竜田揚げ(およそ一年ぶりかよ!)

 来なければよかったとか言う繰り言を並べ立てるには、あまりにも遅かった。


 児童虐待を疑われても言い返せない。自分としては最善手に最善手を打って来ただけのはずだった。


「あんまりかっこよすぎてね、カメラもみんなボクの方を向いちゃうんだどうもごめんなさいね~」

「アッハッハッハ!!」


 大人はみんな笑っている。子どもたちは釣られて笑う子もいれば、目をまんまるに見開いている子もいる。

 もしこの後彼にお礼を言わなければ、私はそれこそろくでなしの烙印を押されるだろう。普段ああだこうだと愚痴ばかり言うような私のために、ここまで必死になってくれるのだから。


 目の前の彼の、ド素人らしい下手くそなギャグ。そのギャグで大人が笑っているのは、半分が話題反らし半分が納得を込めた笑いだろう。


 延々五年間、どんなに頑張って来ても得られなかった笑顔。


 箸すら使わずベタベタに油のついた手でひたすらに冷凍食品か出来合いとおぼしき竜田揚げを漁る姿は、まさにその笑顔だった。


 本当なら飲み込んじゃダメとでも言うべきだった。でも言えなかった。子どもも大人も黙りこくる中、あのギャグで何とか最低限まで空気は温まったがどうにかなる物でもない。


 もう、限界だった。



「まあ皆さん、デブデブデブデブ太ってメタボになって生活習慣病になってもいいだなんて、ずいぶんと危機感のない事ですね!」




 不思議なほどにすがすがしい気分だ。


 そもそもの話として、自分がいかに優秀で、いかに子どもの事を思っているか、その事を示すという目的を達成するためだけにここに来たのだから。


「ちょっと……」

「まあうちにはあんな風に体に悪い物を食べる子はいませんけどね!」


 あれは私の子どもじゃない。私の子どもじゃない。

 あんな風に生活習慣病の種を喜んで食べるような自殺志願者を生んだ記憶はない。


「何考えてるんですか!」

「猿山には付き合い切れません」


 こんなに気持ちいい話はない。この笑顔は、どんな言葉よりも雄弁に私の本音を語ってくれる。こんな猿山の住民たちでもわかるほどには。

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