婚姻届
「課長っていわゆるロリコン……」
俺は四十四歳、普通のサラリーマンだ。あえて言う事があるとすれば今独身だと言う事ぐらいだ。それなのに今、俺の社内での立場は非常にまずい。あの女のせいで俺はロリコンと言う事にされている。やかましい、俺のストライクゾーンはプラマイ4歳だ! って言ったらまあ驚かれるの何の……。
「お前がそれならそれでいいよって」
そんでその女に親はどう言ったんだって聞いたらこれだ、ったくこいつの親はどんな教育をしてんだ? こんなあと三十年もすりゃただのジジイに成り下がるような奴がそんなにいいのかね。
「法律的には問題ないから!」
十七歳の女にどうして迫られなきゃならねえのか、教師でも何でもない俺に十七歳の知り合いはいねえ。それなのにこいつは人の連絡先を調べ上げて、ある日ずかずかと入り込んで来て婚姻届を俺に突き付けて来た。あのな、結婚って奴は署名人が必要でな、
「親のお兄さんに頼みました」
ったく、こいつもこいつならこいつの親類も親類だ……十七歳だなんて半分子どもみたいなもんじゃねえか、確かにもう半分は大人だが、今こいつがやっている事は半分の子どもの部分だ。大人の事情って奴を全く分かってないガキの振る舞いだ。とっとと帰れ……と言おうとしたらこいついきなり服を脱ぎ出しやがった! ちくしょう、胸も尻も子どもとは思えねえほどにふくらみやがって! 生意気なやつだ!
「サインしてくれないんならわかってるわよね!」
裸で家から出てって俺に襲われましたとでも言う気か!? それって……いやまあその、お前がそこまでの覚悟とは知らなかったよ、頼むからもうちょい時間をくれ……。
「今度だけだよ!」
その時はおとなしく帰ってくれたが、その頃から俺が女子高生に手を出していると言う噂が広まり始めた。あいつが言いふらしたんだろうと思って問い質してみると、何のためらいもなくそうだけどと言いやがった! いったんロリコンだなんて言われようもんなら、まともな女は寄り付かねえ。社内での評判もスカイダイビングのように急降下した、ったくどんな育て方をしてやがんだあいつの母親は!
「観念した方がいいんじゃない……ですか?」
で、抗議の電話を突き付けてやったらこれだ! 何が観念しろだよ! いら立っているのか諦めているのかどっちなんだよ! ったくああ言う事を言う奴と一緒に過ごすのかと思うと胃が痛くなる! でもそうしないとますます俺の評判が落ちる……ったくどうすりゃいいんだよ!
「他に方法がなかったんだもん」
最初に乗り込んで来た時からひと月後、あいつは俺の部屋に入るなりいきなり下着姿になった。サインするか通報されるか、どちらかを選べと言う事だろう。どうしてあんなでたらめを流したんだ、年上らしくそんな横車の押し方があるかよと丁重にたしなめようとしたらこれだ。
何がだもんだよ、そんな人を殺せそうな目で甘えても全然保護欲が掻き立てられないぞ……と言うか実際、こいつがこの姿のまま外に出て中で俺に襲われましたとでもわめき散らせば俺は社会的に死ぬ。それだけは嫌だと言う訳で俺はついに観念して、婚姻届にサインをした。ああ、なぜ無駄に意地を張ったんだ俺のバカ! わかったよ、俺が悪かったから……あーあ泣くなっての……笑いながら泣くのをやめてくれよ……頼むからさ……。
「その子ってもしかして……」
何だよその目は、おいお前言ってやれ、いや言ってあげてくれると嬉しいな……。ったく六年間も置き去りにしてて悪かったな、本当……ただとりあえず、職場にまで乗り込んで来るのはやめてくれよ……。
「私は万理、この前お父さんに婚姻届を突き付けてお母さんともう一度やり直すように迫った高校二年生です!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます