水も滴る部屋32p

「大丈夫ですよ。どうぞ、話を聞かせて下さい」

 藤宮は普通に、そう言う。

 だから茅野は普通に藤宮に話をした。


「私、私は自分の部屋が事故物件とか、気になりません。私には関係無いって……」

「うん」

「不謹慎かも知れないですが、あの部屋で過去に何があったかなんて私に関係ないじゃないって。だって、本当に知らない人の事ですし」

「うん」

「それに、人って毎日、何処かで亡くなっていますよね? この瞬間にも。死は、故人に近しい人にとってはもちろん特別な事と思います、でも当たり前な事だと、私は……そう思うんです。だって、人は死んで当たり前ですよね?」

「うん」

「当たり前の事なんですから、その当たり前の事が他人に起こって、だから、私の住む前に、私の部屋で他人に何があったか、誰か死んだ人がいるのかって……どんな風に死んだのかって事、もし、私が気にならないって言ったら。そんな事、今の私には無関係だって……」

「…………」

「他人事だから、どうでもいいって、私がそう思っていたら、大家さん、私の事、冷たい人間と思いますか?」

「全く思わないさ」

 藤宮は、言葉と共にフゥッと息を漏らす。

 煙が暗闇に細く浮かぶ。

「なぁ、茅野さん、あのブログサイトを見たなら、茅野さんの部屋に限らず、このアパート自体がどんな評判の物件か分かりましたよね?」

「評判って、あ……」

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