在でしかなくなったのだ。


「このままではどうしようもない。」


 俺はあることが脳裏に浮かんだ。


「ゴールドなんて、ビルドさえできれば誰でもなれますよ」

「ゴールドは普通にやってたらなれます」


 そんな問題ではなかった。恐らく前者は、姫プレイヤーで強い人とのduoプレイ、後者は代行や買いアカウントである。


「俺が一人でゲームを壊すしかない!!」


 シルバー連中は猿だ。こいつらがレーンを崩壊させるなら、俺がゲームを破壊してやる。アナウンスが鳴り響く。


「ファーストブラッド」


 俺は開始早々キルを奪った。


「よし!」


 相手は早々にキルを俺に与えてくれた。こいつなら20キル近くはいける。


「レーンを崩壊させて、試合も破壊してやる!!」


 再びアナウンスが鳴り響く。


「シャットダウン」


 俺は2キルも取った。こうなれば相手jgが後ろから来ても勝てる時間帯、なぜなら、俺のレベル選考は約束されている。レベル6になるとアルティメットスキルが使えるようになる。敵が二人来てもアルティメットスキルがその二人にはないのだ。


「ここは敢えて前に出る。タワーダイブも行ける!!」


 シルバーの連中は本当に猿で、誘うように前に出ていたら、敵が後ろからやって来たのだ。


「かかったな!! この猿野郎め!!」


 俺はまず、後ろから来るjgの敵チャンピオンに仕掛け、敢えてtopの敵側に寄る様にして戦った。相手のjgからは逃げ場がないから仕方なく逃げたと見せかけた。敵の二人はまんまと俺の罠に嵌ってくれたのである。


「ダブルキル」


 これで4キル目、こうなればもう相手に勝ち目はない。そのはずだが、相手のmidチャンピオンが5キルも持っている。今の俺はmidチャンピオンと戦えない。まだ装備(ビルド)が整っていないんだ。普通に戦えば負ける可能性もある。


「相手のmidも何とかしないといけないな………」


 などと考えていた。しかし、シルバー帯は猿が多く、俺はそのmidと戦うことすら叶わなかったのである。そう、このゲームは猿たちが思っている程、甘いゲームではない。現実もそうだ。バスケをやって来たのでよく知っている。そして、それがこのLo〇でも起きてしまうのだ。


「え? ちょっと待て!! なんでお前がここに来るの!?」


 なんと味方のmidがtopに行くとピンを鳴らしたのだ。俺は必死になって退却ピンを鳴らした。しかし、シルバー連中の頭の中は単純だ。『味方のtopは強い。あそこに行けば勝てる。行くしかない。退却なんて有り得ない。』などと考えているのだろう。奴は何の迷いもなく、俺のいるtopへと向かってくる。まるで、勝ちを確信しているかのように、だが、それは大きな間違いだ。


「もし、俺が相手側のmidなら………まずい!!」


 俺は急いでチャットした。


「腐ってるお前が俺のとこくんじゃねぇよ!!」


 だが、味方のmidはもう目の前まで来ていた。退くことを覚えない。例え、どれだけの兵士がいても、それが烏合の衆では役に立たない。行けと言って行かず、退けと言って退かない兵士では意味が無い。


「クソが!!」


 そう、戦いは始まってしまったのだ。こうなったら後戻りはできるが、この時の俺は迷っていた。後戻りができるということは、マイナスを重ねるということ、味方のmidはプッシュ仕切られていて経験値とお金がマイナス、そして、味方がここで死ねばさらにマイナス、勝ってもぜんぜんプラスにならない戦い。なぜプラスにならないかって、一番育ってる俺の経験値が、味方のmidが来てしまったせいで、俺の経験値が無くなってしまうからだ。こちら側のプラスはせいぜい100ゴールド程度、キルで300ゴールド未満しかもらえない状態で、経験値が半分貰えず、相手のmidはまるまる設けている。こっちは腐った味方のmidと取り分を山分けしなければならない。


「勝っても嬉しくないのになんて味方なんだ!!」


 だが、topの相手は腐っていてもビルドがフルアーマーだった。そう簡単には倒せない。それに比べて、味方のmidは一瞬で殺される。そこに後ろから育った敵のmidがやって来たのだ。味方のmidは一瞬で殺されて、大将戦が始まった。だが、その大将戦は俺に大きなハンデがある。相手にはタンクというtopの味方がまだ生きており、副将が隣にいるのだ。


「責めて、相手のmidだけでも殺さなければ!!」


 俺は必死になって相手のmidを狙った。相手のmidは柔らかいので一瞬で溶けそうだった。だが、奴はフラッシュ(瞬間移動)を使って一気に距離を取ったのである。


「フラッシュだと!!」


 フラッシュとは、一度使うと300秒間も使えなくなるが、その場から一瞬だけ逃げることができる。当然、攻めにも使える。


「俺のフラッシュはまだ使えない………これまでか………ん? なんだ??」


 なんとあろうことか、味方の戦犯であるmidからチャットが来たのだ。


「俺最初に行っただろ!! なんで負けてんだよ!!」


 そう、これがシルバーだ。勿論、ゴールドでもプラチナ、ダイヤでもある。俺は言い返した。相手には伝わらないことなど解っていた。だが、言い返さずにはいられなかった。


「お前みたいな腐った奴が来るとな!! 確実に勝てる状況から負けるかも? に変わるんだよ!! お前はずっと大人しく守ってればよかったんだよ雑魚が!!」


 シルバーもゴールドもプラチナもダイヤもそうだった。だが、今はシルバーの話だけにしておく。シルバーは攻め方も下手なら守り方も下手糞、いや、攻め方も守り方も知らないのだ。俺のプラスは、味方のmidによってマイナスになり、相手のmidが優位に立ってしまった。ゲームは一気に怪しくなってしまったのだ。


「どうして腐ってるのに他の勝ってるレーンも腐らせるんだ!! バブルだったのに、バブルを崩壊させやがって!! これだから崩壊世代は!!」


 そのゲームはそのまま負けてしまった。味方のmidがあちこちに負ける戦いを仕掛けに仕掛けて俺達のチームは連戦連敗を重ね。そのmidと共に全員腐ってしまったのだ。


「ブロンズなら腐った奴は素直に退却してくれるのに………運営の所為だ………どうして銀5からブロンズにはなかなか落ちないんだよ!!」


 試合が終わってから、相手はこうチャットしてきた。


「ありがとう相手のmid、お前の御蔭で勝てたよ」


 その後で、俺はチャットした。


「mid交換してくれ!! それか、topを交換してくれよ!! こんなmid無理だよ!!」


 相手からの返事はこれだった。


「ww」


 そう、ブロンズでは一人が育てば勝てるゲームだった。だが、シルバーは違う。チームワークがブロンズよりもないのだ。俺がバスケしていたころだが、男子バスケ部と女子バスケ部で試合をすることになった。遊びだったが、男子バスケ部は勝ちを確信していた。だが、俺は負けを確信していた。それはチームワークの差だ。俺と男子バスケ部のキャプテンはそれを恐らく見抜いていただろう。実はこんなことがあった。


「〇〇しかせめてなくね?」


 俺のチームとキャプテンのチームに分かれて試合したことがある。俺はそれを見抜かれて絶望した。俺のチームは俺以外に攻める奴がいない。俺は徹底的にマークされた。だが、今回は違う。女子バスケ部はチームとなっている。一人を抑えれば勝てるような相手ではない。事の発端は男子バスケ部のエロ男が言い出して聞かないのだ。女子バスケ部の連中も俺やキャプテンを目当てに話が盛り上がってしまって歯止めがきかない。いつの間にか、女子と男子双方からキャプテンが攻められていた。


「ねぇ、やろうよぉ」

「そうだそうだ!!」


 結局やることになってしまった。この頃の俺は女に全く興味がなかった。寧ろ、うざいと思っていた。その為、こんなことを思っていた。


「負ける訳にはいかない………」


 俺は容赦なく女子を抜き去って攻め続けた。得点するのも訳がない。


「よし、敵を引き付けた。ここでパスすれば点が取れる!!」


 俺はパスを出した。しかし、そのパスを受けた男子はエロ男の叫び声に惑わされる。


「よし、俺に寄こせ!!」


 あろうことか、その男子はエロ男にパスをしてしまった。俺が作った折角のチャンスも無駄になってしまったのだ。そして、そのエロ男は囲まれる中も無理矢理せめて得点を得ることができず、腐ったプライドに燃えて試合にもならず、男子バスケ部の負けで終わった。試合の後で俺に何人かの女子が後からやってきてこう言ってきた。


「惜しかったね。」

「でも、私たちのが上だから、〇〇君のこと養ってあげてもいいよ?」

「私も養ってあげるよ」


 その頃の俺は女子に興味がなかったのでただの侮辱にしか感じられなかったのだ。俺はどんな表情をしていたか知らないが、歯を喰いしばって悔しがり、その後で笑って背を向けて捨て台詞した。


「負けたぜ………」


 そう、俺はあの時から何も変わっていなかったんだ。ブロンズを上がれたのは女子バスケ部の様なメンバーが来てくれただけ、シルバーの連中はエロ男軍団、俺のサモナーネームは女性だった。俺はサモナーネームを変えたんだ。


「俺は自分(ソロ)の力でゴールドになってやる」


 

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