刺客
「キミの双肩にはこの国の未来がかかっているんだ。やってくれるね」
「はい、わかりました」
私は、とある地方公共団体で働いている国家公務員。だがそれは表向きの話。私の本当の仕事は、国に仇なす者を葬る刺客。
「それにしてもまた一段ときれいになったな」
「はい、仕事ですから」
「最近は本当に我々に対する風当たりが強くてな。今度のエステ代なんか私が自腹を切って…おっと失礼」
「あっそうだったんですか、大変ですね」
「いやいや、お気遣いなく」
「で、ターゲットについて教えてほしいんですが」
「あ、そうだった。彼だよ彼」
そう言って、上司の男性は私に一枚の写真を見せた。
「中山英男、39歳。フリーのジャーナリストだ。一見冴えない三文ライターを装っているけれど、粘り強さには定評があってね。次期首相候補とわが国が誇る世界的大企業のつながりについての調査を行い続け、ついに尻尾を掴んだらしいんだ」
「放置できませんね」
「その通りだ。正直、俺は今の首相ではこの国は持たないと思っている。あのお方が次期首相にならなければ、この国は倒れてしまう。こんな所でつまずかれては困るのだ」
「彼の行動パターンはわかっているのですか?」
「いつも午前7時15分、自宅の最寄り駅から3両目の上り列車に乗る事が確認されている。乗車時間は18分、6駅だ」
「その間ですね」
「そうだ、頼むぞ。健闘を祈る。この国のために」
国のために。ずいぶんと重たい言葉だけど、今ここで何とかしなければこの国の将来にかかわるから。私はもう迷わない。国のためにこの命を捧げるって決めた。だから中山英男、悪いけど私はあなたを仕留める刺客になる。許して欲しい。
当日、午前7時15分。ターゲット、中山英男が乗り込んできた。事前に受け取っていた情報の通り、3両目の上り列車に。私は中山に、自然を装って近付いた。そして、私は今、国家公務員の殻を脱ぎ捨て、刺客になった。中山の腕を強く握り締め、高々と持ち上げ、そして高らかに声を上げた。
「この人痴漢です!」
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