画一的イメージ
「藤沢君、昨日の君の放送は実にまずかったようだよ」
ある日、ワイドショーのメインキャスターである私の元に、ディレクターが困った顔をしながらダンボールを抱えてやってきた。
「抗議文がどっさり来てるんだ、見てよほら」
ダンボールの中には、抗議文と思しき手紙がぎっしり入っていた。
「これ全部抗議文だよ。見てみるか?」
まず1枚手に取ってみた。
「私はイギリス人です。あなたは昨日テレビである芸能人をまるでイギリス人のような紳士的な振る舞いと仰いましたが、イギリス人の男子がみな英国紳士だと思われるのは正直窮屈です。訂正して下さい」
なるほど、画一的なイメージを持たせないでくれと言うことか。しかしそうは言われても、未知の他者を判断するのに、既存のイメージを被せてしまうのは仕方のないことだ。とりあえず聞き流す事にし、次の抗議文を手に取った。
「スポーツコーナーでのトップ選手の取材で、ものすごい額の年収に驚愕していましたが、あれでは同じスポーツをやっている人間が全員儲かるような印象を与えます。あそこまで稼げるのはほんの一握りであることを伝えるべきです」
私は確か、大会の優勝者にして今年度のナンバーワン選手と言ったはずだ。それを言えば大体理解できるものだと、やはり聞き流して次の抗議文を手に取った。
「特集の大食いコーナーで、」
やはり来たか。大食いをやると必ず食べ物を粗末にするなという抗議が来る。
「特集の大食いコーナーで、まさに牛飲馬食という言葉がピッタリ来るとおっしゃっていましたが、水を余り飲まない牛もいれば食の細い馬もいます!」
……と思ったら何だこれは。こんな一般的な四字熟語にまでクレームを付けてどうする……と思っていたら、末尾に書かれている名前がどう見ても現役の競走馬のそれだった。まさか馬が抗議をしに来た訳でもあるまい、いわゆる筆名だろうと思ったその時、
「オラオラ、藤沢! 抗議したい事があるんだ!」
荒っぽい声が飛んできた。声をした方を見れば、スタッフたちが怯えておののき、道を開けている。
「今日は抗議したい事があって地獄から来たんだよ!」
そこに立っていたのは紛れもない、本物の鬼だった。真っ赤な体に頭に角を生やし、虎柄の腰巻をした紛れもない鬼。
「一家4人を殺して現金を奪った人間が捕まったって言ってたよな? その時お前、そいつのやった事を何と言った? まさに鬼の所業だって? ふざけるな! 俺たちだってもう少し情けはあるんだよ! あんな奴と俺たちを一緒にするんじゃねえ! 訂正しろ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます