水も滴る部屋25p

「いや、落ち着くのは先生の方じゃありませんか」

 呆れ顔の紺谷が指す指の先がパソコンの画面から茅野の顔面に移る。

「そもそもが、不動産屋から部屋で不審な死に方をした方がいるって情報があったのに、何故、その部屋に住む事に決めちゃったんですか。落ち着いて考えたら、ちゃんと事情を把握してから決める事じゃありませんか? どんな瑕疵があるかのか理解していないと不都合が出て来る場合だってあるじゃないですか。なのに、それを、先生は興味の無い事みたいに」

「え、あの、カシって? 紺谷さん……」

「風呂場で人があんな風に亡くなったって、ネットに書かれた記事をそのまま鵜呑みにしたくは無いですけど、本当の事だったらどうするんですか。時すでに、問題の風呂場で怪奇現象っぽい事起っちゃった後に言うのもなんですけど、先生は怖くないんです? 以前住んでいた方が妙な亡くなり方をした事件が起こったっていう現場の風呂場で、排水溝に自分の物じゃない髪が詰まっているとか、触った覚えすら無い蛇口から水が勝手に流れ出て、部屋が浸水とか、そんな奇妙な事が起こって平気でいられるんですか? 落ち着いて考えてみてどうです?」

 畳み掛ける様な紺谷の台詞に、「……そう言われても、もう部屋は借りてしまった訳ですし。怪奇現象って、私、そう言うの信じない性質ですから。それにリアルに起こり得る事をわざわざ怪奇現象の方に持って行って怖がるとか、私には無いっていうか……」茅野は不自然な作り笑いを顔に貼り付けて言った。


『ここ、訳ありの物件よ? 事故物件よ?』

『あんた、大丈夫なのかい? ここさ、三日も経たずに解約したいとか言い出すレベルの事故物件よ?』

『何かあっても、うちも責任は取れないからね』

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