水も滴る部屋27p

 その様子に茅野が「どうしました?」と声を掛ける。

「な、なんか、サイトから、先生の部屋の記事が消えまして。記事が……削除されたみたいですねぇ……」

「うわぁー、タイミング最悪」

 茅野と紺谷は、気まずそうなお互いの顔を見つめ合い、そして、二人揃って、「あ!」と声を上げだ。

 二人のテーブルの横を通ったカフェの店員がブラッディチョコレートパフェを五つ乗せたトレイを両手で持ち、慎重に運んでいるのが二人の目に入ったからだ。

 茅野がカフェに来てからまだ注文をしていない事を二人揃って思い出したのだった。




 茅野が紺谷との打ち合わせを終えて、そのままアルバイト先であるコンビニへ向かい、アルバイトを終えたのは終電がもうそろそろという時間だった。

 今、茅野は帰宅途中で、駅から緑頭花荘までのわずかな道のりを重たい物でも背負っているかの様に歩いている。

 アルバイトが終わってから、茅野の頭の中では、疲れたという言葉がぐるぐると回っていた。

 早く眠りたかったが、そうはいかない事を思い出すと、暗い夜の闇は茅野を、このまま消えてしまいたい、と言う気持ちにさせた。

 はぁ、と茅野は何度目かのため息を吐く。

 ため息のついでに茅野は、藤宮に借りる部屋の鍵の件について、藤宮から連絡があったかも知れない事を思い出してスマートフォンを鞄から取り出し、切っていた電源を入れた。

 スマートフォンの留守番電話には、一時間前と四時間前に、藤宮からのメッセージが記録されていた。

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