大罪人

 俺は何で今学校にいるんだろう。その思いが俺の頭の中を強く支配する。



 今頃俺は牢屋の中にいても何の不思議もないはずなのに。


 元々は俺が悪い。俺が悪いのだ。クラス一の、いや学校一のアイドルと言うべき由紀を望月の奴が横取りしやがった、と俺が思い込んだのが悪いのだ。


 ほら見ろ、出会う人間出会う人間みんな俺を避ける。大人も子供も、みんな冷たい目を向けて来る。向けなければ悪だと言わんばかりに鋭い目線。


 家族さえも、守ってくれやしない。愛情より、疑念の方が大きいからだ。








 元々望月の奴に好感を抱いていなかった藤谷たちを誘い、あいつに戒めの意味を込めて制裁を課してやった。

 まあ、世間から見れば「いじめ」だろうな。

 途中で気がつかなかったのかって?まあ、途中からやばいかもとは思ってたよ。

 幸いにも、学校の教師共がこれまた絵に描いたような事なかれ主義ばかりだったせいで、今まで露見しなかったんだが。


 どうせ俺はエリート揃いの家の中でも疎外された外れ者。例え事実がばれて俺が学校を放り出された所で、家族は同じように俺をトカゲの尻尾の如く放り出すだけだろうし、それでも別に構いやしなかった。


 元々あんな家に俺の居場所はなかったのだから。




 そうだ。俺が悪いのだ。俺が一番重い処罰を受けてしかるべきなのだ。




 それがあの理事長……。


「人間、嫉妬心など誰でも持っている。それをいちいち処分したらキリがない。長じてからも恋愛の情によって人間の心が狂う事は多々ある。それより、その嫉妬に乗じて保身と暴力を図り、またその隠蔽を図った人間の罪のほうが遥かに重い」

 正論だ。だが、そんな物聞きたくない。全ての根源は俺にあるのだ。それだけだ。

「元より邪な気持ちがなければ暴走していた君の言葉に乗っかりなどしない」

 暴走、確かにそうだ。俺は嫉妬で暴走しておかしくなっていたのかもしれない。しかし、それでは暴走するのは仕方がなくて、暴走を止めなかった方が悪い事になる。

「その通りだ。よくわかってくれた」

 ……何も返す言葉がない。何ていい顔をしているんだ。本当にいじめは愚かな事だ。と思わせたいのだろう。現に今自分がそう思っているのだから。







 俺以外の生徒には厳しい処分が下された。藤谷は1年間の停学、藤谷と共に初期からいじめに加担していた森川や藤本の奴は3ヶ月の停学、その他にもクラスで10名、学校全体で30名余りの生徒が処分を受けた。


 教師たちの方がなお重い。見過ごし続けた学年主任は依願退職に追い込まれ、俺のクラスの担任は半年の再研修に回され、それ以外にも告発を図った教師を左遷しようとしたお偉いさんを含む十数名が減給や戒告の処分を下された。


 世間は俺だけが処分を受けなかった事を何だと思っているだろう。


 うまく取り入って逃げ切ったと思うだろう。


 今わかった。理事長は、俺の事をちっとも許してくれてはいなかったのだ。



 つくづく思う。いじめって奴は本当に愚かだと。

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