水も滴る部屋17p

 茅野は排水口に詰まった滑りを帯びた髪の様子を思い出して顔をしかめた。

 紺谷もその様子を想像してか、顔を強張らせている。

「浴槽から溢れた水は、その詰まった髪のせいで排水口から排水されなかったんですね」

 紺谷が言うと、ええ、と茅野が頷く。

「私はゾッとしました。最高に気持ちが悪くて。鳥肌が立ちましたよ。だって、排水口に詰まっている髪は、明らかに私の物じゃない。いくらなんでもこんな、排水口が詰まるほどに私の髪は抜けません。断じて私の髪じゃない! 引っ越し初日ですよ? シャワーで一度髪を洗っただけで、あんなに髪が抜けるなんて有り得ないですよね、ねぇ、紺谷さん?」

「でっ、でででっ、ですよねぇ。排水口のそれは間違え無く、先生の抜け毛じゃないです」

 紺谷の答えに茅野は満足気だ。

「私は、嫌々、排水口に顔を近づけて見てみました。髪はヌメッとしていて、細かい、垢の様な物が付着していて異臭を放っていました。なんだか、白い小さな固まりみたいな物も髪に絡まっている様に見えて……」

「は、はぁ? は? え、小さな固まり? はぁぁぁっ? 何それ? は?」

「あの、紺谷さん、声が大きいですよ。何って、兎に角、小さな固まり……ですよ。どこかで見た様な、むしろ何時も歯磨きの時に鏡で見ている様な? 小さな白い固まりです」

「は! は! はぁぁぁーっ! は! それ、歯! 歯じゃないの? 歯ぁっ!」

「は? はぁ……あの、紺谷さん、大丈夫です? 何か様子がおかしいですよ。体調でも悪いです?」

「はいぃぃーっ? おかしいの、私の方ですぅ? 様子がおかしいのは明らかに先生の部屋でしょ」

「え、私の部屋が、ですか。あの、ちょっと、紺谷さん?」

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