水も滴る部屋19p

 茅野は、部屋から外へ流れ出る水を啞然とした顔で見ている目の前の大家、藤宮の顔と悲惨な状態の自分の部屋を交互に見ながら、藤宮に風呂場の蛇口を閉め忘れたらしい事が原因で、風呂場から部屋へ水が溢れてしまった様だと説明して謝罪をした事、藤宮と二人で畳と荷物を外に運び出した事、水浸しの茅野の部屋の代わりに藤宮が貸してくれた102号室の様子を紺谷に話して聞かせた。

「本当、引っ越してからまだ一日目だって言うのに最悪でしたよ。アパートに帰ったら、あの気持ちの悪い髪を排水口から取り除いたり、部屋を片付ける作業が待っているのかと思うと、考えただけで疲れます。大家さんが代わりに貸して下さった部屋も本当に有り難いのですが、けど大家さんの部屋と繋がってるとか……」

「ちょっと、ちょっと先生、トークストップ。ええと、待って下さい。あの、先生のお話を聞いてから私、ずっと気になってる事があるんですけど」

「え、なんですか」

 話の腰を折られて少し不満気である茅野に、紺谷は、コホンッと咳払いを一つしてから、「あの、まず風呂場の水の事なんですけどね。先生ご自身が蛇口を閉め忘れたって前提で話をなさっているみたいなんですが、そんな、全開まで蛇口のハンドルをひねって水を出しておいて、蛇口、閉め忘れますぅ?」と話す。

 茅野は、うーん、と唸り声を上げると、「人間、完璧にはいきませんから、そういううっかりも、あるはずですよ。いや、むしろ、あるあるですよ。蛇口を一度もうっかり閉め忘れた事の無い人がいるなら紹介して欲しいくらいですよ」と苦笑いで答えた。

「……先生、先生が万が一、お風呂を沸かそうとして蛇口を閉め忘れたとしても、ハンドルはお湯の方は開いてなかったんですよね?」

「ええ」

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