水も滴る部屋33p

 茅野の頭の中を、ブログサイトを見た時の紺谷の発言が過った。


『このサイトの記事が本当なら、〇美さん、先生の部屋の風呂場でヤバい感じに亡くなっているし、アパート自体、事故物件を超えてマニアの間で噂に上る心霊スポットって事ですよね。少なくとも、先生の部屋、こんなマニア御用達のサイトで記事を書かれる様なガチど真ん中の事故物件じゃないですか!』


「ええと、ガチど真ん中の、事故物件を超えた心霊スポットって言う評判ですか?」

 茅野のその答えを聞いた藤宮は微妙そうな顔だ。

「茅野さんがそんな風に思っているなら、まあ、それで良いですけど」

「いえ、私がそう思ってる訳では決して、ええと、これは、何て言うか、そのぅ」

 まずい事を言ったかと、慌ててフォローしている茅野に対して藤宮は落ち着いている。

「良いんですよ、別に。事故物件のアパート、そしてお化け屋敷、それが、うちの評判です。一部の評判ですがね」

「はあ、このアパート、そんな風に言われているんですね。知りませんでした」

「まあ、一部の評判ですが。茅野さん、うちの部屋を借りたいって言う人間には四種類のタイプがいるんですよ」

 藤宮は、片手の指を親指以外、全てを立てて茅野の顔の前に突き出した。

「四種類のタイプ」

 目の前の藤宮の指を、惹きつけられたかの様に見つめ、茅野は囁く。

「部屋を、借りたい人間、仕方なく借りた人間、何も知らない人間、事故物件なんてどうでもいい……気にならない人間、この四種類ですよ」

 藤宮は、まるでマジシャンの様に滑らかに、人差し指から順に指を折りながら言う。

 茅野は藤宮の指から目を離さない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る