合格発表

「…あったー!」




 …叫べるものなら、そう叫びたい。現に今の俺は、喜びに打ち震えていても何の不思議もないはずだった。

 確かに俺は震えていた。


 だが、それは喜びからは来ていない。


 今俺は、日本の大学の中の大学、東京大学の合格発表を見に来ている。正直な所、俺の学力では届きっこない学校だと思っていた。


 ……なのに、何度見直してもその番号は燦然と輝いていた。もうこれで7回ぐらいは見直しているはずだ。でもやはり確認せずにはいられない。




 8902、8905、8909、8911、8914、8918・・・・・・




 やっぱりあった。その4桁の数字、「8914」は合格者の欄に輝きを放っていた。


 普通ならこれで俺は東大生だーとでも絶叫して喜びに浸るものであろうし、仮に第一志望でないにしても、これで浪人を免れたと言う事で安堵の気持ちに浸るであろう。


 だが今の俺にあるのは喜びでも安堵でもない。合格発表を見る前と変わらぬ、いやその数倍に膨れ上がった緊張があるだけだ。


 東大の授業に付いて行けるのか、学費は大丈夫なのかと言う不安はもちろんある。だが今の俺の不安はそんな物ではない。


 俺は、まるで落ちた人間のような顔をしてフラフラ歩き、やがて別の学部の合格発表の場所までたどり着いた。


 そして自分の番号が書かれた紙を懐にしまい、ポケットからまた別の紙を取り出す。そして、再びその紙と板に交互を目にやり始めた。




 4302、4306、4309、4317、4323・・・・・・




 ……ない。何度見てもない。あるはずの数字、「4321」はいくら見てもない。


 全身から力が抜けた。改めてさっき懐にしまった受験票の名前を見直してみるが、やはり「8914」と書かれた受験票の名前は他ならぬ俺のだ。


 名前を取り替えられる物なら取り替えたい。後にも先にも、こんな思いをする奴は俺一人だろうななどと下らない事を考えてしまう。


 どうすればいいのだろう。とりあえず、赤門へと歩き出した。いや、本当は向かって行ってはいけない場所なのかもしれない。だが向かわない訳にいかない。俺一人のために、時間は止まっちゃくれないんだから…………。


「浩樹ー!」


 あ、聞こえてきた。俺はどういう言葉を口から吐き出せばいいのだろう。








「合格発表見てきてくれた?ごめんね、東大は浩樹じゃ無理だったと思ってたけど、強引に付き合わせちゃって。私は全部できたよ、だから通ってると思うけど、大好きな浩樹に確かめてもらいたくって。弘樹はどうだった?まさか通っちゃったりして?ハハハ、そんな事ないよねー。ましてや、私だけが落ちたりしてることなんて。アッハッハッハ!」

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