帰り道
一
眠い目を擦りながら、着替えを終える。襖を開けた。トーストの匂いが鼻腔をくすぐる。
目の前には新聞紙に視線を落とす父さんの姿。
「おはよう」
諸々の理由で挨拶自体が面倒だったけど、しないのもどうかと思い口にした。
「ああ」
素っ気ない返答。それでいて、こちらが挨拶をサボると怒りだすのだからやってられない。俺は父さんから目を離したあと居間を通って洗面所へと行こうとする。
「あら、おはよう」
途中で台所の方から母さんの柔らかい声。
「うん、おはよう」
応じてから洗面所へ。鏡を見れば眠そうな目をした冴えない男。いつも通りといえばいつも通りだな。そんなことを思いつつ、ばしゃばしゃと両掌ですくいあげた水を顔に押し付けていく。なんだか、思ったより冷たい。最近、気温が下がってきているのも影響しているのかもしれなかった。顔をあげる。うん。ちょっとはマシになったよな、たぶん。
居間に戻ると父さんは新聞紙を下ろしてトーストを齧っている。テーブルの横のテレビ画面にはニュース番組。俺も自分の席についてから、いまだに台所にいるお母さんに、いただきます、と声をかける。
「どうぞ」
どことなく弾んだ声。訝しく思いつつ、テーブルの上にあったイチゴジャムをパンに塗りたくっていく。耳の中にはニュースキャスターの規則的な声が入りこんできた。
「司郎」
唐突に父さんが話しかけてくる。思わず背筋を伸ばした。
「なに」
「今日と明日は文化祭なんだってな」
低い声を耳にして、とっさに頷く。父さんはいつも通りの厳つい顔を更に険しくしてから、
「今は大事な時期なんだ。あまり羽目を外しすぎるなよ」
釘を刺してきた。元より、そういう人ではあったものの、ここ最近は輪をかけて、いちいち俺の生活自体にダメ出しするようになってきた気がする。
「うん、わかってるよ」
素直に応じる。元々、文化祭だからといって、殊更遊び倒すつもりもない。けど、父さんは俺の言っていることを信じられないみたいで、本当か、と尋ね直してくる。
「本当だよ。そもそも、普通の授業がないってだけで、いつもとそんなに変わらないしね」
「普通の授業がないということは、受験勉強のための時間が幾分か減るということだ。そういう弛みがいつか命取りになるぞ」
どうやら、いつもと変わらない、という言葉自体が父さんの神経を逆撫でしたらしい。人間、どこに地雷があるかわからないものだなんて思いつつ、ジャムを塗り終わったトーストを一口。
「ちゃんと話を聞いてるのか」
「聞いてる。ただ、登校までそんなに余裕があるわけじゃないから、食べながら聞いた方が効率的かなって思っただけだよ。それに父さんだって出勤までそんなに時間がないでしょ」
やんわりとした物言いで矛をおさめてもらおうとする。けど、父さんは目を吊上げて苛立ちを露にした。
「司郎がもっとしっかりとしていれば話は終わる。だいたい、お前は頭から爪先までふわふわし過ぎていて、何事にも誠意が感じられないんだ」
朝から随分とご立腹な父さん。これは俺のせいだけでなく職場かなんかで嫌なことでもあったんだろうか。邪推しつつも、少しだけ痛いところを突かれてへこむ。
「これでも、やるべきことがあれば誠意を持ってとりくんでるつもりなんだけど」
「そんなたるんだ顔でか。信じられないな」
苦笑する父さん。たるんだ顔に生まれたのは、半分くらいは父さんのせいだと思うんですけど。そこら辺についての見解を窺いたいんですが。皮肉を心の中で押さえこむ。とはいえ、このままだと話が長引くばかりで、登校どころか朝食すら終えられそうにない。さて、どうしたものか。
「いい加減にしたら」
目玉焼きの乗った皿を二つ手にした母さんがやってくる。
「いい加減にするのは司郎の方だ。僕は司郎に受験生の心構えというものを説いてるに過ぎない」
「それはわかってる。ただ、台所で聞いてたかぎりだと、今日の話の大半はあなたの言いがかりに聞こえたんだけど、そこのところどうなの」
母さんは眼鏡越しに視線を尖らせていた。その目を見て、姉ちゃんを思い出し、やっぱり親子なんだと思う。
「言いがかりじゃないさ。君にもわからないか。今日の司郎はいつになくたるんでると」
「それはそうでしょ」
矛をおさめない父さんに、母さんが呆れ顔で応じた。
「あなたの言ったとおり文化祭なんだから。多少ははしゃぐのが自然じゃない」
お母さんの物言いに、自分のことであるはずなのに、そういうものなんだ、と思う。というよりも、俺自身はそれほどいつもと違わないつもりなんだけど。
「そういうのも含めて、今の時期は兜の緒を締めるべきだと言っているんだ」
「それは過剰反応でしょ。ずっと張りつめてたらどこかで緊張の糸が切れてしまって逆効果になるんじゃない」
「そこまで頑張っているようには、とてもじゃないが見えないがね」
「それはあなたの目が節穴なんでしょ。シロ君はシロ君なりに頑張っている。あなただって、一学期の時は認めていたとおり。シロ君はリーちゃんじゃないんだから、同じやり方がいいとはかぎらないし」
目の前で巻き起こる子供の教育を巡るやりとり。槍玉にあげられている身としては、朝からめんどいな、という気持ちが強かったものの、かたちはどうあれ、お互いに父さんも母さんも息子である俺を心配してくれているというのだけは伝わってきたので、邪険にもできない。それはそれとしてトーストが冷めそうだったので、機を見て少しずつ齧っていく。
それにしても、この手の話題になると、身近な大人はみんな姉ちゃんのことを持ち出してくる。姉の受験が終わってからまだ一年も経っていないから、印象が強く残っているというのかもしれない。けど、姉ちゃんを基準に真面目にやっているいないが決められているとすれば。なんだろう。少しだけもやっとする。
「梨乃が受験直前で志望校をふらふら変えたのもなにかと気を揉んだが、司郎みたいに一本に決まっているのに努力と気力が足りてないのもまた心配になるだろう」
「シロ君はリーちゃんと同じで自分なりに頑張っているって言ってるでしょ。あなたの物言いは親の落ち着かなさを何かと理屈をつけてみせて、子供にぶつけているようにしか見えないんだけど」
「ならば、なぜ結果に結びつかない。聞けば模試の判定も一向にあがらないそうじゃないか。それこそ、努力不足の証左だろう」
「模試で全てがわかるわけじゃないでしょ。本番まで努力を積み重ねて、爪先でも届けばいいんだから。少なくとも、私の目で見るかぎり今のシロ君に落ち度はないと思うけど」
「そう見える君の目こそ節穴なんじゃないか。ともかく、もっと気を引き締めていくべきだ」
「逆でしょ。今はシロ君に任せるべきなんじゃない。本人が相談してきた時にはじめて聞くべきでしょ」
親たちの議論は平行線のまま一向に終結を見ない。俺は二人をぼんやりと見ながら、やや固焼きの目玉焼きを平らげ、手元にあるコーヒーを啜る。砂糖も入れていないそれはただただ苦く、それでいて目が覚める味だった。程なくして飲み終わり、席を立つ。
「まだ話は終わっていないぞ」
再び母さんから俺へと意識を移したらしい父さんは、こっちを睨みつけてくる。俺はテレビ画面右上の時刻表示を指差した。
「そろそろ時間だよ。話があるんなら帰ったらまた聞くから、今はこのくらいで勘弁してもらえないかな」
俺の言葉に、父さんは苦虫を噛み潰したような顔をして、そういうことなら、と引き下がる。さすがに実際に遅刻しそうともなれば配慮してくれるらしい。だとすれば、さっきまでの言は俺が真面目であればもっと短く済んだはずだ、というような物言いは、父さん的には本気だったのかもしれなかった。もっとも、父さんの望むような真面目な俺だったとすれば、こんな説教すらなかったのだろうけど。そんなことをぐだぐだと考えながら、歯磨きをすべく洗面所へと向かう。
「シロ君」
呼ばれて振り向けば、母さんは笑顔で親指を立てていた。
「高校最後の文化祭楽しんできてね」
うん、とでも答えたいところだったけど、さっきまでの話の流れだと父さんが再噴火しそうだったので、曖昧な笑顔でごまかす。父さんは依然として顰め面をしてこっちを睨んでいたのが少々気にかかったものの、さすがにこれ以上は時間が惜しいので、逃げるように洗面所へと向かった。
今日二度目の鏡を覗きこむ。ふと、さっき母さんに姉ちゃんとの共通点をみつけたのを思い出す。となれば、同じく血が繋がっている姉ちゃんと俺にも共通点があるのも当然だろう。似ている、と人に言われることはあまりない。ただ、逆に姉弟であるのを疑われたこともなかった。双子でもないかぎり、血の繋がりっていうのはこれくらいの按配なのかもしれない。
歯ブラシを口に突っこみ、そんなどうでもいい思考をする。その最中に、昨日来たメールの文面が頭に浮かんだ。
『予定通り明後日はそっちに行くよ。』
いつもとさほど変わらない事務的な文面。その上、聞いてた通りの内容だから意外さもない。けど、俺はとても嬉しかった。
二ヶ月とちょっとぶり。姉ちゃんに会える。
/
朝。教室の前に集められたあと体育館へと向かう。その最中に、例のごとく赤坂が列の前の方から手を振ってきては、担任の大村にみつかって怒られていた。懲りないな、と呆れたり面白がったりしている間に体育館につく。
壇上以外の照明が消された館内。校長先生とか地域のなんだかお偉い人たちから、注意喚起とかよくわからない伝統がどうだとかいう話。それが終わったあとに童顔の生徒会長が出てきて、どことなく緊張したような面持ちでマイクを握ったまま、少しの間黙っていた。けれど、程なくして覚悟を決めたように、文化祭の開会を大声で宣言する。
それからOPセレモニーがてらに舞台にあがった吹奏楽部の迫力のある演奏なんかを聴いたあと、ようやくクラス揃って退出。
教室の前に着いたあとはホームルーム。大村先生から学内の関係者のみで行われる今日と一般公開になる明日の文化祭に対しての注意と全力で楽しむようにという激励。それが終わってすぐに教室中が準備のために慌しくなる。
「シロー」
途端に歩み寄ってくる赤坂。体育館に向かう途中に助けなかった件で文句でも言われるんだろうか。そう勘繰った俺を、赤坂は怪訝そうな目で見てくる。
「午前中の受け付けはうちらの担当でしょ」
言われて、ようやく自分の役割を思い出す。文芸部とか受験とかでそれなりに忙しく、あとあんまり教室の方での自分の役割に興味がなかったのもあって、何をするかすらすっかり忘れていた。
「そうだったな。悪い悪い」
「しっかりしてよ。ただでさえ、シローはいつもぼーっとしてるんだから」
小さく溜め息を着く級友兼部活仲間。そんなにぼーっとしてるだろうか。少しばかり気にかかったけど、否定もできないため、今度から気を付ける、と返事する。赤坂はぱっちりとした目で意外そうに瞬きをした。
「珍しく素直だね」
「珍しくってほどでもないだろ。するべきことはするってだけだよ」
「あっそ」
何でもいいけどね。そう付け加えて、赤坂は教室入り口付近に設けられた受付へと誘導する。俺もまた後ろに続いた。
「同じ部活だからって担当する時間を一緒くたにされたけど、正直安直だよね。たしかにシローが相手だったら、退屈しないでいいけど」
「っていうか、こっちでもあっちでも赤坂と店番なのか」
明日の午前と今日の午後の一部を担当予定の図書館における古本市の店番を思い出す。そして、その時に一緒の係なのも赤坂だった。
「そうそう。やること自体は単純だけど、ずっと座っているのは座っているので疲れそうだよね」
教室前方に設けられた受付に腰かけながら、赤坂は大きく背中を伸ばす。俺は入り口手前に設けられた看板を見た。
「だったら、店の中でオバケでもやったら良かったんじゃないの。あれってたしか志願制だっただろ」
目の前にある黒く塗られた看板には、白い体で黄色い目をした幽霊に虫捕り網を持った子供が襲われている絵が描かれていて、その上で血を模したレイアウトで、オバケ屋敷と書かれている。やや、古いイメージな気はしたものの、これはこれで可愛らしくていい。
「いやいや。うちは考えるのと文章書くのは好きだけど、そこから先の小道具とかオバケの役とかは面倒くさいって。それになんか、こういうののオバケ役って、驚いたり面白半分なお客さんに殴られたりするらしいし」
たしかにそうらしい。っていうか、実際小学生の時にやって殴られた覚えがある。ただ、これからオバケ役を演ずるクラスメートたちに睨まれるくらいの大声で言うあたり、赤坂も抜けている。
「まあ、楽しそうって言うのは否定しないけどね。なになに。もしかしてオバケ役やりたかったりしたの」
ニヤニヤしながら尋ねてくる赤坂。その前で掌をひらひらと振ってみせた。
「去年だったらお祭り気分で頑張ったかもだけど、今年はそんな余裕ないって」
そう告げて顔をあげるや否や、周りの視線がより鋭くなっているような気がした。隣を見れば、赤坂が呆れたようなじと目を俺に向けている。
「シローさ。もうちょい、空気読もうよ」
言われてすぐ、自分もまたオバケ役のクラスメートに配慮しない言動をとっていたことに思い当たる。
「この忙しい中、オバケ役を買ってでてくれた人らの気持ちを考えずにいたかもしれないな。気を付けるよ」
「うんうん。シローはちゃんと反省できてえらいえらい」
途端に偉そうな態度で俺の頭を撫でだす赤坂。似たようなことを口にしていた赤坂だけには言われたくない。そんな気持ちがなくもなかったけど、今いってもせいぜい俺のほんのかすかな鬱憤解消にしかならない気がしたので飲み込む。
こんな調子で時間が進むとすれば、色んな意味で愉快な文化祭になりそうな気がした。
「赤坂さんに水沢君」
小走りでやってきたのはクラスメートの村中だった。さほど話したことはないけど、授業中の受け答えがしっかりしているという印象だけは残っている。このぼんやりとした印象は、体型が中肉中背だったり、やや平べったい顔、薄いとも厚いとも言えない唇、一重瞼といった地味な外見が積み重なった結果かもしれない。どこかの名作じゃないけど、特性のない女、みたいな。いや、それを言うなら特徴のない、か。
「どうしたの緑ちゃん」
おそらく、赤坂が今呼んだのが下の名前なのだろう。よく覚えてないからそう当たりをつけていると、村中は眉をわずかに吊りあげた。
「今はまだ誰も来てないからいいけど、本格的にお客さんがやってきたら、私語は少なくね」
そんな注意までいたって普通のもの。ここまで来ると普通過ぎて逆に印象に残る気がした。
「うん、わかったよ。ちゃんと真面目にやるから」
クラスメートの注意を快く引き受ける赤坂。しかし、俺はこの手の発言がすぐ破られることを三年近い付き合いで察している。現に似たような場面で、やめろ、と注意したことがあったものの、三歩歩いたら全てを忘れる鶏みたいにすぐに喋ったりふざけたりしだす赤坂を何度か見てきた。そんな赤坂の振る舞いをおそらく一年足らずの付き合いである村中の方も察しているのか、そうあって欲しいんだけどね、と溜め息を吐いてみせる。当の呆れられた赤坂の方は、ぽかんとしていた。
「水沢君も。楽しいのはわかるけど、あんまりはしゃぎ過ぎないでね」
村中はなぜだかより念入りに俺の方へと注意を促した。これは赤坂よりも信用されていないということだろうか。そんなクラスメートの判断が不本意だったものの、喋りだす赤坂に乗ってしまいそうだな、と思い、意外によく見られているのかもしれないと考え直す。
「善処するよ」
とはいえ、俺と赤坂の気質から判断するに、はしゃぎ過ぎないで振る舞うというのは難しい。結果、答えは玉虫色になる。
村中は目をつむりながら右掌で自らの顔を抑えた。
「善処じゃなくて、しっかり約束を守って欲しいんだけどね」
「そうだよ、シロー。もっと真面目にやりなよ」
いつの間にか注意されていたはずの赤坂が注意する側に回っている。
「その言葉、そっくりお前に返すよ」
「なに言ってんの。うちほど真面目に生きてる女なんてなかなかいないよ」
胸を張ってみせる赤坂。果たしてどこまで自分が見えた上でこんなことをほざいているのか。一度、頭を切って除いてみたかった。とはいえ、村中の注意を鑑みれば、俺も赤坂とさほど変わらない残念な人間と見られているらしいし、案外それは当たっているのかもしれない。
「仲いいんだね、二人とも」
薄く笑う村中。本心ともお愛想ともとれそうななんとも微妙なラインだった。
「そりゃあね。同じ部だし、ファン第一号としては、仲良くしたいと常々思ってますよ」
などと言って肩に手を回してくる赤坂。今日は舞いあがっているせいなのか、いつにもましてスキンシップが過剰だった。
直後に村中は首を捻る。
「ファンってどういうこと」
そこは突っこまないで欲しかった。薄っすらと顔が熱くなる俺の目の前で、赤坂は嬉々として、よくぞ聞いてくれました、と胸を張る。
「司郎の書く小説のファンってことだよ。他に誰も公言してないし、うちが第一号で文句なしでしょ」
三年近くの付き合いがあっても、人前でこう堂々と言われるのはけっこう恥ずかしかった。村中は、なるほど、と頷いてから、
「そんなに面白いんだったら私も読ませてもらおうかな」
とてもありがたくはあるものの、緊張を強いることを口にする。赤坂はうんうんと満足げに頷くと、
「いいねいいね。ファンが増えてくれると嬉しいね。だったら、文化祭中に図書館に来てよ。文化祭号を無料配布してるから大歓迎だよ」
とびきりの笑顔を村中に向けた。村中はやや引き気味になりつつも、時間ができたら行くよ、とゆるやかな約束をする。途端に胃が絞まるような感覚とともに、果たして部外の人間が読んで堪えられるものを書けているだろうか、という不安が押し寄せてきた。既に書かれてしまっているのだから、今更心配したところでどうにもならないという自覚はある。とはいえ、何度人に読まれたところで、人から見てまともなものが書けているのか、という不安は消えない。新しい読者を得るたび、新しい話を書くたびに、同じような気持ちは常に押し寄せてきた。
とはいえ、そういうのはけっこう割りきってるっぽい姉ちゃんですら一喜一憂してるっぽいしな。そんな風に身近な例をあげて心を安定させようとした。
直後にスピーカーからがさごそとした音がして、これより文化祭を開始させていただきます、という放送部員だか生徒会だかの声が響き渡る。途端に廊下が沸き立つような喧騒と熱気が空気越しに伝わってきた。
「それじゃあ、二人とも。午前中ずっとは大変かもしれないけど、受付をよろしくお願いね」
村中も本来の趣旨を思い出したのかそう告げたあと、オバケ屋敷と化した教室内へともぐりこんでいく。その後ろ姿を見送ったあと、あらためて隣の赤坂の方を見た。
「それじゃあ、緑ちゃんの期待に応えるとしますか」
気楽な返事に頷いて正面へと向き直る。まだはじまったばかりだというのもあり観客はいない。というよりも、時間が経っても来ないで欲しいと期待している。
メイドや歌声やゲームといったカフェの類。焼きそばやりんご飴といった飲食関係。音楽や演劇を中心とした体育館のステージ演目。そんな目立ちそうな出し物の中でぽつんとあるオバケ屋敷には誰も注目しないだろう。そう思おうとして、背筋を伸ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます