水も滴る部屋8p

 自分の部屋と同じく1Kであるはずのこの部屋の壁にドアが取り付けられている事への不自然さが茅野の感じた違和感の正体なのだった。

「あの、なんなんです? そのドア。……えっと、あの、多分なんですけど、大家さん、そ、そのドアからこの部屋に入って来ました?」

「…………」

 茅野と、何かを考えているのか黙ってしまった藤宮は、茅野のいる位置から見て右側の壁にあるドアに視線を送る。

 ドアは壁のど真ん中にはまっていた。

 もう一枚のドアも同じだ。

 ドアはどちらも木製で、朱色で塗られた重厚な物だった。

「ええっと、もしもし、大家さん? めちゃくちゃ気まずそうなお顔をなさっていらっしゃいますが? 私も同じ気持ちです。私も、もう分かり切ってることを聞くのも気まずい感じなんですけど、あのドア、あれは101号室……管理人室と繋がっていますよね?」

 強めの口調で問う茅野。

 藤宮は、ははっ、と乾いた笑い声を上げる。

「その通り。101号室と102号室はこのドアで繋がっています。俺は、101号室からこのドアを開けて、この部屋に入り、この部屋の玄関ドアを開けました」

「ああーっ、つまりこの部屋、大家さんの部屋から自由に出入り出来るって事ですよね? 今みたいに」

 そう言う茅野の表情は完璧に引きつっている。

 藤宮の方は微妙に真面目そうな顔を作って、そうですね、と頷く。

「ええ、物理的にはね。ただ俺は、茅野さんにお貸しすると約束した、この部屋に、このドアで自分の部屋から勝手に出入りするなんて事はしないですよ。今は仕方なく入りましたけど」

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