水も滴る部屋37p
(ブレーカーでも落ちているのかな。えっと、ブレーカーはどこだっけ?)
茅野は舌打ちをするとブレーカーを探した。
小さな部屋だ、ブレーカーを見つけるにはそう時間はかからなかった。
ブレーカーは茅野が今いる玄関を上がって直ぐのキッチンスペースにある脱衣所へ続くドアの隣の天井近くの壁に取り付けてあった。
茅野は背伸びをしてブレーカーに手を伸ばしたが届かなかった。
茅野はため息を漏らすと当たりを見回し、踏み台になりそうな物を探す。
ガス台の直ぐ横に丸椅子が置いてあった。
(あ、あの椅子、ちょうどいいかも)
茅野は椅子をブレーカーの真下まで運ぶとその上にそっと上がった。
茅野が足を乗せた瞬間、茅野の全体重を支えている椅子のプラスチック性の座面がピシリとヒビでも入りそうな音を鳴らした。
湿った床を踏んでいた茅野の足はツルリとしていて椅子から滑り落ちそうで危うい。
グラグラと椅子が揺れる。
(あぶない、あぶない。バランス崩したら落ちちゃう。えーっと、ブレーカーは……)
茅野がブレーカーを確かめようとしたその時、ドンッという音が突然部屋の中で響いた。
茅野はその音に驚いて体をビクリと震わせる。
その拍子に椅子がガタリと揺れた。
茅野は椅子から落ちない様にバランスを取る。
(な、なに?)
茅野は辺りの様子を伺う。
掛けている眼鏡の淵に手を掛けて眼鏡をかけ直し、注意深く見回すが、部屋の中に異常は見当たらない。
部屋は静止画の様に何も動いていない。
何の変哲のないただの部屋だ。
だが、しかし、部屋にはガチガチという小さな音が小刻みに響いていた。
その音は、茅野自身が歯を鳴らしている音だった。
茅野の上の歯と下の歯が小刻みにリズムを刻み音を立てていた。
(さ、寒い)
茅野の全身には鳥肌が走っている。
茅野は異常な寒さを感じていた。
寒さで茅野は歯をガチガチと震わせていたのだ。
茅野の吐く息が白い。
(部屋に入った時から寒かったけど、何だか、さらに寒い。部屋の温度がグッと下がったみたい。急にどうしたの?)
茅野は両手に息を吹きかけて震え始めた手を温めた。
(……今日はもうこのまま帰ろうか。風邪でも引いたら嫌だし、それに……)
そう茅野が思った瞬間だった。
ガタッ
音がした。
茅野は体を震わせると息を止める。
茅野は耳を澄ます。
音がしている。
それは、ガタッという音とは別の音だった。
茅野はその音に集中する。
音は茅野のすぐ近くで聞こえていた。
茅野は顔を脱衣所のドアへ向ける。
音は、茅野が今いるブレーカーのある位置のすぐ横、脱衣所の中から聞こえていた。
まるでドクドクと脈を打つような音……水の流れる音がドアから漏れている。
茅野の脳裏に今朝見た浴室の光景が蘇る。
蛇口から勢いよく流れ出る水。
浴槽から這い出る様に溢れ出る水。
その水が浴室から部屋まで流れる様子。
茅野は目を見開いた。
(水を止めなきゃ……)
茅野が椅子から降りようとしたその時だった。
ガタッ
カタッ
ガタリッ……
音がした。
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