第1話 修業の朝

 その日、昨日からの雨は嘘のように快晴であった。

アメリア国空軍士官学校 学生寮の一室

朝五時、指導教官から前日言われたように身支度を整え、ベットから起きるとシーツや毛布を畳み、最後まで残していた荷物を背納に入れていった。

すると横でまだ寝ていた奴の毛布が芋虫のようにゴソゴソ動き出した。

「アズマ、早いな~。教官は6時までには起きろとか言ってなかった?」

あくびをしながら起きてきたハルトマンはそういうと怠そうに聞いてきた。

「すまん、起こして悪い」

「いいって、それにもう少しうとうと出来るし構わないよ」

「けどお前準備大丈夫なのかよ?昨日遅くまで騒いでたけど」

昨日は卒業前の無礼講で食堂でこっそり持ち込んだ酒有り(教官黙認及び食堂のおばちゃん買収済み)のどんちゃん騒ぎであった。俺は早々に戦略的退却をしたがこいつは最後まで残っていたはずだ。

「大丈夫~、ほとんどの物はもう転任先に送ってあるし、荷造りも完璧だから」

そう言って再びうとうと冬眠しようとするハルトマン、こいつは軍人志望であるばずなのにこの低堕落ぶりである。

「良いけどよ、もう一度確認しとけよ?このあと式典やらで時間無いぞ」

「了解、っていうか。お前の方が大丈夫かよ?」

「…わからん」

主語は無かったがハルトマンの言いたい事が分かったので答えた。

「わからんって、修業前にまだ配属先が決まってないのはお前だけだろ?他人の心配の前に自分じゃないのか?」

うぅ、こいつは人の気にしてることをすぐに言う癖がある。

そうなのだ、俺、アズマ・ユウマは未だに配属先が未定のだ。

 普通であれば修業 つまり一般の学校でいう卒業の1ヶ月ほど前に発表されるものであるが、皆が決まっていくなか決まらなかった。

初めは「まだ決まらないのか?」とまだ決まってない奴と愚痴を言ったりしていたが、一人また一人と決まっていく内に愚痴は聞こえなくなり、気を使って誰も話さなくなってしまった。間違えた、こいつを除いてだ。

「正式には修業式で言われるし、まだなんとかなるだろ。」

「そんな、前例聞いたことないぞ?やっぱりあれじゃないのか?」

「やっぱりそう思うか」

あれとは航空実習の際間違えて違う飛行場に着陸してしまったときだ。

広い土地から指定された飛行場に地図と計器だけ訓練生二人で着陸したがそれが四キロ手前の飛行場だった。

そこも軍の飛行場だったが予定外の訓練機だったため地上では敵の攻撃と勘違いし対空砲は用意するわ、警備兵が囲んでくるわで大変だった。

そのあと飛んできて基地司令からしこたま怒られた。

そこで終わればただの失敗談だがこのあとがよろしくなかった。

俺のバディーの奴が司令の言葉にイラついて離陸の際飛行機のエンジンをフルにあげて基地のテントと件の司令の帽子(かつらも)を飛ばして空に逃げてしまい、目的の飛行場に着いてすぐに二人は教官に注意と拳骨、そして1週間の営倉送りにされてしまった。

ちなみにその時のバディーが今話し相手のハルトマンだ。

「しかもお前、やったの俺なのに自分がやりましたって言いやがって何やってるんだか」

「言っただろ俺はあの司令の暴言を変わりに抗議してくれたお前に罰を受けてほしくなかったんだよ、まぁその後お前からも叱られたけどな」

「当たり前だ、お前が変な正義感で罪を被っても嬉しくない。逆に迷惑だ、こっちの気持ち考えたのかよ。」

「悪かった。確かにお前の覚悟を踏みにじる行為だったよ。」

「それにあの司令のが許せなかったからなアズマのことを『バカな秋津人に計器を任せるな』って秋津人って一区切りに言うなよ、アズマはアメリア人だしバカではなくアホなだけだ」

「ちょっと待て、アホとはなんだ!順位は余り変わらないだろ」

「人の気持ちを考えないで罰を受ける奴はアホだよ」

素っ気なくいうハルトマンだか人付き合いは上手く誰からも好かれる。

俺に対してもだ。見た目は秋津人でアメリア人とは見た目が違うため軽い嫌がらせや陰口はよく言われた。だかハルトマンからは聞かなかった。それどころか士官学校で初めて話しかけてくれたのはハルトマンだった。そしてバディーとなり友人になった。

なぜ、話しかけてくれたのか以前に聞いたら「お前から話して来なさそうだったから俺から聞いただけだよ?」と当然のように言った。

彼は誰に対しても会話し仲良くなった。そして困ったときは全力で助けるお人好しで変わり者であった。先輩や教官にも意見したこともあったが後を引かないようにするのが得意である。

助けられた同期は多く、俺もその一人だ。

「そうだな、確かにアホだ。だがそのアホに構うお前もアホじゃないか?」

冗談で言うとハルトマンは

「構うのは友人として当たり前だろ、それにアホなアズマには、カバーをしてやる天才的なアホバディーの俺が必要だろ」

と笑顔で答えてくれた、こうゆうのを自然に言えるのだからこいつは皆から好かれるんだろうなと思うのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

飛行士から皇宮護衛官に転属することになりました 都築祐太 @1192rai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ