水も滴る部屋10p
「茅野さん、俺は別に無理にこの部屋をお貸ししようとは思わないですよ。お困りの様でしたので、良ければと思っただけですので。部屋がこういう事になっていると前もってご説明してから提案しなかったのは俺も悪いですが、店子の部屋があんな事になって、俺も大慌てでしたから。茅野さんの荷物とか、濡れた畳とかを外へ運び出す作業を手伝ってワタワタでしたから、まずこの部屋の事を説明をしてから提案しようとか、そんな隙も無く、俺のこの口が勝手に、良かったら空き部屋貸します? って言っていたんですよね。しかし、まあ、あらぬ疑いを招く様なら、さっき言った様に、ホテルでも取って頂ければと……」
「無理です! さっき言った様にホテルは無理です!」
「あ、じゃあ、誰かお友達に泊めてもらうとか?」
「いないです! 急に泊めてくれる友達とか、いないです! ……あ、別に友達がいないっていう事ではですねぇ! ……いや、ええっと、ああっ! あああっ、もう! あのっ……あっ。あの、うん! 私、大家さんを信用します。部屋にも不満はないですよ! ですので、この部屋を私に貸して下さい! お願いします!」
茅野は、もう土下座までして藤宮に頼んでいた。
「はぁ……。茅野さん、どうか頭を上げて下さい。分かりました、この部屋を茅野さんにお貸しします」
茅野の第六感や本能や理性、知性は自分の置かれている立場に負けて、茅野にブレーキを全く踏ませなかったのだった。
こうして、茅野は、自分の部屋の修繕が終わるまでの間、102号室を借りる事ととなった。
この部屋で、これから茅野に起こる事となる事態など何一つ分からずに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます