水も滴る部屋34p

「この四種類のタイプの中の、二つのうちのどちらかに当てはまった人にだけ、訳ありの部屋は貸す事にしているんです。だから……」

「だから?」

「だから、茅野さんは大丈夫ですよ」

「え、それはどう言う……」

 どう言う意味か、茅野がそう聞こうとした瞬間、藤宮のスマートフォンが音を鳴らした。

「着信ありだ」

 そう言うと、藤宮は短くなったタバコを、いつのまにか取り出していた携帯灰皿に捨てて、茅野に断りを入れてからスーツのポケットの中で音を立てて震えているスマートフォンを取り出し、スマートフォンに耳を当てた。

 携帯灰皿はスマートフォンと入れ替えたのだろう、藤宮の手からは消えていた。

 藤宮は、電話の相手と短く話し、スマートフォンを耳から離した。

「茅野さん、話の途中ですまないんですけど、迎えの車が今、着いたみたいで、もう出掛けなきゃ」

 藤宮は、視線を緑頭花荘の門の方へ向けた。

 近くで僅かに車のエンジン音が響いている。

 暗闇に紛れて姿は見えないが、恐らく、藤宮の視線の先に迎えの車は止まっているのだろう。

「あ、大家さんはここで車を待っていらしたんですね。お出かけ前に話を聞いていただいちゃって、すみませんでした。私の部屋の事も、あんな事になってしまい、改めて申し訳ありませんでした」

「とんでもない」

 夢から覚めた様な顔でいる茅野に、藤宮は、それじゃあ、と背を向けるが、直ぐに茅野を振り返った。

「あの、茅野さん、その部屋、102号室の事なんですが」

 台詞の途中で藤宮のスマートフォンが鳴る。

 藤宮は着信の相手を確認すると、せっかちだな、と顔をしかめて呟く。

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