水も滴る部屋15p

「ええ。風呂場に入ると、浴槽にお湯を張る為の蛇口から、まるで滝の様に水が出ていました。浴槽からは水が溢れ出ていて、私は慌てて、直ぐに浴槽に飛びついて蛇口を閉めにかかったんです」

「え?」

「浴槽の蛇口のハンドルは昔からある、ひねるタイプのやつでして、赤と青のハンドルが二つあって、それぞれからお湯と水を出して湯加減を調節するっていうあれです。私はとりあえず、赤と青のハンドル、両方を閉める方へとひねりました。すると、赤い方、お湯の出る方は閉まっているみたいで、青い方がめいっぱい開いている事が分かりました。それが分かると、私は青いハンドルだけを夢中で閉めました。でも中々水は止まらなかったです。なので私、途中で混乱してしまって。ほら、良くあるじゃありませんか、ネジをドライバーで外そうとする時、右回りと左回りを間違えて、ネジを外すのを手こずるって事。そんな風になってしまって、蛇口を閉めているはずなのに開ける方へ回してしまって。どっちにハンドルを回して良いのか分からなくなって、右へひねったり左へひねったり」

「ええ……」

「え、紺谷さん、固まっちゃってますけど、どうしました?」

「い、いえ、すみません。続けて下さい」

「はい。そうしているうちに、やっと蛇口が閉まって、水は止まりました。やれやれという感じです。私の服は蛇口を閉める時に浴槽へ寄りかかったせいでぐっしょりと濡れていました。この時点で、もうどっと疲れが出ていました。体から力が抜けて、私は風呂場の床にうずくまってしまいました。床は蛇口を閉めた後も、まだ浴槽から溢れた水に覆いつくされていて、うずくまった時、床に触れた服が水を余計に吸って重たくなって、何だかもう大変惨めな気分でした。私は俯きながら何となく排水口を見ました。そして……おかしいなと思ったんです。排水口から水が流れていない様に見えて」

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