水も滴る部屋36p
茅野は冷えた空気に震える。
(寒いから部屋に入っちゃうともう外に出たくなくなりそう。うん、この部屋に入る前に自分の部屋から残りの荷物、少し運んじゃおう)
茅野はそう決めると鍵穴から鍵を抜き、102号室から離れ、アパートのやや錆びた鉄製の外階段を登り始めた。
茅野が一段一段と踏みしめるごとに、階段は、カンッカンッと、軽快なリズムを刻んだ。
夜の闇にその音が吸い込まれていく。
茅野は無言で階段を登りきると、そのまま真っ直ぐ外通路を進み、行き止まりにある部屋の前で足を止めた。
部屋番号507。
茅野の部屋だ。
緑頭花荘は四階建てのアパートだ。
四階部分だけが他の階と雰囲気が異なっている。
外観が一階から三階までが和風の作りであるのに対して四階だけ、やや洋風寄りの作りなのだ。
初めからこのようなデザインで作られたのではなく、どう見ても四階部分は後から無理やり建て増しした風だった。
そのせいなのか否か、茅野の部屋は部屋番号こそ507号室であるが、実際の部屋は四階にあり、四階の507号室が茅野の部屋である。
ちなみに、四階にある他の部屋も全て、501、502、などになっているようだった。
他の階はセオリー通りにその階に合わせた部屋番号が振り当てられているのに、最上階の四階だけがどうしてだかセオリーから外れている。
元学生寮ならではの洒落なのか。
茅野は部屋の鍵を取り出そうと鞄を漁った。
しばらくガサゴソと音を立てて鞄の中を荒らす。
そして、鞄の奥から冷たい鍵を探し当てると茅野は、その鍵を鍵穴に差し込み、鍵を開けた。
「う、冷たい」
開いたドアーからヒンヤリとした空気が茅野の肌のむき出しの所に当たる。
(嘘でしょ、部屋の中、凄い冷えてるみたい)
茅野は冷房が効いている部屋にこれから入るかのような感覚を覚えた。
勿論、冷房などつけた記憶は茅野には無い。
(窓でも開けっぱなしにした?)
茅野は部屋に入る事を一瞬躊躇った。
しかし、どんな異変を感じても、自分の部屋に入る事に戸惑うとか、躊躇うとか、ましてや自分の部屋に入るのが怖い気がするとかいう感覚を茅野は気にする様な人物では無かった。
茅野は違和感を飲み込んで部屋に入った。
少し持ち物を持ち出すだけ。
直ぐに部屋から出れば良い。
怖がる必要なんてない。
「ここは私の部屋なんだから」
確かめる様にそう言って茅野は部屋の中へ入った。
玄関ドアーが閉まると部屋は窓から漏れる月明かりだけで薄暗かった。
茅野は玄関で靴と靴下を脱ぎ、湿った床を踏んだ。
(とりあえず電気付けよう)
茅野はうろ覚えの電気のスイッチを薄暗い部屋の中で目を凝らして探して押した。
しかし、明かりはつかなかった。
(あれ?)
スイッチを何度か入れるが全く電気は付かなかった。
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