水も滴る部屋2p
「いや、茅野さん、いいんですよ。あの部屋、もう後数年でリフォームした方が良いかなって感じだったんで、幸い、大した被害にもならなかったしね。ちょうど下の部屋も空き部屋でしたし、いやぁ、良かった、ははっ」
茅野と同じく、乾いた声で笑っている(おそらくは苦笑いであるが)のは、ここ、緑頭花荘(リョクズカソウ)のオーナーであり、大家である、藤宮和也(フジミヤカズナリ)だ。
藤宮は、本人は、年齢は三十代半ばに入ったばかりだというが、少しチャラついた様な雰囲気のある男で、年齢よりも若く見え、とてもこのアパートの大家には見えない。
緑頭花荘の外観はと言えば、おせいじを言えばレトロ、普通に言えば年季の入ったアパート、悪く言えばボロアパートでしかない。
藤宮も、年季の入った風なジーパンに、ややくすんだ白い色の長袖のシャツという出で立ちだが、どこか花のある藤宮の様な見た目の男には高層マンションがお似合いと見える。
しかし、藤宮はここ、緑頭花荘に大家として暮らしていた。
「本当に申し訳ないです。お風呂の蛇口を閉め忘れてしまうなんて。あんな事になるなんて」
茅野は大家である藤宮に謝ろうと頭を下げようとするが、布団が邪魔をして上手く出来ない。
その様子に、藤宮が手伝いますよと茅野の持つ布団セットに手を伸ばしたその瞬間、茅野の目が鋭く光る。
「触らないで!」
茅野は叫び声を上げていた。
藤宮がその声にたじろぎ、困惑した表情で茅野を見る。
「いや、いやいやいや、大家さん、ごめんなさい。私、自分の布団だけは他人に触らせたくないたちで。申し訳ありません。お気持ちだけは有り難いです。浸水した部屋の床の修繕費も出さないで良いとおっしゃって下さいましたし、こうしてご厚意で直ぐに代わりの部屋まで用意して頂いて、本当に有り難いですから、ですから布団は大丈夫です」
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