水も滴る部屋6p
藤宮はそんな茅野を見下ろして溜息を吐くと、ゆっくしとした口調で「茅野さん、落ち着いて下さい。お急ぎなんですね、バイトへ行く為に……。大丈夫ですよ。布団をここまで運んだ事は無駄にはならないし、バイトも心配ないし、ホテルにも泊まらなくていい。鍵がなくても部屋へは入れますから」とそう言った。
「え?」
「ちょっと待っていて下さいね」
藤宮は茅野に笑顔を見せると茅野を待たせ、101号室(管理人室)へと入って行く。
藤宮が部屋に入って直ぐに、カチャリと音を立てて玄関ドアは開いた。
茅野は俯いたその顔を上げ、音のした方に顔を向ける。
「あれ?」
茅野は目を見開いた。
開いているドアは102号室のものだったのだ。
開いたドアの隙間から藤宮が顔を出している。
「へ? え? は? はぁ? 何で? え、コレ? い、イリュージョン?」
101号室に入って行った筈の藤宮が何故、102号室から出てくるのか茅野には理解不能だった。
どうなっているんですか? と、戸惑う茅野に藤宮は、手招きしながら、こう言うことさ、と茅野を102号室の中へと誘う。
茅野は、瞬きをする事も忘れて吸い寄せられる様に部屋の中へ入った。
部屋は、中に入って直ぐが小さなキッチンスペースになっている。
四畳半ほどのこのスペースは、冷蔵庫や食器棚でも置いてあれば別だが、空き部屋であるここでは広く感じられる。
茅野は、靴が六促並べばいっぱいになるほどのこじんまりとした玄関のたたきに、履きつぶした、くすんだ赤い色のスニーカーを静かに脱ぎ、中へ上がる。
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