水も滴る部屋18p

「先生、その歯、いや、小っさい白い固まりはどうしたんですか! 髪はどうしたんですか!」

 心配そうに自分を見つめる茅野に紺谷は絶叫を浴びせかけた。

「紺谷さん、声が大きいですって。白いあれですか? どうもしません。髪もそのままですよ。髪が風呂場の排水口に詰まっている事以外、何もかもが意味不明のまま、風呂場は、そのままです」

「な、何故、そのまま……」

「何故って、大家さんが来たからです。私だって見ず知らずの、赤の他人の髪の毛が排水口に詰まっているなんて不快極まれりですし、直ちにどうにかしたかったですけど、でも、本当に気持ちが悪くて、とてもじゃないですけど、そのまま直ぐに素手で取り除こうとか思えなかったんです。他人の髪なんて、料理に入っているだけで気持ち悪いじゃないですか。それが排水口に大量に詰まっているなんて最悪ですよ。あの髪の塊、凄くグロテスクで。入居前に入ったクリーニング業者が手を抜いたのかなとも思うと憤りまで感じて」

「クリーニング業者ぁ? いや、まあその可能性大ですけど、そっちぃ? その空気でクリーニング業者への憤りの方に気持ち行きますぅ?」

「え、それ以外に何かあるんですか? 髪は、兎に角、直で触りたくないから割り箸か何かで取ろうかなって思ったんです。そう思った瞬間、呼び鈴の音とノックの音が聞こえて……大家さんが様子を見に来てくれて。あ、うち、大家在住なんです。私、朝、起きた時に、部屋が水に浸かっている様を見て悲鳴を上げてしまったんで、その声を聞いて大家さんが駆けつけてくれて。大家さん、めちゃくちゃ玄関ドアをノックしていて、大丈夫かって叫んでいるから、私は、髪は置いておいて、ひとまず玄関へ向かったんです。私が慌てて玄関ドアを開けると、ドアから部屋の中の水がサーって外へ出て行って」

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