水も滴る部屋4p

「いや、うーむ。鍵につけてあるキーホルダーには、この部屋の部屋番号が書かれてるんだけど。ほらね」

 藤宮は鍵に付いているキーホルダーに黒いマジックペンで102と書かれているのを茅野に見せる。

 茅野は、鍵にぶら下がる白いプラスチックの板を凝視してから、念のためにと、玄関ドアの上部に取り付けられた錆びたプレートを見て部屋番号を確認して、確かに、と頷く。

「すみません。ちょっと鍵を確認して来ますので。少し待っいて下さい」

 そう言って藤宮は隣の101号室へと消えた。

 101号室は管理人室として藤宮が使っているのだ。


 数分後に藤宮は部屋から出て来た。

 藤宮は部屋から出るなり両目を瞑り、うーむと悶える。

「どうしました?」

 不安気な表情を浮かべて茅野が言う。

「茅野さん、ごめんよ。ちょっと、どう言う状況か分からないな。鍵はどう言う事? キーホルダーを間違えてる? いや、でも、うーん、マスターキーで開けるかなぁ……んん? あれ? マスターキーは何処にしまったっけかな……なぁ、茅野さん、どう思いますか?」

「知りません、分かりませんよ。でも、部屋の鍵もマスターキーも見つからなかったんだなって事はよく分かりました。……あの、私の立場でこう言っちゃ何ですが、この部屋じゃなきゃダメなんですか? 他に空き部屋、ありますよね? 他の、鍵がちゃんとしている部屋を私がお借りする、でどうですか?」

 そう言う茅野に、藤宮は即答する。

「ダメさ。他の部屋の鍵は管理会社に預けてあるからね。今直ぐに使える部屋はこの部屋だけだ」

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