水も滴る部屋7p

 キッチンスペースには、玄関を上がって直ぐ右手にトイレのドア、それに並んで脱衣所へのドアが、トイレと脱衣所の対面の壁の左際に小さなガス台とシンクが備え付けられてある。

 そして、玄関から見て正面には部屋へと続く引き戸がある。

(家と同じ間取りか)

 なるほど、と茅野が自分の1Kの部屋を思い出しながらそこを見回していると、開け放たれた引き戸から藤宮が茅野を呼ぶ声がした。

 茅野は藤宮の声に応えて部屋の中へ入り、そして、直ぐに違和感を持った。

 その違和感の正体を、茅野は数秒で分かった。

 自分の部屋とは明らかに違う様子のこの部屋に、茅野は首をかしげる。

 この部屋は和室だ。

 畳敷きの六畳間である事は茅野の部屋と変わりない。

 業者がクリーニングしたばかりの茅野の部屋と違い、古めかしい空気が漂っているのだが、それが違和感の正体では無い。

 茅野の部屋には押入れがあるのにこの部屋には押入れどころか収納スペースが見当たらない、が、それも茅野が感じた違和感とは関係が無い。

 とある物がある事を除いては、ここは、ただの部屋なのだ。

「あの、それって……」

 茅野が、部屋の真ん中に立っている藤宮の顔とそれを交互に見ながら、ぎこちない動作で人差し指で指し示したのは、ドアだった。

 違和感の正体はそのドアだ。

 この部屋には、キッチンスペースから部屋へ出入りする為の引き戸がある(茅野は今、この引き戸を一歩跨いだ位置にいる)位置から見て、正面の壁に大き目の擦りガラスの窓がはまっている。

 そして、キッチンに繋がる引き戸と窓のある壁を挟んだ左右の壁に、それぞれ、ドアが一枚ずつはまっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る