水も滴る部屋11p
茅野が、藤宮にはアルバイトと偽った(打ち合わせの後には本当にアルバイトへ行く予定があるので全くの嘘という訳では無い)打ち合わせへ向かう為に、緑頭花荘を出たのは、布団セットと自分の大事な荷物だけを鍵のかかるキャリーバックと段ボール箱一箱に詰め込み、102号室へ運び込んでからの二十分ほど後だった。
打ち合わせの為に急いでいるし、荷物のほとんどが水に濡れてしまっていて、全てを直ぐに102号室へと運ぶ事が出来なかった茅野は、部屋の外に出しっぱなしの濡れた荷物と、自分の背中に向けて、「この際、アルバイトは休めないんですか?」と叫んでいる藤宮を置いて緑頭花荘を出たのだった。
家に帰ったら、また部屋を片付けて荷物を運ばなければいけないという、明らかに疲れるであろう作業が待っているという憂鬱な現実と、遅刻しない様、急いだにもかかわらず結局遅刻してしまったという残念な現実に頭を痛めながらも、茅野はスニーカーの紐が緩んでいる事も構わずに駅までの道を走った。
しかし、この努力も虚しい結果となる。
打ち合わせの相手との待ち合わせの場所へは電車で向かわなければならないのだが、電車が人身事故の為に停車してしまい、三十分遅れてしまったのだ。
電車の中で、茅野は何度も打ち合わせの相手に謝罪のメールを入れた。
電車が目的の駅に到着しても、茅野には平和は訪れなかった。
待ち合わせの場所が初めて行く場所で、だいぶ迷ってしまったのである。
待ち合わせ場所であるカフェに茅野が着いたのは、緑頭花荘を出てから一時間以上もたっての事だった。
茅野にとって、今日という日は間違えなく厄日だろう。
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