ショートショート集
@wizard-T
アルバイト
「老人介護って聞いたのに、話が違うじゃねえか」
「いいんだよ」
大学の友人から老人介護のアルバイトがあるから来ないかと言われ、俺は海岸沿いまでやって来た。そこで老人ホームに入って何かするのかと思いきや、そいつは海岸へと俺を連れ込んだ。あのなあ、もう九月も半ばだぜ。海水浴客なんか本当だーれもいやしねえ。
「まあ助けると思ってさ」
「いいけどよ」
にしても汚ねえもんだねえ、シーズンオフの海岸ってのは。ゴミばっかしで、本当にマナーって奴がなってないね。まあ、近所のご老体の皆さまに代わって俺らが海岸をきれいにすると思えば腹も立たねえ。
そんでたっぷり二時間、数人がかりで海岸のゴミをほとんどビニール袋に放り込んだ。海岸に残ってるのは砂と海草だけ。まあ、これはこれで気持ちいいぜ。
「お疲れ様です皆さま、はい給料」
ん?二時間で一万円?交通費込みとしてもバカ高いぞ。
「今回はお前の番なんだよ、オレらは二千四百円で上がり」
七千六百円をくれてやって俺に何をさせようっつーんだか。とにかく、リーダーらしきオッサンから概要を聞かされた俺は、一人その場所へと向かった。
俺はさっき片付けた缶ジュースと同じ種類の奴を飲みながら、歩いた。そして飲み干した所で、空き缶を投げ捨てた。
「コラー!!」
その缶の音を聞いたのか、とんでもない叫び声を上げながら誰か出て来た。今や希少種って感じの頑固オヤジの風体の老人。これでバカモンとか言ったら文字通りあの国民的オヤジだぜ。
「申し訳ありません」
「申し訳ありませんで済むか! だいたい最近の若いもんは、公道とゴミ箱の区別も付かんのか! まったくわしがお前らぐらいの頃は外で物を食べるような事さえ蛮行とされていてだな、まったくどこまで風紀が乱れれば気が済むのか! 少子化とか言うがな、お前のような礼節のない男になびく女はおらんわ! わかったら二度とするな! いいな!」
その間ずっと、あのオヤジはほうきで俺の背を殴り続けて来た。俺が空き缶を拾って二分ほど歩き出して自販機の隣のゴミ箱に捨てると、あいつが出て来た。
「老人介護って意味がよくわかったでしょ?」
あー、よーくわかったぜ。言っとくけど俺はこんなバイト、二度とやらねえからな。ってかよくもまあ気付かねえもんだよな、この二ヶ月で二十人目らしいっつーのに。
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