ヤバイ映像が見れる部屋7p
それから彼は、指先をさ迷わせて、隣に並ぶ№149のテープも抜き取った。
その後で、彼は、はぁっ、とため息を吐き出し、戸棚の中を見つめる。
彼は、さらに№148から№145までのテープを取り出した。
彼は立ち上がり、そしてテレビの前へ戻ると№150のテープをビデオの挿入口に入れた。
№150のテープに映された映像は、やはりと言うべきか、女の顔だ。
また前に見たテープの映像より引いたアングルで映されていた。
女は、白目を向いて、口から涎を流している。
もう見慣れて来た絵だ。
女の顔は、さっきのテープと同じく左右に揺れている。
女の頬にはよく見ると、女の髪が貼り付いていた。
画面が黒になる。
映像が終わった。
と、男に嫌な予感が走った。
この女は……。
その予感を確かめるために、男は次のテープに手を伸ばす。
№149のテープ。
女の顔と、首までが映る。
女の首には、ロープが掛かっている様に見える。
だが、いまいち、良く見えない。
№148のテープ。
やはり、首に掛かっているのはロープだ。
女はロープに吊るされて揺れているのだ。
女の顔が揺れる。
ゆらりゆらりと女の顔が揺れている。
№147のテープ。
女の顔が揺れている。
首が驚くほど細い。
№146のテープ。
女は首を吊っている。
この女は死んでいる。
この女は、もう死んでいる!
№145のテープ。
女は死んでいる。
彼は、テープを止めた。
自分の頭が驚くほど冴えている事に彼は戸惑う。
彼の予感は当たった。
このビデオは、死んだ女を映したものだ。
これらのテープは、どういう趣向か、コマ割りにして、女の死んでいる姿を映している。
スナッフフィルム。
そううヤツか、と彼は呆れた。
スナッフフィルムとは、簡単に言えば殺人や自殺のノンフィクションフィルムのことだ。
彼は、テープの収まる戸棚を白けた顔で見た。
この戸棚にあるテープ全部がそうか、と思うと彼はめまいを感じた。
彼は、この部屋の住人の正気を疑う。
こんなものを鑑賞して楽しんでいるのか。
なんて悪趣味な事か、と、心の中で部屋の主を罵る。
勿論、侵入者である彼にそんな資格何てありはしなかったが、そんな事は彼にはどうでもいいことだった。
彼は、畳の上に転がる、すでに見終わったテープに目をやった。
女の死が記録された忌まわしいテープ。
彼は、戸棚にそれを戻そうと、テープを手にした。
その瞬間、彼の頭の中に、ある悪魔的な疑問が湧いた。
さて、このおびただしい数のテープは、どこから映っているものだろうか、と。
どこまでは知っている。
一番最後のテープから見たのだから。
どこまで?
答えは、女の死、だ。
じゃあ、その前は?
つまり、女の死ぬ前、女の生きている姿はテープに収められているのだろうか?
もしや、このテープは、生きていた命が消えるまでを収めているのではないか?
彼の唾を飲み込む音がやけに大きく部屋に響く。
好奇心。
悪魔に憑りつかれたように彼に湧いた好奇心。
それが、彼を動かした。
彼は、迷わなかった。
次のテープを観る事を。
どうせ作り物だろ。
ただのまやかし物だ。
彼はまるで言い訳の様に自分にそう言い聞かせる。
彼は、№144から後のテープを戸棚から持てるだけ持ち出し、テレビの前に座った。
そして、ビデオの挿入口に№144のテープを入れた。
しかし、テープが上手く入らない。
ああっ、と彼は息を漏らした。
まだ、中に№145のテープが入りっぱなしになっている。
彼は舌打ちを打つ。
№145のテープのテープを取り出す。
そして、№144のテープをビデオの挿入口へ突っ込む。
どこから湧いてくる苛立ちで、彼のリモコンの再生ボタンを押す指に力がこもる。
テープが再生される。
早送りにして、停止して、また再生して、揺れる女を見て。
またテープを変えて。
揺れる女はテープを変えるごとに少しずつ巻き戻っていく。
彼は、その姿をイライラしながら見続けた。
何本か目のテープ。
女が首を吊っている。
映っているのはもう顔だけではなく、女の全身だ。
女は赤いワンピースを着ている。
鴨居から首吊りのロープがぶら下がっている。
暗い部屋の中で、女がゆらゆらと揺れている。
女の足から部屋の畳の上に液体が滴っている。
部屋の窓がわずかに空いている。
窓際に置かれたテレビ台に載ったブラウン管テレビが外から漏れる月明かりに照らされて見える。
女が首を吊っている部屋。
何処かで見た事がある。
彼は、部屋を見回す。
自分が今いるこの部屋を、彼はよく見る。
女が首を吊っている部屋。
それは、ここではないか。
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